忌野清志郎 「RAZOR SHARP」(1987)

 英国経由のR&B。複数のフィルターを通した、実質的な1stソロ。

 RCサクセションは後追い世代でライブへ行く習慣のないぼくには、掴みづらかった。"い・け・な・いルージュマジック"(1982)で清志郎を知ったときは、中学生。既にライブ・バンドの地位を確立してたはずだが、当時は畏れ多くてライブへ行く習慣が無し。何枚かは遡ってアルバムを聴いて夢中になったが、音楽として受け止めており生きざまとして共感はせず。すると「凄いバンドだ」で話が終わってしまう。

 このニュアンス、伝わるだろうか。清志郎という、RCというミュージシャンの作品として触れなかったため、イメージが掴みづらかったと言いたいのだが。
 RCは"BEAT POPS"(1982)を当時、繰り返し聴いた。大人の不良な野太い音楽って印象。そもそもロックもソウルも知識不足で、当時の音楽性はピンと来てなかった。でも混沌な危うさがかっこよかった。
 だがいきなり"O.K."(1983)で音が軽くなった。当時の思い出だ。そして"FEEL SO BAD"(1984)で漆黒の太さに振れる。両極端であっちこっち。さらにバンドのマネージメントもドタバタしてた印象で、とてもきっちりアルバムを仕込んでる印象はなかった。当時の印象だよ、あくまで。くどいけど念のため。

 そんな「よくわかんない大人のかっこいいバンド」だったRC。このあとの数年は端折るが、"NAUGHTY BOY"(1986)のあと、ロンドン・レコーディングを渋ったバンドと折り合いがつかず清志郎のソロで製作が本盤となる。
 ロックを聴き始めてナイーブさはだいぶなくなってたが。それでもソロ活動ってさほど一般化してなかった時代。「大丈夫か、RC」と思った記憶があるような。実際、この数年後にRCは解体してしまう。

 清志郎のソロ活動としては、Wikiだと3枚目に記載されている。ドクトル梅津バンドとのDangerをソロ活動に位置付けてるため。だが実際は、実質的な1stソロだった。
 英国録音でサウンドはイアン・デューリーのバンド、ブロックヘッズのメンバー。コーラスにデューリーの名もあり。ギターで(1)にクレジットのスティーヴ・ヒレッジは、ゴングの彼らしい。ホーン隊も現地調達した。
 ドラムは最初、クラッシュのトッパー・ヒードンが叩いたが、途中でブロックヘッズのチャーリー・チャールズに交代な段取りだそう。

 しかしなぜか、(7)のみ梅津和時、片山広明に山下洋輔のクレジットあり。日本録音の記載はないが、わざわざイギリスに呼んだってこと?この曲だけピアノが異様にフィーチャーされ、奇妙にニューウェーブな味わいになっている。

 本盤の楽曲は共作も含むが清志郎節が全開。R&Bの影響をどっぷり受け、なおかつ独特のメロウさがたっぷり。良い曲が並んでる。

 だからこそ、本盤の製作スタイルに違和感が残った。
 何を狙って清志郎がロンドン録音へ臨んだかは分からない。少なくともパブ・ロックの雑駁さや、本場パンクの危うさを狙ったわけではなさそう。本盤ではきっちりプロダクションされ、演奏はガッチリ決まった。荒々しいセッションめいた演奏でも、しっかり構築されてる。
 
 さらに時代ならではの深いエコーがかかったドラム。イギリスの解釈を踏まえたR&Bな演奏は、ボーカルをあまり前に出さないミックスで硬く仕上げた。
 四角くて硬質な音作り。要はミュージシャン云々よりスタッフ側の観点で本盤を見るべきかもしれない。録音とミックスでクレジットはCharles Harrowell。
 この当時の盤だとサイケデリック・ファーズやPILの盤に参加してる。パンクとニューウェーブ的な味わいが狙いか。
 
