Kenny Dorham 「Una Mas」(1964)

 ラテン風味の実験を狙うも、端正なジャズに留まった。B面のほうが好み。

 モダン・ジャズを後追いだと年代の違いが分からない。仮に50年代をセカンド・シーズンとする。60年代をサード・シーズン。ものすごく大雑把だが、違いのイメージがわくだろうか。
 燃え立つビバップの40年代からマイルスたちが道を開いた50年代。より洗練されジャンルを確立した60年代。そんなイメージ。ケニー・ドーハムの本盤も50年代と思い込んでいた。64年の発売だったのか。
 サイドメンを見れば一目瞭然。ハービー・ハンコックとトニー・ウィリアムズを擁し、よりタイトでスタイリッシュな演奏に向かった。ちなみにマイルスの"Nefertiti"は67年。ドーハムはいち早く若手に目を付けていた。

 ドーハムのデビュー作は"Kenny Dorham Quintet"(1953)。先の分類ではバリバリのセカンド世代にあたる。有名どころだと、何の盤だろう。ジャケだとこの辺?内容や特徴をぱっと挙げられる人は、そもそもジャズ・ファンではなかろうか。
  
 
 実は僕もまともに彼の盤を聴いたことが無く。本盤も、たまたま聴き返してる。ジョン・ゾーンの"News for Lulu"(1987)はモダン・ジャズ時代の作曲家にスポットを当てた企画で、取り上げた一人がドーハムだった。しかし遡ってあれこれ聴き返しはしなかったし。
 
 ドーハムは24年生まれだからちょうど本盤は40歳の脂がのったとき。テキサス出身でソロ・デビューのあとジャズ・メッセンジャーズにも55年頃に在籍した。アルバムで言うと"At the Cafe Bohemia, Vol. 1"(1955)の頃。
 リーダー作とサイドメン、あれこれ録音が多数残されている。時代を牽引する尖ったコンセプトでドーハムの名前は出てこないが、売れっ子だったらしい。

 本盤は2ホーン・クインテット。一回り下のジョー・ヘンダーソンと双頭で吹きこんだ。ドーハムは72年に病死のため63年の本盤は最晩年、次の"Trompeta Toccata"(1964)が実質的には最後のリーダー作か。ディスコグラフィーでは、"Last But Not Least 1966, Vol. 2 "(1966)が生前では本当に最後のリーダー作になっている。
http://www.jazzdisco.org/kenny-dorham/catalog/album-index/

 本盤のメンツで吹きこんだのは他にない。ライブはやったのかもしれない。このへん、記録無いんだよな。50~60年代当時に、全米のジャズ・クラブでの演奏記録本とかあったらすごく面白そうなんだが。

 このあと何枚もの共演をするヘンダーソンとも含めて。ディスコグラフィーでは同年1月15日にNYの"The Flamboyan"でライブ演奏の音源が残っている。次が、本盤。4月1日に録音された。
 どういう文脈でハンコックやウィリアムズを起用だろう。このディスコグラフィー・サイトは完璧なデータ網羅や相関が無いため、あとは本当に詳しい人に聞くしかない。たとえば同ディスコグラフィーのハンコックのページではドーハムが全く記載無いありさま。
http://www.jazzdisco.org/herbie-hancock/discography/

 ベースのButch Warrenとはそのあと数枚の共演あり。とはいえ詳しい人でないと彼の名前は知るまい。
 ドーハムから一回り下の世代のワーレンにヘンダーソン。さらに一回り下のハンコックとウィリアムズ。ドーハムは若々しいパワーの吸収を図った。そしてラテン風味の本盤で新境地の開拓。それが狙いだったのか。

 ハンコックを筆頭に演奏は端正だ。溢れるパワーを噴出とは言い難い。どっちかと言えば大人しい。LPでは全3曲。すべてオリジナル曲で固めた。今のCDでは(4)のボートラ付き。これのみ、ミュージカル"Camelot"(1960)の作品。録音の数年前だからスタンダードってノリじゃない。当時の時間感が不明だが、埋もれたちょっと懐メロって位置づけだろうか。
 
 抑えで録音した人の曲は没にして、ドーハムは自作で本盤を構築する。しかし我を張りすぎずヘンダーソンも立てて。本盤を聴き返して思うのは、地道で派手さの無い大人しさ。
 15分にわたるタイトル曲(1)はハンコックがグルーヴを支え、ドラムとベースはむしろ目立たない。べらべらっとテナーを吹き鳴らすヘンダーソンもむやみに尺を取り、ドーハムの顔が見えづらい。
 
 むしろしゃっきり刻む(2)のほうが本盤は冴えている。ぴたりユニゾンで音を弾ませ、切れ味良くテーマからアドリブに雪崩れた。これまた遠慮がちな盛り上がりだが、本気で燃え立ったら、凄い迫力を見せたろう。時代の限界かな。まさにMASADAの元祖になりそうな勢いも秘めてるのに。

 (3)の爽やかなメロディとタイトなスイング感もいかしてる。
 なお(4)のボートラも、なぜ没テイクか共感できる。演奏はむしろリリースされたテイクに引けを取らない。締まってる。しかし新しさがない、と思ったのではないか。

 B面の路線であと2曲、そしたら本盤は魅力が変わった。渋めのモダン・ジャズになったかも。
 だがドーハムはデスカルガのような(1)が望みだったのだろう。カウベルみたいなのを叩き、リズムにエキゾティックさを足した。
 たしかに(2)や(3)は50年代セカンド・シーズンの色合いが強い。(1)のほうが新境地とは思う。だからこそ若手を起用か。しかし実際のところ、(1)はソロ回しに覇気がない。ライブでは違ったのか。

 何の気なしに聴き流してた一枚、あちこち検索しながら聴き返すと面白いな。色々と空想が膨らむ。
 まとめて彼の盤を聴きとおしたら、新たな感想が浮かぶかも。
  

Track listing:
1 Una Mas (One More Time) 15:15
2 Straight Ahead 8:55
3 Sao Paulo 7:15
 Bonus track
4 If Ever I Would Leave You 5:05 

Kenny Dorham - trumpet
Joe Henderson - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Butch Warren - bass
Tony Williams - drums

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