Red Garland 「A Garland of Red」(1957)

 天才のさりげなく流麗なデビュー・アルバム。溌剌と指の回るピアノ・トリオだ。

 レッド・ガーランドはこの盤で軽やかに速いフレーズをコロコロとピアノからあふれさす。生き生きと、小粋なスインギーさを味わえるジャズだ。
 メンバーは当時のレギュラー・メンバー。マイルス・バンドから派生した顔ぶれで、テクニックはばっちり。むやみに音を埋め尽くさず、しかしグルーヴはたんまり。いいねえ。
 
 冒頭曲からシンバルの操りっぷりがクールだ。スワッとシンバルをスティックで軽くこする音が、生々しくカッコよかった。
 別の曲ではがりがりとアルコでベースを軋ませる勇ましさも良い。
 アレンジはしっかり施され、単なるジャム・セッションではない。テーマの展開からソロの行き方などは明確にコントロールされている。

 主役はピアノ。しかしドラムもベースも見せ場あり。我を張る斬り合いでなく、丁々発止。優美にソロで自己主張をふっくら花開かせた。

 本盤がガーランドのデビュー・リーダー作。やはり気負いはあったろう。端正に整ったジャズの美学と、さりげなくテクニックを決めるスマートさが味だ。
 全8曲中オリジナルは(8)のみ。後はスタンダードを並べた。親しみやすく、それでいて演奏の違いが分かりやすい。
 しかも最後の(8)は自作曲。これは7分半越えで、40秒くらいの差ながら本盤中でもっとも尺を取った。 ここでは同じフレーズを素早く繰り返し、テクニック披露寄りのフレージングも織り込んだ。
 デビュー盤ならではの気負いと自己アピール、なおかつ前衛に走らぬバランスを感じさせる構成といえる。

 ガーランドのアイデンティティは、流麗な指の回りっぷりや冴えた作曲術、先鋭の前衛さではあるまい。着実かつ安定したアンサンブルだろう。これは現状維持ではない。いかにエレガントに磨き上げるか。しかもブルージーな感覚を底に秘めて。
 雑駁に吹き鳴らしたり、テクニックひけらかしというわかりやすい荒々しさとは逆ベクトルに飾るのは意外と難しい。

 ガーランドのインタビューは読んだことが無い。だが音だけ聴いてたら、そんな連想が浮かんだ。
 頼もしいバイプレイヤー。だからこそマイルスはガーランドを起用したのかも。自分を引き立てる最大の功労者として。
 別にへたっぴなわけじゃ無い。派手に振り回すフレージングは無いものの、ここではけっこうガーランドが弾き倒してる。

 本盤は56年8月17日に録音。発売は57年1月まで温められた。当時のギグも重ねていたのかな。この組み合わせのまま、ガーランドはこの時期にいくつも音源を残してる。
 自分の名義だと"Groovy","Red Garland's Piano","The P.C. Blues","Revisited!"など。
 他にもJackie McLean"McLean's Scene"やArthur Taylor"Taylor's Wailers"も同じリズム隊だった。しっかりと息の合ったアンサンブルである。
      
 ガーランドの日本語Wikiでは「ボクサーという異色の経歴を持つ彼の音楽は、クラリネットなど管楽器から始まった。」とあっさり書くが、英語Wikiだともう少し経過が細かい。
 1923年テキサス生まれで41年の18歳でクラリネットやアルト・サックスで音楽の勉強を開始、のちにピアノへ転向という。

 ガーランドの演奏特徴で「ブロックコード奏法」が良く記される。ぼくは詳しくないが、メロディのコードの一部を左手で弾き、和声をふくよかに多用する演奏のことらしい。ようするに楽典の知識と、瞬時に実現できる演奏力の双方が求めれられるはず。
 ジャズ・ピアノ界隈でブロック・コード奏法がどのくらい一般化か知らないけれど、少なくともガーランドの代名詞になるくらい珍しかったと思われる。

 にもかかわらず、ガーランドがピアノを始めたのは18歳以降?クラシック界隈では3歳からピアノを始めたエピソードがごろごろなのに。
 ガーランドのタッチは武骨なファンキーさを持つ一方で、もちろんたどたどしさはない。だから18歳以前にピアノを基礎教育で勉強だとしても不思議はないが・・・。
 
 演奏を始めてガーランドはすぐプロになる。地元のトランぺッター、Hot Lips Pageのバンドに入った。NYへ移動したのも20代そこそこらしい。ピアノを初めて数年しかたってないのに。
 小さなNYのクラブで演奏をアート・ブレイキーが聴き、翌日に彼がいたバンド・リーダーのビリー・エクスタインを連れてきたという。そこからガーランドはコールマン・ホーキンズやチャーリー・パーカー、レスター・ヤングといったビバップ系の名手と共演を重ねたとある。

 プロボクサーでガーランドが活動も、この時期らしい。ウェルター級で35試合以上もこなしたとか。ピアニストだろ?指が大切とか、そういうの無いのかね。記載がほんとなら、余技レベルの試合数でもない。

 そしてマイルス・デイヴィスのバンドに加入が55年の32歳。本盤録音はその翌年だった。Spider Burksとライブ盤"Spider Burks and the Miles Davis Quintet at Peacock Alley"の約一か月後。マイルスのスタジオ盤でいうと数ヶ月にわたった"Round About Midnight"セッションの合間。
 
 今は廉価版でデビュー盤から12枚をまとめたボックスもある。600円の安さ。しかもAmazonプライム会員なら無料で聴ける。なんか宣伝臭い書き方だが。

 これでガーランドの作品をまとめて聴いてると、演奏スタイルがすっごく高いレベルで安定を実感する。むしろサイドメンのイキりっぷりが興味深い。
 ガーランドはリーダーとして支配せず、鷹揚にサイドメンの茶目っ気も受け止めたか。リズム隊はまともに伴奏へ徹しない。さりげなく自己主張をかましてくる。

 ピアノは曲ごとにテンポをバラエティ持たせ、アルバム全体での起伏をしっかりつけた。
 アドリブの方向性もさまざま。時にしっとりとメロディを滴らせ、別の曲ではスインギーに明るくはずませる。

 本盤の時点でガーランドは、名を売る必要はなかった。トップクラスのバンドに在籍が伊達じゃないと証明のほうがプレッシャーだったろう。
 けれどもガーランドはむやみに焦らない。堂々たる姿勢で、ジャズを軽やかに披露した。
 グルーヴィさが心地よい。まさにピアノの和音が心地よい。時にファンキーな濁りを魅せながら、根本は暖かくふくよかだ。堂々として、トリオの丁々発止なやりとりが楽しい盤。
 
Track listing:
1 A Foggy Day
2 My Romance
3 What Is This Thing Called Love
4 Makin' Whoopee
5 September In The Rain
6 Little Girl Blue
7 Constellation
8 Blue Red

Personnel:
Red Garland - piano
Paul Chambers - bass
Art Taylor - drums

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