Prince 「3121」(2006)

 大人路線を狙ったようなトータル・アルバム。円熟を先取りとも読める。

 "Musicology"から2年ぶり。ずいぶん待たされた印象だった。デジタル世界ではこのあいだに"The Chocolate Invasion","The Slaughterhouse","C-Note"と三種類のデジタル・アルバム筆頭に、NPG Music Clubからさまざまにリリースされ、音源はむしろ豊富だったとはいえ。

 NPG Music Clubは毎月のデジタル・コンピ盤アルバムの発売が常だった。しかし当時は手元にモノが残らない、配信の購入にいささか躊躇った。さらに回線の細さやWebの重たさ、セキュリティの不安さなど戸惑うポイントも複数あり。当時はあまり積極的にNPG Music Clubにアクセスしなかった。

 今なら大歓迎だったろう。わずか10年前なのに、こうも価値観が変わるか。プリンスは常に、時代の先を二歩くらい進んでた。先端よりも、さらに少し早い。だから後追いでこそ、凄さを実感する。

 当時のプリンスはどこへ進むつもりだったろう。結局、NPG Music Clubは活動拠点になりえなかった。再びフィジカル・リリースの世界にプリンスは戻ってきた。
 しかし90年代冒頭の時代と折り合い探った苦闘期、リリース体制と抗った90年代終盤の奮闘期とは違う。
 
 "One Nite Alone... Live!"(2002),"N.E.W.S."(2003)は自主流通。"Musicology"(2004)はコロンビアで、その後のデジタル・アルバムは自主配信。そして本作"3121"ではユニバーサルと手を組むありさま。
 大手を自由自在に渡り歩き、実験を繰り返してる。

 "The Rainbow Children"(2001)でプリンスは俗世間からの乖離に踏み切った。売れ線やヒット曲を仮に望んだとしても、たぶん不要。強固なファン層と確かな地力を踏まえてガツガツする必要は、まったくプリンスに無かった。
 王国とスタッフを抱える稼ぎが必要にせよ、あくせくは無用。だからこそ、の円熟か。もしかしたら、体力的な衰えも感じてたのかもしれない。80年代の激しいダンスこみのステージングから脱却として。

 50~60年代に黒人ミュージシャンの上がりのひとつが、ディナーショーだった。たとえばラスベガスでの連続公演。先駆性を求めるのはマニアや評論家の視点であり、隠居して過去の遺産で観光客目当ての安定した営業活動。それが一つの芸能界の生きざまって価値観がある。

 プリンスが引退や安定を望んだとは思えない。しかし世界をツアーして回る体力的なしんどさや、マネージメントの面倒さはあったろう。
 あちこち移動して稼ぐより、一か所に落ち着いて向こうから観客が来てくれるのなら、よっぽど楽なことはない。
 ペイズリー・パークでの深夜ライブとは別次元に、もう少し安定した営業拠点としてプリンスは新たな場所を模索したと想像する。

 タイトルの"3121"は当時、発売日とも新たなプリンスの活動拠点の住所とも言われた。
 ラスベガスのRio Hotel & Casinoにプリンスは居を構え、本盤発売後の5月26日から07年4月29日まで断続的に数十公演を行った。音楽的なコンセプトを超えた生き様の実験として、名刺代わりが本盤だったのかも。

 なにせ本盤、あんがい地味だ。アグレッシブなのは後で足された"Fury"のみ。冒頭から重たい"3121"で幕を開け、ずいぶんとっつきが悪い。
 どっぷりと、しかし暗さは無く軽やかなファンクネスで統一された。
 最後の"Get On The Boat"で賑やかにジャジーな盛り上がりは、まるでカーテンコール。

 プリンスは本盤でアダルティもしくは円熟さを、ファンクのフィルターを通して表現したかったと想像する。
 芸能界では全盛期と同じテンション同じニュアンスの表現を、いつまでも期待される。奏者が老いていこうとも。
 この歳を経る問いに、プリンスはますます巧みさを増す作曲術を武器に新たな地平で応えた。

 そもそも本盤の発表前、プリンスの活動はじわじわだった。04年のNPG Music Clubからリリース・ラッシュを経て、05年はツアー無し。ハリウッドの邸宅"3121"で深夜の個人ライブを重ねた。全貌はよくわからない。音源はどのくらい残ってるのやら。
 
