Prince 「Emancipation」(1996)

 ルールに囚われない男、プリンスがのびのびと自由奔放にまとめた3枚組の傑作。

 ワーナーの契約から自由になり、EMIからワンショットでリリースした。正確にはTAFKAP時代の名義となる。
 発売当初は地味だな、と思った。ボリュームの多さにピンとこなかった。だが歳を経るにつれ、じわじわと良さがわかってきた。ハマってきた。ようは、ピントが合ってきた。
 プリンスは時代を2歩、先に行く。最初は分からない。わかったような気がして、さらに先を行っている。ああ、プリンスが亡くなったのが切ない。今ならどんな先を見ていたろうか。

 しかしこの盤はスルメだ。CD一枚に選曲したら魅力が増すかな、とふと思う。プリンスはあまりにも、何にも縛られずに本盤を作った。

 ワーナー時代の弊害であり業績は、リリースに第三者の意見があったこと。よかれあしかれプリンスはあの時代に完全な自由を得ていたら、なんだか多作の凄い人って評価に留まり、カルト・ヒーローになったろう。

 想像してみるといい。"Parade"(1986)のあとに2枚組の"Dream Factory","Camile"が出て、"Black Album"(1988)が出てたifの時代を。
 "Love Symbol"(1992)のあと,3枚組"The Dawn"(1994)、もしかしたら"The Vault - Volumes I, II and III"(1995)まで出た仮定の世界を。
 たぶん、当時よりもさらに低い評価しか得られなかったろう。あまりに膨大すぎて。 

 ワーナーは商売人だ。ぎりぎりと溢れるプリンスの才能を絞り上げた。年間1枚程度にアルバムを抑え(!)、イメージやビジネスの発散を抑えた。ぼくはそれが大成功だったと思う。そしてプリンスが自由に録音できる環境だけは保持できたことも良かった。
 あとは今や、倉庫の扉を開けてくれるだけなのだが・・・。そしたら何も文句ない。今や、プリンスは過去になってしまった。それを生かし続けるのは、作品とそれを聴く人の意思だけだ。

 話を戻そう。プリンスは膨大なリリースを望みながら果たせず、ワーナーと闘争のすえ去った。矢継ぎ早にリリースをばら撒いて。本盤だって"Chaos and disorder"のリリース直後だ。創作力ならプリンスは困らなかった。聴くほうだけだ、ついていけないのは。
 だがプリンスはビジネス面も含めて、ワーナーとは決別した。そして創作力を思い切り破裂させる"実験"を行ったのが本盤になる。

 プリンスはむしろ構成力に長けている。前述で膨大なリリースした"if"を挙げたが、セールス面はともかく作品面でショボいことはなかった。プリンスのファンであるぼくの贔屓倒しかもしれないが。とにかく、プリンスは「アルバム」の構成にこだわった。一つの色にアルバムを染めながら、バラエティさを意識してる。

 過去作でコンセプトにひたすらこだわったのが"Black Album"と思う。だからこそ、プリンスはあの盤を没にしたのかもしれない。だとしてもあそこにはバラード一曲入れてバランスは意識しているが。

 ルールにこだわることすらも、さりげなく解放したのが本盤だ。
 プリンスはヒット曲にこだわった。だがそれを本盤では狙わなかった。

 ダラダラ書くと分からなくなりそうだ。まずプリンスが本盤で守らなかったルールを簡単に列記しよう。
 ・アルバム1枚にこだわる
 ・カバー曲を入れない
 ・エレキギターを弾きまくる
 そして最後に
 ・ルールを守る、こと。

 本盤は3部作であり、アルバムごとに緩やかなテーマ性を持たせている。だがそのルールすらもプリンスは守らない。
 おおざっぱに本盤を聴いて感じたのが、Disc 1がワンコード・ファンク。Disc 2が和音展開。Disc 3がテクノ・ファンク。
 プリンスは自分の個性を模索していたのかもしれない。肉体性とファンクを追求した80年代だが、歳を重ね老いを想定し、JBやP-Funkマナーに沿わない自分のスタイルを音楽で改めて構築図っていたと妄想する。

