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TZ 8347:John Zorn "Commedia Dell'arte"(2016)

 幅広い音楽性を組曲形式にした、現代音楽寄りの新曲。

 2015~16年に、全てNYのEastSide Soundで録音。作曲も14~16年に行われた。ほとんどのミックスは、ハウス・エンジニアのMarc Urselliが担当。編成もアプローチもまちまち。初演のライブ録音ではない。作曲の過程で記録的に収録したものか。そのくらい、今のゾーンはのびのびと活動できる余裕がある。

 16年1月15日付でゾーンのフェイスブック投稿によれば、初演は同年1月24日にNYのグッゲンハイム美術館で行われた。20人ものミュージシャンをすべてそろえたらしい。

 その日の出演者は以下の通り。微妙に、本盤参加とは異なる。
Tara O’Connor, Josh Rubin, Rebekah Heller, Kyle Armbrust, Sarah Brailey, Eliza Bagg, Rachel Calloway, Kirsten Sollek, Steve Gosling, Shanir Blumenkranz, Tyshawn Sorey, American Brass Quintet, Jay Campbell, Mike Nicolas, Jeff Zeigler, Mihai Marica

 本盤の表題「コンメディア・デッラルテ」とはWikiによるとイタリアで仮面を使用した即興演劇で、16~18世紀に欧州で流行という。類型的なキャラクターがベタなストーリーでギャグを中心にした大衆演劇らしい。

 ゾーンは5曲をそれぞれのキャラクターになぞらえた。
 (1)はハーレクイン、アルレッキーノとも呼ばれる道化師。
 (2)とは流行を追う若者に使える女性の召使。
 (3)だと騎士と道化を足した役割、で良いのかな。
 (4)が騙されやすいお人よし。
 (5)は文字通り道化者のピエロ。

 どうやら脇役のおどけ役を並べた感じ。ゾーンのことだから楽曲にもそれぞれ共通モチーフあるのかもしれないが、ぼくの耳では判別できず。譜面をみたら分かるのかもしれない。
 つまりゾーンは2年かけてじっくりと、この組曲を作曲した。わずか30分余りの小品なのに、非常に手間をかけて。

 編成を変えることにも意味を持たせているのだろう。じっくりとゾーンの解説を聞きたいものだ。
 楽想は緊張感ある跳躍が頻出する、現代音楽寄り。ただし不協和音は少なめで、耳障りは良い。むしろダンスや現代バレエ曲に似合いそう。

 編成はまちまちで演奏には向かない。よく初演したよ。
 (1)はクラシックの室内楽編成で木管3重奏(bassoon,Cl/B-Cl,fl)とビオラ。クラリネットはバスクラも持ち替える。つかみどころ無い涼し気で緊張感ある旋律が飛び跳ね、ユーモラスさは希薄だ。
 きっちりと作曲され、整って唐突に変化し続ける。主旋律を弾く楽器はくるくるとせわしなく交代した。テンポも頻繁に変わり、たぶん変拍子。慌ただしくも美しい楽曲だ。

 (2)は無伴奏の女性四声。過去数作のゾーンによる同種の編成に似た、幻想的な和音が淡々と続く。スキャットで歌われるメロディは親しみやすくも神々しい。
 人の声を使うだけあって、あまり無茶な旋律の飛翔は無く、弛緩はしないが厳粛に聴ける。でも少し、ポピュラー寄りの音使いかな。

 (3)は一転、ピアノ・トリオのジャズ。フリー気味に走るが、ゾーンの疑似バンドよろしく指揮をゾーンが行っていそう。
 ベースのクリスチャン・マクブライドと有名どころを起用の一方で、ピアノとドラムは若手を配置した。二人とも過去に何作もゾーンと共演してる。むしろマクブライドのほうが豪華すぎてバランス取れず。
 鋭い勢いのジャズで、前のめりに疾走する。(2)の浮遊する世界観と落差が激しい。この極端ぶりも狙いだろう。

 (4)は金管五重奏。溌剌とした英国風味のアンサンブルを、丁寧にクッキリ表現した。マサダに通じるセンチメンタルさを漂わせながら、破綻させず繊細に紡いでいく。
 ゾーンはきっちりこういう聴きやすい曲も作れる。あえていつも、極端さを追求してるだけ。
 美しくしなやかで、陰りの無いまっすぐなファンファーレ風の楽曲だ。きちんとクラシカルな演奏で、聴いてて心地よい。

 (5)でもう一度、現代音楽の世界へどっぷりと。チェロの四重奏と変則な編成を取った。
 たぶんすべて譜面と思うが、秩序を壊し続ける跳躍と、連続を許さない場面転換が連発する。弦は軋みまくるし、ピチカートから弓の変則奏法までせわしない慌ただしさもあるけれど。やはりむやみな不協和音に走らず、明瞭な楽想だ。
 二分半過ぎにチェロの独奏でふわりとメロディを浮かばせる場面から、猛烈な弓のかきむしりに急降下する場面が、特にスリリングだった。

 どの曲も共通性無し。派手で細かく構築されている。組曲の必然性を感じさせないところが、逆にゾーンらしい。若いころからゾーンはカード・システムを筆頭に、無秩序なミクスチャーへこだわり続けてきた。ネイキッド・シティを筆頭に瞬間的なミクスチャーに美学を込めた。

 実績を築いた今だからこそ、実現可能な楽曲だ。あえてライブ録音でなくスタジオ収録でのクリアな完成度を残したところも、ゾーンのこだわりか。
 単に当日、ライブ録音できなかっただけかもしれないが。

 ゾーンのファン向け。しかしじっくりと分析しながら聴いても楽しそうな作品だ。

Track listing:
1 Harlequin 6:58
2 Colombina 5:54
3 Scaramouche 6:20
4 Pulcinella 5:19
5 Pierrot 7:36

Personnel:
1 Harlequin
Bassoon - Rebekah Heller
Clarinet, Bass Clarinet - Josh Rubin
Flute - Claire Chase
Viola - Kyle Armbrust

2 Colombina
Voice - Eliza Bagg, Kirsten Sollek, Rachel Calloway, Sarah Brailey

3. Scaramouche
Bass - Christian McBride
Drums - Tyshawn Sorey
Piano - Steve Gosling

4. Pulcinella
Ensemble - American Brass Quintet
Bass Trombone - John D. Rojak
Horn - Eric Reed
Trombone - Michael Powell
Trumpet - Kevin Cobb, Louis Hanzlik

5. Pierrot
Cello - Jay Campbell, Jeff Zeigler, Mihai Marica, Mike Nicolas

Harlequin (2014)
Recorded and mixed March 27, 2016 at EastSide Sound, NYC

Colombina (2015)
Recorded and mixed November 16, 2015 at EastSide Sound, NYC

Scaramouche (2015)
Recorded December 15, 2015 at Second Story Sound and mixed at EastSide Sound, NYC

Pulcinella (2015)
Recorded and mixed December 30, 2015 at EastSide Sound, NYC

Pierrot (2015)
Recorded and mixed October 31, 2015 at EastSide Sound, NYC

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