灰野敬二/吉田達也 「水が炎を掴むまで」(2002)

 凝縮されたインプロの凄みと、民族楽器を多用する灰野敬二の多彩さを封じ込めた、吉田達也らしいアプローチのアルバム。

 灰野と吉田の初共演CDで、00年4月19日に高円寺ペンギンハウスでのライブを編集した。プロデュースと録音は吉田達也。ダビングは、たぶん無いと思うけど十二分に音圧が強く厚みあるサウンドだ。デュオとは思えぬ骨太なミックスとマスタリングを施された。

 香港のレーベルNoise Asiaから発売。このレーベルは大友やメルツバウ、ルインズなど東京アンダーグラウンド・シーンの盤をいくつも発売していた。今も活動かは知らない。少なくとも本盤は入手困難のようで惜しい。

 これまで灰野のイメージは怖くて長尺だった。集中力を持続させ、洗面器に顔を突っ込んで我慢比べな緊張感を与えた。ところが本盤は数分単位で楽曲を切り、演奏も様々な民族楽器を持ち替える。ライブでは聴けていたはずの、灰野のもう一方の側面をさらにコンパクトに切り刻み、パッケージに仕立てた。
 いさぎよく大胆な吉田らしいプロデュースと言える。

 もちろん灰野のパブリック・イメージである激しいノイズや強いシャウトもあり。吉田自身も深く手数多いドラミングで音像を埋め、本盤全体の印象は重たく硬い。しかしフットワークの軽さが、本盤の特徴であり個性だ。
 のちに二人は幾枚も即興を重ねる。スピード感や切れ味が相互に馴染んだのだろう。

 真摯に音楽へ向かい合い、約束事に縛られず奔放に展開する。二人の自由で懐深い発想が、本盤で結実した。
 いわゆるメロディアスな即興は皆無で、暗黒インプロと高速斬り合いが次々に現れる。実際のライブも10分程度の短尺を続けたのだろうし、ここでも世界はひとつながりにせず断片を無造作に、しかし説得力ある並びで構成した。たぶん、ライブの順番ママではないと思う。

 ライブ盤らしい拍手や臨場感は切り取られている。本盤は言われないと、ライブ盤と分からないはず。骨太な緊張感と、観客を前にした引き締め。その中から、濃密な部分だけを抽出した。
 (8)では音が少なく鳴る部分で、空間ノイズっぽい揺らぎも少々聴こえる。だがそれすらも空気感として大事にしたミックスだ。
 ミックスの段階でエコーなどを加えたのかもしれない。

 二人の演奏はすべて即興。丁々発止の配分が絶妙なバランスだ。二人とも相手の音を聴きながら、むやみに反応し続けない。互いに相手しあって予定調和を目指すことなく、基本は独自に演奏が並行に進む。
 しかし二人とも弾きっぱなしではない。まさにタイミングを見計らい、呼吸を合わせる。デュオならではの関係性が、スリリングだ。

Track listing:
1.用意されるは精神分析医の血迷い 
2.なだらかな使用後の決意 
3.「4つ目」と言ったとたん 
4.5Hzへの感謝の印 
5.接点を弱々しくしてしまう一滴 
6.とっくに叶っているはずのLhnzという結果なのに 
7.「もちろん君だけのため」と言い訳をする。 
8.終わった証拠を見せたがる声紋 
9.記憶を辿ったときに何回か頭に浮かぶあからさまとの相違点 
10.差別と認められたあんな雰囲気 
11.「まさか」と思った時の中に含まれる懐かしさは何パーセント? 
12.消えてゆくこのような悲しみ方 

(英題)
1 That Which Is Prepared Is A Psychiatrist's Frenzy 2:12
2 Decision After Gentle Use 6:42
3 At The Instant Of Saying "The Fourth" 7:40
4 Signs Of Gratitude For 5Hz 4:47
5 A Droplet That Enervates The Point Of Connection 2:57
6 Especially Since The Result Reads That LHNZ Should Have Been Completed 5:16
7 Making The Excuse That "Of Course It Is All For You" 6:15
8 A Voiceprint That Longs To Display Evidence That It Is Over 2:03
9 Those Points Of Difference With Forthrightness Which Oft Come To Mind When Recollecting 4:49
10 That Atmosphere When Discrimination Is Accepted 4:28
11 At The Instant When One Thinks To Oneself "No Way", What Percent Is Nostalgia? 12:18
12 This Vanishing Method Of Grieving 4:42

Personnel:
灰野敬二:guitar, sarode, gyumbari, gothan, esraj, darbouka, voice
吉田達也:drums, Korg X5D, darbouka
recorded live at Penguin House April, 2000

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