 清志郎は彼を気に入ったらしく、その後もRCの"Marvy"や"Covers"、タイマーズの盤で彼を起用した。
 だが正直、ぼくは本盤の音作りは馴染めない。それはたぶん、本盤を音楽としてのみ聴いてるからだろう。
 清志郎の生きざまとして本盤を受け止めたら、印象はだいぶ変わるはず。RCや世界に対する苛立ち、溢れ出るメロウさ、それらがRCのブランドやくびきなしに伸び伸びと異国で羽根を伸ばした一枚、になるはずだ。

 ここではRCに似通ってるが、明確に違う。リズムは乾いて、ギターはアレンジの一部に埋められた。清志郎のシャウトはサウンドに溶ける。鋭角さは抜き身をあからさまにせず、どんより煙る霧のように表現した。
 本盤はボリュームの大小でがらりと印象変わる。小さい音だとピンとこない。でかい音だと芯の太さが際立つ。CDマスタリングのせいかもしれないが。

 ゲートで残響を切り気味なドラム、残響たっぷりなボーカル。そして乾いたリズム。サイケな精神世界には寄らないが、奇妙な幻想性もしくは非現実性を持った。
 サウンドは60年代ソウルの要素をとりながら、あからさまにアメリカンな音を狙わない。UKソウルの人脈も使わない。パンク寄りのスタイルで二重三重に迂回したアプローチで仕上げた。
 
 何も知らない、清志郎すら知らないロック好きが聴いたら本盤のプロデュースは戸惑うと思う。散漫だ、と。けれども清志郎と当時の風景を念頭に味わうと、大きなガス抜きと方向転換の一里塚と感じるだろう。

 迷いとふっきり。二つの要素が漂う。予備知識なしで聴く音楽がいいのか。生きざまも含めて味わうべきか。
 ポップ・ミュージックは単独で成立するパワーも持つ。いまだにコンビニのCMで清志郎の"デイドリーム・ビリーバー"が流れるように。

 けれども本来、ポップ・ミュージックは本来、世相を映すもの。人が作る音楽である以上、本人の人生がこもった作品こそが尊いって価値観もある。

 本盤への感想からかけ離れた文章になっている。だが冒頭に書いたようにぼくはRCへ大きな思い入れを無く音楽のみを聴いてしまってた。したがって本盤をどうしても素直に受け止められない。
 ようは本盤のミックスが気に入らないんだろうな。でかい音で聴いたら、気持ちいいのは間違いないのだが。

Track listing:
1.WATTATA (河を渡った)
2.90 DAYS - 免停90日
3.AROUND THE CORNER / 曲がり角のところで
4.ワザトFEEL SO SAD (CANADA SEVEN)
5.MELODY MAKER / メロディーメイカー
6.RAZOR SHARP ・キレル奴
7.SEMETE (GOING ON THE ROAD)
8.CHILDREN'S FACE
9.あそび
10.IDEA / アイディア
11.BOO-BOO-BOO

Personnel:
Vox, Guitar, Backing Vox - 忌野清志郎
Guitar - Steve Hillage on 1
Backing Vox - Franky Collins, Ian Dury, Kokomo
Bass - Norman Watt-Roy
Drums - Topper Headon
Drums, Percussion, Backing Vox - Charlie Charles (tracks: A3, B1, B3)
Guitar, Backing Vox - Johnny "Guitar" Turnbull
Harmonica - Mitt Gamon
Keyboards, Backing Vox - Micky "San" Gallagher
Percussion, Backing Vox - Phil Reece
Tenor Saxophone, Flute - David Payne
Trumpet, Flugelhorn, Violin - Jeoff Miller
Alto Saxophone - 梅津和時 on 7
Tenor Saxophone - 片山弘明 on 7
Piano & Synthesizer - 山下洋輔 on 7

Written-By - G2wo (tracks: A1, B4), K. Imawano, $asuke (tracks: A1, B4)

Engineer [Assistant] - Graham Cristie, Jarren Amos, Paul Gomersall
Engineer [Cutting] - Gordon Vicary
Engineer [Recording & Mixing] - Charles Harrowell

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