 その一つの解が本盤だ。プリンスは本来、マルチ・プレイヤーで生演奏にてすべて演奏できる。だがそれも古臭いと感じたか、打ち込みへだんだんシフトしてきた。過去作でもとりわけ本盤では、機械仕掛けの比率が高い。
 そしてエレキギターもほとんど目立たない。メロディックさはカバー曲に任せて、むしろプリンスはシンプルな構成での追求に軸足を置いた。

 プリンスのワンコード・ファンクは、びっくりするほど歌心に溢れてる。語るように歌う、プリンス流のヒップホップ解釈を武器にして。ミニマルな繰り返しでの酩酊さでなく、変化しない密やかな熱狂を実に見事に演出する。
 まさに"Purple Rain"あたりをきっかけに、"Sign o'the times"あたりで花開いた演出を、本盤のDisc 1ではたっぷり聴ける。

 一方でプリンスは和音感覚に優れてる。不思議に浮遊するファンキーな和音感はなんだろう。楽典に詳しければなあ。解釈できぬ自分が悔しい。
 この楽しさがDisc 2で詰まった。ぼくが今、ハマってるのが4曲目の"Emale"。あの不協和音なベース・ラインは何なんだ。ねっとり変な低音の動きなのに、楽曲を不思議に妖しく彩った。

 機械仕掛けのビートが暴れるDisc 3もカッコいい。もともとプリンスのドラム感覚は杭打ちのようにジャストなビートだ。しかしここまでカチカチに固まると、それはそれで爽快だ。

 そのうえでプリンスの真骨頂は、あらゆるルールを守らないところだ。ほとんどエレキギターが目立たないアルバムだが、時にはそれを平然と無視した曲を入れる。テーマかな、と聴き手に思わせてあっさり裏切る。つまり聴き手に安易な解釈を許さない。複合性と謎を常に秘めている。

 だから本盤は奥が深い。全部メロディを頭に入れて口ずさめるようになってから、初めて本盤をたっぷり語れるのかもしれない。ぼくはまだ、その域に達せてない。曲ごとの感想は別の機会にまわすことにする。

 本盤の3時間を1時間にまとめたら、たぶん本盤の魅力が凝縮されるだろう。ワーナー時代なら、そうされてたはず。スタッフたちに。
 ワーナーから解放されたからこそ、本盤は生まれた。

Track listing:
1-01 Jam Of The Year 6:10
1-02 Right Back Here In My Arms 4:43
1-03 Somebody's Somebody 4:43
1-04 Get Yo Groove On 6:31
1-05 Courtin' Time 2:46
1-06 Betcha By Golly Wow 3:31
1-07 We Gets Up 4:18
1-08 White Mansion 4:47
1-09 Damned If I Do 5:21
1-10 I Can't Make You Love Me 6:37
1-11 Mr. Happy 4:46
1-12 In This Bed I Scream 5:40

2-01 Sex In The Summer 5:57
2-02 One Kiss At A Time 4:41
2-03 Soul Sanctuary 4:41
2-04 Emale 3:38
2-05 Curious Child 2:57
2-06 Dreamin' About U 3:52
2-07 Joint 2 Joint 7:52
2-08 The Holy River 6:55
2-09 Let's Have A Baby 4:07
2-10 Saviour 5:48
2-11 The Plan 1:47
2-12 Friend, Lover, Sister, Mother / Wife 7:37

3-01 Slave 4:51
3-02 New World 3:43
3-03 The Human Body 5:42
3-04 Face Down 3:17
3-05 La, La, La Means I Love U 3:59
3-06 Style 6:40
3-07 Sleep Around 7:42
3-08 Da, Da, Da 5:15
3-09 My Computer 4:37
3-10 One Of Us 5:19
3-11 The Love We Make 4:39
3-12 Emancipation 4:12

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