大谷能生 「Jazz Alternative」(2017)

 ジャズ・マニアの愉しい幻想夢。揺らぐ空気の混ざり合うさまがクールだ。

 "Jazz Abstructions"(2012)に続く大谷のソロで、各種のジャズを切り刻んで混ぜたスタイルの第二弾。該博な知識と批評性を踏まえた作品だが、スノビズムのいやらしさが無い点が気持ちいい。たぶん知識を持つほどに楽しめる。
 本盤の元ネタをピンと来るだけジャズを聴きこんで、「これを持ってきたか」「こう処理したか」「いや、これを選んでは」と一人論じる愉しみを秘めている。これを二人で語れるなら、その人は幸福だ。同じような知識量と価値観を共有できる友人を持てるなんて。
 
 本盤は前作よりもっと、ミックスのドロッとした重たさに軸足を置いた。ビートやヒップホップ的なグルーヴは希薄で、クラブ対応よりもっと内省的もしくは部屋で聴くスタイルを選んだ。
 一曲だけ大谷のラップも入っているが、それはむしろおまけに近い。基本的にはトラックを切り刻み、一曲にまとめる実験室を覗くかのようだ。

 今作も発売元のページで解題を行った。元ネタや解説はこれだけで必要十分だ。
http://www.blacksmoker.net/interview/yoshio-ootani2/

 ここでは元ネタよりも本盤の方向性に触れる。本当は上記を読んでから聴いたほうが楽しみが増える。ぎたぎたに切り貼りしたトラックも含めて、過半数の印象はブレイクビーツとして素直に聴けるためだ。
 ビート性が希薄な曲はつかみどころ無い浮遊感に漂わされる。

 しかし一読後、本盤がいかにやばい選曲か分かる。ものすごくあからさまに遊んでる。 Youtubeでのマッド・ビデオではない。商業作品で本作ほどあっけらかんと料理した作品はそうそうない、と思う。

 本作が批評性を前面に出す、もしくは知識量を図るような高慢さを感じたら、たぶん鼻について聴けなかった。
 だが大谷はそのへん、不思議と心が広い。無邪気に音と戯れるさまを素直に出しつつ、選曲コンセプトは実にマニアックだ。その一方で、聴いてて嫌味が無い。

 全体のトーンは前作に比べて、少しばかり暗め。だが構築度はむしろ本作のほうが自然だ。がしゃめしゃに弄り倒した作品すらも、密やかなスリルが漂う。
 一曲をむやみに長くせず、淡々と曲を続けていく。肉感的さは希薄に、しかし大胆に作り上げた。

 本盤で大谷はジャズの再構築や時代の再構成を図らない。リズムの材料と割り切らず、自己表現の素材とも扱っていない。
 ただ、ジャズが好きで「混ぜたら面白いかな」って好奇心を軸に、本盤が作られている。

 いわば内省的なおもちゃ箱。それを実験的ないたずらで終わらせず、作品として昇華した。

 この盤は知識が無くても楽しめる。だが前述の解題を読んでみて欲しい。きっと、本盤を聴きたくなるはずだ。
 そして実際に聴いて、音を楽しむ無造作ぶりと楽曲へまとめ上げる構築美にしびれるはず。

 いやいや、逆にまず予備知識なしに本盤を聴いたほうが幸せかもしれない。知識の断片から「何をやってるんだろう」と戸惑い、改めて前述の解題を読んで膝を打つのも楽しそうだ。

 ちなみにぼくは前者だった。本作発売を、この解題で知ったため。だが本作は面白い。少なくとも前者のアプローチで楽しめた人間が、一人はここにいる。

 機材と材料があれば、同じことができる。だが本盤のようなセンスは誰もができない。
 アイディアの発想力と裏付けとなる知識量、そして制作力。音楽を聴きこみ知識が増えるほどにわかりづらくなる才能の所在を、本盤を聴けば痛感するだろう。凄いな。

Track listing:
1. False Start
2. Third World Pacific Stream
3. MILFORD MUSTANG
4. Fragment of I.T.
5. Company Week
6. AEOC
7. ESP/LSD/ECM
8. WR
9. MJQ
10. What's Mwandici?
11. LACY・PARKER・BRAXTON
12. PAUL et ANNETTE
13. Reincarnation of Lovebird
14. Mexican Corpse
15. Nana in Heliocentric Worlds

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