V.A. 「Computer Music Currents 5」(1990)

 現代音楽系の電子音楽コンピの第5弾。意外とポピュラー音楽の耳で聴ける。

 クラシック文脈での電子音楽は単なる響きを愉しむポピュラー音楽の音響系とは違う、知的もしくは論理的な作品背景がある。だがそれに釣られず、単に響きとして聴いてみた。
 このシリーズは独WERGOが89年から着実にリリースを重ねた。全部聴いたわけではないが、小難しい理論先行の音楽でなく音色として楽しめる楽曲もあって興味深い。全部で95年までに13作をリリースのようだ。廃盤なのかAmazonではプレミアがついている。
 ノイズや音響系が好きな人なら、見かけたら手に取って損はない。TZADIKの作曲家シリーズにある現代音楽よりも、聴きやすいかも。

 本盤は5曲入り。長尺2曲が冒頭に並び、いわゆるクラブのフロア志向でない淡々とした楽曲が続くため、集中力の意地が難しい。むしろBGM的に聴いたほうが良いかも。

 (1)のDenis Smalleyはニュージーランドの作曲家。ガムランへ影響受けたような音数の少なく、空白の多い電子音が続く。抽象的なアンビエント作品として聴ける。たまにメロディも浮かび上がるため、けっこうポップな親しみやすさあり。
 細野晴臣のモナド時代を、引き延ばして淡々と広げた感じ。小節感は希薄で、無秩序な電子音が現れては消える。同じ音色を使い続けず、場面ごとに音構成が変わるため退屈しない。ミニマル要素より幻想性を追求かのごとく。
 たぶんアカデミックな方向性のはずだが、チルアウトに向く前衛テクノとも聴ける。

 パリのINAと英East Anglia大学で録音された。もしかしたらタイトル通り、風切り音と電子音を混ぜたのかもしれない。CDがどっかに行ってしまい、ライナーを参照できず。

 (2)のMesias Maiguashcaはエクアドル共和国の出身。70年代に発表をはじめ、今も現役で活動している。
 本盤収録の楽曲は、チェロと打楽器、コンピュータを混ぜた。81~84年にパリのIRCAMで製作されたテープ音楽。鈍い電子音に木や鐘のパーカッションが鳴り、緩やかに弦が引かれる。いかにも前衛音楽な面持ちだ。
 形而上的なアプローチながら、木琴と電子音の絡みと低いチェロの軋みが混ざる冒頭の場面がきれいなため、意外に素直に聴けた。

 重厚で陰鬱なムードではある。だがコラージュ風に旋律の断片をチェロが奏で、淡々と電子音や打楽器が鳴る構図は、奇妙な異世界感が漂って面白い。5~6人で同時演奏かな。
 物語性が若干あり、25分の曲で場面転換を行う。ミニマル志向ではない。8分過ぎにチェロが自己主張をはじめ、みっちり沈むの電子音を背後にパーカッションと小さくバトルする。その後もじわじわと風景が切なく静かに展開を続けた。少しばかり彩りには欠けるけれど。
 大きめの音で聴いたほうが、作品のメリハリを楽しめるはず。ポスト・ロックでも通用するかな。

 (3)は80年にスタンフォード大学のCCRMA(The Center for Research in Music and Acoustics)で製作。Gareth LoyはLA生まれのアメリカ人で、数値的な楽曲を得意とするらしい。
 加速する風切り音と波打つ電子音。それこそ単調だがミニマルに行かず抽象的なまま時間を経過させている。なにかロジックあるとしても音からは読み取れず。
 4分過ぎにキラキラ輝く音色に変わり、耳触りが良くなってくる。次第に甲高い音が充満して緊張度合いは高まるので、チルには向かない。むしろサイケなムードに似合うか。
 次第に加速と次々に場面展開するため、ダークなテクノとして聴けるかな。ビート性は希薄。空気が吹き荒れ、ブワッと終わる。

 (4)の作曲者Kaija Saariahoはフィンランド出身。パリのIRCAM(Institut de Recherche et Coordination Acoustique/Musique:フランス国立音響音楽研究所)で84-85年に製作された。

 公的研究機関としてIRCAMが存在し、この手の音楽を作る環境支援してるのは恵まれてる。
 彼女も85年頃から作品発表をはじめ、今でも現役でCDリリースあり。

 きらきらと浮遊する電子音が漂う。うっすらと4拍子のミニマリズムを志向して、これもガムランに近いエキゾティシズムが透ける。途中でテンポが速まり空虚さを密やかに演出した。これも意外と心地よい電子音楽だ。逆にアンビエントを目的にしないぶん、わずかに強度を持つ静けさが響きに緊迫感を与えた。場面はちょこちょこ変わり、飽きさせない。

 (5)は80年の作品。これもIRCAMで製作、8や4トラック・テープで作られた。Jonathan Harveyはイギリスの作曲家で02年に逝去してる。英Sargasso他から、さまざまなCD作品を残した。09年にCD2枚にDVD1枚の生誕70歳記念盤もあり。

 アジアのエスニック風味とも、欧州の教会音楽ともとれる。西洋と東洋の響きをミックスさせコンパクトにまとめた。女性の歌声が細かく深く折り重なる。電子音楽的な響きもあるが、むしろ現代音楽として聴いた。本盤の中でもひときわ、心地よく素早い構成を味わえる。

 どれも冒頭に書いたように知的もしくは論理的な作品背景がある。しかし音楽として楽しめるのがポイント。ビート性を抜いて音の響きや飛躍する展開の妙味を愉しもう。

Track listing:
1. Denis Smalley Wind Chimes 15:18
2. Mesias Maiguashca FMelodies II 26:52
3. Gareth Loy Nekyia 10:00
4. Kaija Saariaho Jardin Secret I 10:38
5. Jonathan Harvey Mortuos Plango, Vivos Voco 9:00

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