Eric Leeds 「Times Squared」(1991)

 出来の良さをプリンスの手柄とするのは不公平。しかし中途半端さは否めない。

 85年から03年まで長きにわたりプリンスと関わったホーン奏者であり、あまり心酔してなかったようなサックス奏者、エリック・リーズ。その1stアルバムが本作となる。プリンスにべったりなファミリーの中で、ビジネスとして冷静に関係を保つリーズは、意外とプリンスも重宝したのではなかろうか。

 本作はプリンスの覆面ユニット、マッドハウスの3rd用音源を流用と噂される。その一方で、今一つ煮え切らない。リーズの個性が非常に見えづらいアルバムだ。
 マッドハウスの特徴はプリンスがすべてのトラックをおそらく作り、あとからメロディでサックスをかぶせるのが"8"のコンセプトだった。"16"ではもっとアンサンブルに凝り、ホーンは要素の一つとなった。本作は双方の間に位置する。録音時期は別にして。

 すなわちアンサンブルはそれなりに凝っている。その一方でサックスが中途半端に目立つ。そんな感じ。
 いわゆるテーマを吹いてアドリブをばら撒くってタイプの楽曲ではない。ソロを取る場面もあるけれど、むしろ書き譜を吹いて隙間にオブリでアドリブを入れてる感あり。このへんの掌具合が、プリンスとの関係において非常に中途半端だ。
 
 アルバムを聴きとおしてリーズの冠音源とは思う。けれど何をやりたいのかが、どこを目立たせたいのかが伝わらない。むしろプリンスの未発表トラックを聴くってアプローチのほうがしっくりくる。せっかくのソロ、もっとはじけてもいいのに。
 ようは出来の悪いフュージョン、もしくはスムース・ジャズに近い。リーズの志向がそっち側ってこと?

 Prince.Vaultによれば11曲中(1)を除いて全てプリンスが何らかの関与あるそうだ。真偽は知らない。クレジット上はプリンスの単独曲が(5)。プリンスがアレンジやプロデュースに係わったのが(4)(8)(10)。共作名義でプリンスのクレジット"無い"のが(1)と(9)のみ。
 クレジットを信用すれば、だが。当然、信用できない。かといってプリンスがすべて操ってる割には、曲のクオリティがバラバラだ。逆説的にセールスのため、プリンスが名前貸ししたトラックもあり?
 それはひいき倒しだろう。いかな天才プリンスでもばらつきはある。駄曲だってある。

 ある意味、これはプリンスの天才性に水を差すアルバムだ。「マッドハウスの幻な3rd?!」とわくわくして聴いたら、拍子抜け。かといってフレーズ感や演奏のそこかしこにプリンスの色はある。そのわりに流すような詰めの甘さもあり。
 だからこそボツったと納得できる出来であり、マッドハウスでも名前を冠するには躊躇ったプリンスが「欲しけりゃやるよ」とリーズに下賜した音源とも取れる。

 そもそもリーズがプリンスのトラックをそのまま使った保証もない。マルチで貰ってたら、差し替えやダビングをしてたかもしれない。ゆえに本盤のクオリティがいまいち、ってのはリーズにもプリンスにも失礼だ。いいとこはプリンスの手柄、気にくわないのはリーズの仕業って割り振るのも、なんだかな。

 かといって本盤を諸手上げて称賛は躊躇われる。せっかくのプリンス印なのに。誰の仕業で誰の手柄だろう。今一つ本盤を聴いてて、煮え切らない。

 (1)はドラム・サンプル以外はリーズの多重録音。ディレイで沈むドラムとユニゾンなイントロのテーマは何とも古めかしい。その一方で畳みかけるムードや重なったホーン隊のセンスは"16"のマッドハウスに通じる。当時のプリンス楽曲にてホーン・アレンジの細かいところは、リーズがやってたのだろうか、と思わせるくらい。
 ドラムの音使いが邪魔してるが、素直な打ち込みビートなら、もう少し素直に楽しめたジャズ・ファンクだ。
 フレーズ感は短いけれど、ソロをぶいぶいとリーズは吹き鳴らしてる。

 (2)はジャムセッション的なクレジット。プリンスは演奏クレジット無し。リッキー・ピーターソンのピアノが、なんともマッドハウスっぽい閉じたグルーヴでかっこいい。シーラ・Eがドラム、レヴィ・シーサーJr.がベースのコンボ編成は"8"のアウトテイクと言っても通じる。
 迫りくるスリルもまずまず。じわっと来るシンセがオーバー・プロデュースな気も。クレジット見ると、シンセはリーズだ。うーむ。ダビングかあ。・・・と、気にくわない部分をリーズのせいにするのはやめよう。

 しゃっきりしたホーンのテーマで始まる(3)は"8"と"16"、どっちに入ってもおかしくないエレピのリフが決まってるので、"16"寄りか。このシンセがプリンス、とクレジットあり。(2)と同様のコンボ編成にパーカッションを足して、リーズは各種サックスやシンセをダビングした。
 バリトン・サックスのぶいぶい行くソロを聴かせる一方で、ミックスでは埋もれ気味。サウンドの一要素にサックスが埋もれてしまったけっこういい曲だ。

 不穏な和音感でムーディなジャズを決める(4)は"8"寄り。ちなみに"8"よりと書いてる曲でも、あの盤に特徴的なピッチ高いスネアの音色は無し。その点、オーソドックスだ。
 しかしピアノ・ソロが始まると少し構築度が高くなる。アトランタ・ブリスとリーズでホーン・リフがぴしぱし入るせい。そう、ここでは鍵盤のソロに大きなスペースを譲り、なおかつホーンがソロのメインとならない。これをリーズの看板で出すかね?鍵盤のあとはリーズのテナーがソロを取るけれど。甘いタンギング感で速いフレーズを垂れ流した。
 なおピアノとオルガンがプリンスだそう。

