TZ 8330:John Zorn "Simulacrum"(2015)

 メタル寄りなオルガン・トリオの疑似バンド。

 ジョン・ゾーンが2010年以降、さまざまに繰り出す疑似バンドの一つ。作曲とアレンジ、あとは指揮。即興的にサインを送りながら自らは音を出さない。ゲーム・ピースを筆頭にインプロのコントロールにこだわってきたゾーンは、一歩引いた形でさまざまなサウンドを放出し続けている。
 TZADIKよりゾーンはここ何年もほぼ月刊でリリースを重ねている。本盤も14年の12月に録音して翌3月にたちまち発表した。50年代ジャズに倣ってか、間をおかず投入するスタイルだ。
 
 嬉しい。あまり凝らず瞬発力を持った即断力と、素早い仕事、さらにミスなく作り上げる凄腕ミュージシャンの三位一体が揃ってこそ、の技だ。膨大なアイディアをゾーンは放出し続ける。
 けれどMASADA book 3やバガテルのように未だ音盤として聴けぬものも多数ある。もどかしい。

 本ユニット形態は気に入ったらしく、本盤を筆頭で15年以降に次々出てる。他には以下がある。
2015 "The True Discoveries Of Witches And Demons"
2015 "Inferno"
2016 "49 Acts Of Unspeakable Depravity In The Abominable Life And Times Of Gilles De Rais"
2017 "The Garden Of Earthly Delights"

 完全なトリオ編成に拘らず、ゲストを盤によって招いてる。ゾーン自らのパイプ・オルガンへこだわりも含めて、オルガン音色がマイブームなのか。

 本盤では荘厳さはおどろおどろしさにスタンスを少し変え、ハードロックなざくざく唸るエレキギターが暴れる。オルガンと真っ向から勝負した。サウンド的にはオルガンが引っ張るが、目立ち度合いではギターも負けていない。
 ギターのMatt Hollenbergはフィラデルフィアのメタル・コアCetusのメンバー。Cetusは03年頃から多数のアルバムがリリースあり。

 ドラムのKenny GrohowskiはDapp Theoryのメンバー。Dapp Theoryは03年"Y'all Just Don't Know"をきっかけに数枚のアルバムをリリース、グロウスキーは途中参加のようだ。
 こちらはNYのM-Base一派アンディ・ミルン(p)をリーダーのジャズ系ユニットらしい。

 オルガンはM、M&Wで馴染みのジョン・メデスキ。ベテランの彼に若めの才能をブチ当てた格好か。

 サウンドはキメが多い。アドリブもあるが、かなり構築されていそう。プログレ寄りのアンサンブルで、ゾーンらしいオカルティックな大仰さがそこかしこに漂う。
 ゾーンの形而上的なコンセプトが半分、勢いよく疾走するスピード感のサウンド狙いが半分のユニットか。

 ムーンチャイルドより少しジャズ寄り。ペインキラーほど過激ではない。
 これまでゾーンの疑似バンド盤をあれこれ聴いてきて、もやもやしてた気分が本盤で明確になった。上手いが箱庭みたいな閉塞感を、一連のバンドに感じてたんだ。
 本盤でも過激なメタルコアの勢いと破天荒な炸裂を期待してしまう。しかし。どんなにツーバスが煽っても、ギターリフが鋭く刻んでも、オルガンが派手に跳躍しても、サウンドはこじんまりしている。

 それがゾーンの指揮ゆえの限界だろう。完全な自由はなく、バンドとしての必然性がミュージシャンに無い。お仕着せの小宇宙を描きつつも、内的衝動に欠けるためもどかしさが残る。
 過去の盤は一国の主なミュージシャンを起用し続けたため、なんだかんだでアドリブとテーマのメリハリはつけていた。ゾーンのキューに従いながらも、ソロでははじけてるため、躍動感がぎりぎり残っていた。

 だが本盤でその域に達してるのはメデスキのみ。ドラムとギターはまだ、ゾーンの視線に縛られてる。もっとはじけていいのに。
 従って本盤のイメージは細部まで構築されたプログレの印象が強い。曲途中でもキメが頻繁に出るが、これはファイルカード的な作曲か。即興的にオルガンやドラムが譜割を合わせてるっぽいとこもあるが。

 ゾーンの起用だから、ギターもドラムも上手い。アンサンブルの安定性はばっちりだ。前段でちょっと書いてはしまったが、別にギターとドラムも言いなりではなく、即興的に暴れるシーンももちろんあり。
 一曲が短すぎるのかもしれないな。尺をたっぷりとった(1)や(6)のほうがダイナミズムがわかりやすい。

 本盤は即興の斬り合いが主眼ではない。テーマと指揮をかいくぐり、どこまで自己主張できるか。ある意味、ミュージシャンとして自己アピールの試金石みたいなところ。

 余計なことを考えずに本盤を聴くならば、構築美に満ちたジャズ系プログレの端正な仕上がりを楽しめる。この辺、ゾーンの指揮者っぷりが見事。

 youtubeでゾーン抜きのトリオ編成なライブ映像が聴ける。いくぶん演奏はラフだが、そのぶん躍動感あり。これで、これが、良いのよ。
 

Track listing:
1 The Illusionist 12:02
2 Marmarath 5:18
3 Snakes And Ladders 5:28
4 Alterities 2:49
5 Paradigm Shift 4:35
6 The Divine Comedy 12:54


Personnel:
John Medeski: Organ
Kenny Grohowski: Drums
Matt Hollenberg: Guitar

Composed By, Arranged By, Conductor :John Zorn

 

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