Edward Simon 「Latin American Songbook」(2016)

 純粋培養なラテンのしたたかさを、熱さや影まで美しく蒸留した。

 ベネズエラ出身で94年に初リーダー作をリリースのピアニストによる14thアルバム。自らのルーツを見据えたラテンのスタンダード曲集となる。
 デビューからあれこれレーベルを渡り歩いた。この辺が地に足の着いた活動がしづらい、今のジャズ・シーンの難しさか。ニューヨークのSunnysideへ13年に移籍、3作目が本盤となる。

 彼の作品は本盤で初めて聴いた。これまでトリオのレギュラー・メンバーはアルバムごとにじわじわ変えている。本盤では"La Bikina"(2011)などで共演歴あるAdam Cruz(ds)と、たぶん本盤が初共演のJoe Maritin(b)を起用した。

 サウンドはオーソドックスなラテン・ジャズ。歯切れ良くスパスパ切り倒す、小気味よい鍵盤が軸だ。ドラムも軽やかでシンバルやハイハットが弾む。それをベースが滑らかにつなぐ。
 ラテンのなまめかしくも涼やかなムードを丁寧に描いた。情感に寄らず、癖のないグルーヴィーさで毒をきれいにそぎ落とし、鮮やかかつクリーンに奏でてる。

 ぶっちゃけなところ、ぼくはもっと煙ったムードのジャズが好みだ。清廉潔白より粗や危うさが漂うほうが良い。だがジョン・ゾーンのラウンジ・ジャズをあれこれ聴いてるうちに、こういう破綻無い演奏も良いかなと近年は思い始めてきた。歳を取ったってことかも。保守的になったってわけか。

 ピアソラの(1)を筆頭に有名どころの作家がずらり。一国を深く、ジャンルを突き詰めずに南米各国を飛び回り、ラテンからボサノヴァ、サルサにタンゴと横断かつ俯瞰で見るスタイルを取った。
 だからアルバムの印象は軽い。重厚に沈まず、幅広く羽を広げた爽快感あり。器用なピアノで、どんな音楽でもそつなくこなす。
 確かなテクニックに裏付けされた、流麗で隙の無い演奏だ。

 ドラムの煽り具合がかっこいい。ピアノは鷹揚に受け止め軽やかにいなす。ベースは冷静にグルーヴを高めた。
 闇や揺れる気持ちまでもが、夾雑物を削ぎ落して整えられている。
 熱いバトルや実験が主眼ではない。豊かな音楽性を咀嚼し、きれいに奔出させる。職人芸の確かさを見事に封じ込めたアルバムだ。

 切なさが強烈に封じ込められた。溢れる想いは弾けそうに詰め込まれてる。溜めずにどんどん疾走した。たとえバラードでも、性急さが潜んでる。

Track listing:
1 Libertango 6:35
2 Alfonsina Y El Mar 9:05
3 Capullito 9:12
4 Volver 8:46
5 Gracias A La Vida 7:33
6 Chega De Saudade 6:50
7 En La Orilla Del Mundo 8:10

Personnel:
Edward Simon(p), Joe Maritin(b), Adam Cruz(ds)

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