林栄一ユニット 「森の人」(2001)

 ジャズ・ロックへ真っ向から取り組んだ一枚。

 林栄一はどっぷりなジャズの人である。だが周縁を軽やかに駆けた。そんな一枚が、本盤。
 日本プログレ界の異才、吉田達也をジャズに引き入れた二番目か三番目のユニットになる。96年ぐらいに菊地雅章のスラッシュ・トリオ、00年の藤井郷子カルテット、そして01年の本盤と。結成観点だと二番目と三番目は入れ替わるかもしれない。
 決して林がロック要素に目を付けてこの人選ではない、と思う。しかし当時にこのサウンドは何とも刺激的だった。

 この時期に日本ジャズやライブハウス・シーンのプログレに触れ始めたぼくは、ルインズの吉田とティポグラフィカの水谷浩章。斉藤良一は・・・何で知ったかな。渋さ知らズにもう参加してたかな?
 渋谷毅オケや明田川荘之との共演、遡れば山下洋輔とのセッションでキャリアを重ねた林栄一が、ずいぶん尖ったメンバーを集めたな、と思った。そもそも僕は吉田達也の流れで本盤を聴いたのかもしれない。

 しかし水谷と斉藤も遡れば、LowBlowとして共演まで辿れる。アルバム"カフェおじさん"のリリースこそ97年だが。そもそもは二人ともジャズ屋。普通のフォービートに収まらぬ音楽性を持って、エイト・ビート系にも強かったというだけ。
 吉田はエイト・ビートにも収まらぬインプロとプログレの勇者。そんな異化効果の中で、林のサックスがいかに暴れるかが本バンドの醍醐味だった。
 結局、この一枚でアルバムは終わってしまったが・・・。

 一方で林自身も4ビートよりフリーなジャズで活動してきた。片山弘明との関係からCO2やde-ga-show、そして忌野清志郎の"Hospital"(1996)。渋さ知らズにも90年初期から参加してる。ジャズながらロック、的な方向性が香ってる。
 永田利樹Nbagi"Ecdysis"(2000)では鬼怒無月や壷井彰久とも共演。日本プログレ界とはジャズの立ち位置からかかわってきた。
 さらに石渡明廣の"MULL HOUSE"も、もろにジャズではありながら上村勝正(b)と外山明(ds/perc)のリズムやノリはロック寄りにも聴こえた。

 だからこの顔ぶれは、なんていうかな・・・新鮮ではあったが異様ではない。必然性あるとまで言わないが、異質感はなかった。あくまで林の音楽性がジャンルに留まらず、色んな才能と演奏したいんだろうな、と思って本盤に触れた。

 収録は全8曲。すべて林の曲。バンドと言ってもリーダーは誰かを明確に明示した。ほとんどが新曲だろうか。
 (8)はFAR OUT"HOPPER'S DUCK"(1996)で発表済みだ。この(8)も、本バンドでの鋭角かつ手数多いドラミングと、FAR OUTでの川端民生/古澤良治郎の黄金リズムな演奏とではアプローチが凄く違って面白い。
 (4)も本盤の前、"MAZURUの夢"(2000)のボーナスCD-Rに収録あり。本バンド用に書き下ろしではなさそう。

 林の青白く細いサックスは、軋みながら空間を駆ける。本盤の楽曲はキメが多く、単なるテーマからソロ回しって構成じゃない。
 斉藤のエレキギターは思い切り派手に鳴り、ロック的なアプローチが凄まじい。
 吉田は鋭いスティックさばきで打ち鳴らし、小節感は時に変拍子をばら撒く。
 そして水谷は野太くも確かなグルーヴでアンサンブルをしっかり固めた。

 奔放なドラムと柔軟なビートのリズム隊による妙味が、このバンドはまず美味しい。
 次にワイルドに切り裂くエレキギターと、その暴れをものともせずファンキーにスイングするサックスの逞しさも味わい深い。
 それらが合体し、大きくうねりながら知性と直観のぶつかり合いがこのバンドの真骨頂だ。

 どんなにロック的な展開に向かっても、林のサックスが入った瞬間にグイッとジャズへ向かう。それはカテゴライズやジャンル縛りの意味では無い。身体に染みついたリズム・ルーツの差が生み出す味わいだ。
 吉田というジャズ感とかけ離れたアプローチ、どっぷりジャズな林。その両極端を双方の味を持つ水谷と斎藤が溶かしていく。さらに全員が知性的な側面も持つため、アイディア一発に留まらぬ構築美もみせる。
 もちろん(5)のようにインプロで盛り上がる自由度もあり。
 
 さまざまな要素が、期待が持てるグループだった。
 結局、このバンドでは音盤はこれだけ。発売元のStudio Weeの恒例、レーベル購入限定CD-Rでさらに2曲"Steam Board","Jam #2"が聴けるのみ。後者はまさにインプロっぽい。 
 それぞれ個性のある3人を集めながら、バンド・リーダーとして林はきっちり本盤を仕切った。ライブではどうか知らないが、CDの中では音色やアプローチに至るまで明確にアレンジされている。激しさと端正さ、明確さと混沌がきれいに表現された。

 スケジュールの問題か、音楽性か、別の理由か。委細は不明だが。
 この顔ぶれはその後に続くことはなかった。音楽的には興味深いので、わずかでも続くことが無かったのは残念。

 本盤発売から15年たつ。時代もキャリアも変わってしまった。仮に再結成したところで、当時の空気感やスリルは味わえない。今の時代はもっと、何でもありというか価値観がごちゃ混ぜになってしまった。
 発売時点で、このバンドの顔触れを見た時のワクワク感は、いい意味でも悪い意味でもすでに無い。

 大輪と花咲かなかった、まさに徒花。だが今でも本盤を聴き返せば、スリルは味わえるだろう。(3)みたいに深い残響とか、さりげないスタジオ・ワークの凝りっぷりもあり。
 手に入るうちに、聴いて楽しんでおくべき一枚。

Track listing: 
1. 睡眠と目覚めの間で
2. ゴースト・ダンス
3. 森の人
4. OM(逢魔が時)
5. ナイト・シェイド
6. ダブル・ロータス
7. イエロー・ジャック
8. ホッパーズ・ダック

Personnel:
林栄一(ss・as・bs)・斉藤(社長)良一(g)・水谷浩章(b)・吉田達也(ds)

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