Eureka Moment (2017:Black Smoker)

 新たな方向性か、一過性のチャレンジか。波形編集からリミックスへ向かった盤。

 メルツバウが日本のレーベルBlack Smokerよりリリースの本盤は、次作の音源をリミックスした盤。秋田昌美は過去に自他のリミックス音源を色々発表しているが、正面から自作の素材をリミックスと銘打ったのは本盤が初。
 ラップトップ・ノイズの時代はおそらく、サンプリングした音源を呼び出してエフェクト加工や波形操作でハーシュ・ノイズを産みだした。音素材を編集して作品に仕立てたこともあったろう。

 今作の細かい創作環境は不明だ。リアルタイムに複数の音素材を並列に並べ、ミックス・バランスを変えながら作りこんだ風に聴こえる場所もあれば、冷静に波形素材を並べ、カット&ペーストで構築した箇所もある。
 テープ操作のようにノイズがいったん揺れ、スクラッチ風に軋み、時に音像は丸ごとうねっていく。

 メルツバウらしい多層オーケストラ・ノイズながら、聴感はむしろシンプル。様々な帯域にノイズはまたがるけれど、野太く大きな一本の流れが優先された。
 これまでのノイズ作品と違うのは、急激なスタート&ストップや場面転換があるところ。かなり肉感的な流れや物語っぽさ、首尾一貫を通底させた過去の作品に比べ、これはもっとデジタルで直感的な勢いあり。

 音素材は本盤のために作成したかは不明。エレクトロ・ノイズだけでなく、生ドラムの演奏もミックスされた。ただしビート性は希薄で、特にドラムは切り貼りが激しい。
 つんのめり、揺れる。ものすごく速いテンポでリズムを取れば一体感はあるけれど、ゆっくりめに拍を取ろうとすると、小節っぽさは感じられない。
 デジタルの無機質さより、アナログの蠢きを優先したかのよう。

 フェーダーを上げるような感じで、ひとしきりノービートが続いたあとミチミチと詰まった痙攣ビートが産まれるあたりの流れはDJっぽいな。
 
all music by Masami Akita
recorded & mixed at munemihouse,Tokyo 2016-2017

<全曲感想>

1 Eureka Moment 1 17:32

 いきなりハードにのたうつノイズで幕を開ける。デジタル的に冷静な刻みのリズム・ループへハーシュがかぶさるけれど、そのハーシュも小刻みに痙攣するデジタル・サンプリングの渦だった。ただし明確な二極分化ではない。他にも並列でノイズを走らせ、区切りや切れ目を混沌にふった。

 途中で生演奏のドラム・サンプリングが現れる。流しっぱなしでなく切り刻まれ、断片やループなのが特徴だ。大きい触感は生々しいが、細部へ耳を澄ますとデジタル的な操作がそこかしこに。
 二本の腕でこなしてると思えないほど、素早くあちこちが並列的に操作される。リアルタイムDJ操作じゃないのかな。

 そのわりにノイズそのものは、ときどきブツ切れや滑らかなクロスフェイドがあるものの、流れるようなストーリー性も持つ。
 PCで波形操作の時代は、素材を変えるまでは変化し続ける時空の明確な流れがあった。
 しかしここでは時の流れが自在に変貌している。ハーシュとドラムはひっきりなしにバランスや音色を変えた。みっちり詰め込む重厚な音像ながら、時に一気に加速したり余韻をキュッと絞ったり、フットワーク軽く変幻自在。

 いったん作った音素材をさらに、フェーダー操作やミックスでリアルタイムにバランスや効果をいじり直してるかのよう。
 隅々までメルツバウのはず。だが聴きなれたメルツバウと異なる時間感覚や、途切れるノイズ・グルーヴの痙攣が新鮮で面白かった。

2 Eureka Moment 2 12:38

 こちらはもっとシンプル。隙間が比較的多い。オーソドックス(?)なメルツバウ世界に寄っている。
 
 アナログ・シンセ素材を同時進行させ、フェーダー操作でミックスをリアルタイムにしてるかのよう。
 ノイズそのものを加工でなく、既に存在する素材を重ねるラップトップ・ノイズ的なアプローチが醍醐味。なんだかんだ言って、メルツバウはこれまで肉体性や直観力も重視していた。
 だがこの曲では、いったん俯瞰する冷静な視点が入り複雑さを増したノイズ。新しい魅力になった。

 広がりあるスペイシーなノイズが広がる。パーカッシブな音はたまに現れるけれど、どちらかというとハーシュのつんざきを主に据え、シンセのうねりや周期でビート性を表現してる。
 
 中盤で高らかに鳴るシンセが爽やかだ。一本だった囀りは次第に呼応し本数が増えて、涼やかな流れを作る。
 すっきりした世界観が明るく静かに広がった。サイレンめいた響きを背後に小さく配置して、不穏さを演出しつつ。終盤は密やかに幕を下ろした。土壇場でむわっと充満するが。

3 Eureka Moment 3 23:52

 最後の曲は最も長い24分弱にわたる作品。いちおうシリーズ・タイトルがついてはいるものの、音世界に明確な連結性は無い。
 この曲は(1)に似たハーシュとメカニカルなビートの混合、さらに(2)のアナログ・シンセの充満が混ざった。だからこそ、のシリーズ・タイトルなのか。
 
 (1)に通じる音構造全体を揺らす操作が現れ、ビートは解体しながらシンセの音と混ざる。ハーシュ・ノイズではあるが、ちょっと抽象的なテクノでも通用する奇妙なポップさが前半は漂って楽しい。わかりやすいビートが乗っかるだけで、破天荒なノイズたちも急に親しみやすくなる。
 サイレンみたいな音が繰り返される場面では、まさにフロア対応のテクノっぽい。使われてる音はざらつくハーシュ・ノイズながら、すっきり音が整理されてるせいで。

 そしてビート感はそのままに極低音が付与された。スピーカーから風が吹いてくる。
 刻むリズムはそのままに。
 じわじわと殻の割れる音がクロスフェイドし、混沌に雪崩れた。音像全体にフィルターー操作が加わり歪みを増す。

 いやはや、ポップだ。ノイズ要素は確かにある。いや、主軸だ。けれども明確なビートとすっきりしたミックスで、こんなに印象が変わるものか。珍しいアプローチのメルツバウ。

 ひとしきりリズムを決めたあと、わちゃわちゃとノイズが乗ってきた。ビート感が無くなっても、寸前のノリを頭が持続しており豪快な無秩序にもグルーヴさを見つけてしまう。
 そのあと、サウンド全体をわしづかみにして振り回す20分前後での展開も痛快だ。最後は静かめに幕。メルツバウのブランドそのものを、秋田昌美は奔放に操っている。

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