 (5)はシンセとベース、ドラムがプリンス。作曲もプリンス。シーラ・Eとラリー・フラタンジェロがパーカッションを足した。メロディを弾くベースはレヴィ・シーサーJr.。
 これなんかまさにマッドハウスのアウトテイク。"8"寄りかな。フルートでリーズはソロを取るけれど、完全にアンサンブルの一要素に陥っている。目立っているが、主役ではない。
 なおシンセのダビングもリーズとあり。ふわっとしたオルガン風音色がそれかな。かっこ悪いし・・・って、いかんいかん。気にくわないとこをリーズのせいにするのはやめよう。

 (6)もプリンス印。フラタンゴがパーカッションを足し、リーズがサックスとピアノにシンセ、他はすべてシンセも含めてプリンスが演奏とある。
 ムーディなフレージングをサックスが奏でる一方で、あとは隅々までプリンスのロマンティシズムが弾けた。
 リーズとプリンスの共作だが、テーマ以外のメロディをリーズが足したために名義が二つに分かれたんじゃないかな。プリンスの作品と言っていい。のちの"N.E.W.S"に通じるエキゾティックなイージー・リスニングっぷりが楽しめる。

 フェイドイン気味にラテン風味な(7)は、思い切りトロピカル。プリンスとの共作名義だが、むしろプリンスがここまで泥臭いラテンってのも珍しい。プリンスはギターでクレジット。歯切れ良いファンク・ビートがラテンと溶けた。
 プリンスの実験作とみるべきか、マルチからギターだけ抜いて全てリーズが作曲したとみるべきか。プリンスのベーシック・トラックにリーズがラテン風味を足しまくり、明るく仕上げたとここでは解釈しよう。
 楽曲的にあまりにも展開が無い。リフが繰り返され、アドリブが挟まるのみ。それなりに尺はあるが、ブリッジみたいな作品だ。

 (8)も(6)に似たスムース・ジャズなプリンス風味。粘っこい彼のボーカルが似合いそう。確かに作曲はプリンスの単独名義だ。クレア・フィッシャーのストリングスと、女性のセリフ、ホーン以外のすべてをプリンスが演奏した。"18"に近い路線だ。
 ここでのリーズはアドリブを取ってるとはいえ、手のひらの上で踊らされてる。打ち込みで多層的な軽いグルーヴの上で、サックスやフルートが滑らかに舞った。かなりフレージングがトラックに沿っており、まさに書き譜っぽい。

 (9)の作曲はリーズ、とある。アフリカンなドラムにワイルドなブリスとの多重録音ホーンがかぶさるスリリングな曲。なのにドラムにプリンスのクレジットあり。わざわざリーズの曲を録音にプリンスが協力ってのも考えにくい。
 ドラム・トラックのマルチをプリンスから貰ってテープ・ループさせ、あとからフレーズをリーズがはめ込んで作ったってとこか。それくらいドラムは無機質かつ淡々とリズムを刻む。・・・って、気にくわないところをリーズのせいにするのはやめよう。
 予備知識を抜いて単独で聴いたら、ジャングルを駆けるホーンが気持ちいいスムーズ・ジャズだ。

 打ち込みビートのセンスが古臭い(10)だが、木管以外はプリンスの多重録音とある。
 ええっと・・・そうそう、"18"に通じる野性的なファンクネスかな。オーケストラ・ヒットも含めて。・・・と、フォローもめんどくさい。逆にリーズはホーン隊のダビング役程度で、あまり必然性が無い。プリンスの没曲をそのまま使っていそう。
 飛び交う鍵盤やベースの入れ替わり、畳みかけるホーン隊など隅々まで作曲されている。むしろリーズが自らの名を作曲に冠したほうが違和感あり。中盤からバリトン・サックスなどで貢献してるってリーズは言いたかったのかも。
 あくまで楽曲の一要素としてソロを取ってるくらい、なのだが。
 
 アルバム最後の(11)は名曲。このままファルセットでプリンスのボーカルが載ってもおかしくない。ゆるやかなバラードだ。クレジット上のプリンスはギターとシンセのみ。
 伴奏の拍感からちょっとモタらせてサックスが入り、クリーンなトーンのギターがわずかにフレーズを遊ばせる。これこそプリンスのアウト・テイク。ゆったり断続的なフレージングは歌心溢れてる。
 尺もたっぷりリーズはソロを取った。スムーズ・ジャズとして出来も良いし、そもそもプリンス印の小粋なアレンジがすごく良い。しかし途中の白玉シンセはダサいな。あ、リーズのクレジットにシンセともある。さては・・・って、やめよう。
 
 うーん。やはり良いところはプリンスの手柄に、気にくわないところはリーズのせいにしてしまう。いかんな。

 廃盤のため時には数千円の妙なプレミアついてしまってる。でもマッドハウスからの鬼っ子として聴くには、意外と面白い。


Track listing:
1 Lines 6:30
2 Andorra 3:31
3 Night Owl 4:00
4 Overnight, Every Night 4:10
5 Cape Horn 4:10
6 Little Rock 3:41
7 Easy Does It 2:22
8 The Dopamine Rush 7:36
9 Kenya 2:40
10 Times Squared 5:44
11 Once Upon A Time 7:19

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