 12月に本盤の先行シングル"Te Amo Corazón"を発表する。
 このエキゾティックで優美な楽曲で、"3121"への期待は、なんともダンディなムードをかもした。

 06年のプリンスはまず、テイマーのバック・バンドでギタリストとしてツアーに出る。1月20日から3月18日までの全米ツアーは断続的に13公演。アフターショーみたいなの物も入れてながら、それなりに本数を重ねた。
 直後の3月21日に本盤の発表へ至る。前年のプライベート・ライブの名称が冠されたアルバムとして。

 Prince Vaultによれば曲順は一度変わったらしい。05年末の段階では曲順がほぼ一緒ながら、"Fury"と"Beautiful, Loved And Blessed"が無い。
 発売直前にこの2曲が足され、"The Morning After"が落ちた。のちの盤"Lotusflow3r"(2005)のデジタル版に採用され復活した曲だ。

 いっぽう丸ごと同時期に没ったのがテイマーのソロ"Milk & Honey"。ほんらい"Beautiful, Loved & Blessed"はこちらに収録予定だった。出来の良さにプリンスが自分のアルバムに引き上げたか。
 情報にある"Milk & Honey"と収録曲でかぶるのは、"Beautiful, Loved & Blessed"のみ。
 しかし"3121"でテイマーは大活躍してる。"Beautiful, Loved And Blessed","Incense And Candles", "Love", "Satisfied", "Get On The Boat"とかなりの曲でボーカルを取った。プリンスが気に入った女性に大盤振る舞いは珍しくないが、それでも本盤での活躍っぷりはすごい。

 本盤でのテンポは総じて穏やかで、なおかつ激しさが無い。前のめりのアップ・テンポで目立つのは、発売直前に録音された"Fury"くらい。これはセールスを狙って急遽にプリンスがテコ入れで作成か。

 つまり本盤はさまざまな価値観の総決算だった。前年の一拠点に定住ライブ、他のボーカルのサポート、そして新たな流通とCD盤のリリース。一線に立ちながら、前に出すぎず控える立ち位置を探す。
 そしてダンサブルさに頼らない、独自の緩やかでスタイリッシュかつ密室的なファンク。

 プリンスは音楽的主導権を本盤で譲らない。けれど総力戦の売らんかな、でもコンセプト一辺倒でもない、独特のしなやかなアダルト・ファンクを本盤で展開した。
 どこまでも独自の世界で、類を見ない。
 わかりやすく踊りを誘発しない。けれども根底にがっつりとファンクネスがある。そして叫ばず暴れない。

 老いか円熟か。いずれにせよプリンスはアップテンポでキャッチーな世界と距離を置いた上で、明確な個性と美学を構築した。それが、このアルバムだ。

 比較的密室的な楽曲が並び、ホーン隊もあまり目立たない。"Lolita"などのように、ホーン隊のリフが似合いそうな曲もシンセで代用し、あえて多重録音っぽさを演出した。
 だからこそ最終曲、"Get On The Boat"での華やかなホーン隊の歯切れよさが目立つ。前述のとおり、一人ディナーショーのカーテンコールを大勢のメンバーで飾るように。

 逝去直後の超高値は落ち着いたとはいえ、まだ本盤も廃盤扱いで微妙なプレミアがついてる。17年5月時点で1300~5560円。

 渋くじわじわ来る良盤だ。やはりこれも廃盤でなく、普通に流通して欲しい。

 プリンスの一番困るところは、大物ミュージシャンにもかかわらず入手困難な音源があまりにも多いこと。これを何とかして欲しい。ユニバーサルはどうやら販売権を返上したらしい。いつになったら落ち着いてまとまったリリースになるのだろう。

Track listing:
1 3121 4:31
2 Lolita 4:06
3 Te Amo Corazón 3:35
4 Black Sweat 3:11
5 Incense And Candles 4:04
6 Love 5:45
7 Satisfied 2:50
8 Fury 4:02
9 The Word 4:11
10 Beautiful, Loved And Blessed 5:43
11 The Dance 5:20
12 Get On The Boat 6:20

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