大友良英/Sachiko M/中村としまる 「Good Morning Good Night」(2004)

 音楽はどこまで意味を削ぎ落せる?即興と周波数を突き詰めた傑作。

 過去のこの日記でも本盤に触れたことあるが、再度書く。この盤はいろんな意味でエポック・メイキングだ。

 大友良英、Sachiko M、中村としまるが作り上げた、電子ノイズと静寂を取り混ぜた傑作だ。Improvised Music from Japanやオフサイトを軸に日本で独自の進化を遂げた即興が、音を削ぎ落し小音で紡ぐスタイルだった。音量が出せないライブ会場での苦肉の策と言われるが、ぼくは現場に行ったことないため実感持って語れない。
 
 本盤は二枚組のボリュームでリリースされた。中に詰まってるのはまさにノイズと同一する電子音を使った電子音楽だ。Sachiko Mがサイン波。中村はno imput mixing board。大友の演奏楽器が分からないが、ギターでなく電子楽器を使っていそう。
 
 本盤の音楽は徹頭徹尾、意味がない。それが画期的だ。静かにノイズが沸き立ち、空白と溶けながら進行する。電子音はノイズである。まさにガリのような意図しない音をメインに使う中村を筆頭に、Sachiko Mは単一のサイン派。大友も似たような音を操る。

 つまりこの音楽は、どこまでが意図でどこからが偶発もしくは意図しないノイズか分からない。再現性も不可能だし、たぶん意味もない。この音楽を完全に採譜して打ち込みで再現したとしても、そこに何の価値があるだろう。完璧に人力で再現するってプロジェクトなら、その無意味な努力に価値はあるけど。

 おそらく本盤の音楽はすべて即興だ。無造作にノイズを出し、時間が経過して終了に至る。あらゆるお約束が解除され、物語性や盛り上がりも皆無。凄まじく淡々と時間が流れていく。

 だからこそ、この音楽は驚異的だ。例えば無秩序に電子音を出す機械を数台並べても、本盤と同様の音列が出来上がる。そしてそれに、本盤とさほど違いもないだろう。
 「本盤の人間臭さが良い」と論理展開は、あまりに無理がある。発音と遮断が人間の価値判断としても、ここでは論理でなく美学のみで描かれている。

 本盤は小さい音で聴くと、日常と混ざる。例えばファンの音。窓の外のざわめき。身体を動かしたときに響く小さな破裂音。もしかしたら近所から聴こえる雑音もあるだろう。イヤフォンで移動中に聴いてたら、端子のノイズや雑踏の音も混ざる。
 それらはこの音楽を邪魔するか。ノイズを聴くために周辺の音を遮断する・・・なんと矛盾した論旨だろう。

 ならばボリュームをぐんっと上げたらどうだ。それでもこの音楽は成立する。実際、ある程度に音量あったほうが軋み音が明瞭になり、本盤のノイズはより多い情報量を持つ。
 だが小音でこの音楽に価値がなくなるわけもない。日常の静寂へ無意味にかかる電子音のスリルこそが本盤の醍醐味だ。
 起承転結もない。収録音楽として、いくぶんの音密度や流れはうっすらある。けれどそれは大いに耳を澄ませて物語性を探るのにも無理がある。

 まとめよう。本盤の音楽は演奏にも再現にも音量にも聴く環境にも時系列や物語性にも縛られない。とことんまで無意味なのに、作品としてしっかり成立している。

 ぼくはこの盤に無常性を感じる。わびさびでもいい。瞑想という内に籠るベクトルでなく、時空間に寄り添って流れていく鋭い虚しさを感じる。
 本盤を聴きこむことに意味があるのか。だがぼくは、本盤を何度も聴き返す機会がこれまでにあった。たまに、聴きたくなるんだ。耳の中を、頭の中を掃除する気がして。

 ノイズ音楽のカタルシスは、一番わかりやすいのが轟音での破壊衝動や直観的な歓喜だ。意味性を剥ぎ取る知的優越感でもいい。
 だがこの盤が至高と言い張るスノビズムの展開は、おそらく意味がない。共感されようとも嘲笑されようとも、選民思想へ恐ろしく合わない音楽だ。

 現在ならば、この音楽は一定の価値を見出す人が多い。リリースから10年以上たち、大友たちの活動も認知度や蓄積があるからだ。
 しかし発売当時、この盤は脅威だった。先鋭だった。ぼくがこの盤を知ったのは、発売から何年もたってから。だからすでに後追いだ。

 この盤をリアルタイムで聴けた人は幸運だ。リズムも音程も構成もすべてから解放され、それでいて聴いてると音像に意味性を探してしまう。
 全く無秩序で偶発的ながら、本盤はミニマリズムとも違う。同じ音や構成を狙わず、ただただ、即興的に電子音を重ねていった。

 無味乾燥か。芳醇とは言い難い。けれど退屈ではない。耳に優しくもない。サイン波を筆頭にけっこう尖った音色だ。ましてガリなどのノイズを求める人は少数派だろう。
 けれどもすべてを受け入れ、本盤を受け入れた時。コペルニクス的転回が味わえる。
 音楽は自由で、全てが音楽なんだと。生楽器やミュージック・コンクレートでない、電子音を中心にしたサウンドな本盤は、人工的な無機質さも音楽に取り入れた。
 電子のジャングルで機械仕掛けのざわめきを聴いてるかのよう。

 ぼくは電車で移動中に本盤を聴くのが好きだ。本盤が日常のノイズと混ざっていく瞬間がたまらなくスリリングだ。
 前にも書いたが「今、ぼくはこの音楽を聴けているのか」を考えたときの、強烈な現実喪失感の不安が、いつしか快感に変わる。価値観の転倒に気づき続ける傑作だ。

Track listing:
Disc 1
1.Good Morning (30:12)
2.Good Afternoon (7:59)

Disc 2
3.Good Evening (25:34)
4.Good Night (37:20)

All music by Sachiko M, 中村としまる, 大友良英
Produced by Jon Abbey

Recorded on August 2 and 3/mixed on September 30, 2003, by Otomo Yoshihide at Studio Wellhead-5, Tokyo
Mastered by 中村としまる

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