John Coltrane 「Ballads」(1963/2002)

 二枚組のボートラ多数版で、本盤の荒々しさにスポットを当てた。


 「マウスピース不調のバラード集」ともっともらしく語られ、歯痛によるアンブシュアの苦労からスロー中心と伝説も残る、コルトレーンの一般的な代表作。ジャズの入門編に良く上がる本盤だが、この2枚組で大きくイメージは変わる。試行錯誤とワイルドさが、ロマンティックなバラードの裏に隠れていた。

 本盤は一年越しな3日間のセッションをまとめた。61/12/21,62/9/18と11/13の演奏が収められている。以下の選曲で言うと、
12/21 :D1-7,D2-3~14
6/18 :D1-6,8
11/13 :D1-1-5,D2-1,2  となる。

 つまりメインは11/13。あえて11/13以降に録音せず、その前のセッションから回収して収録した構成がカギか。なぜ12/21のコンセプトを膨らませなかったのか。
 なお12/21のベースはレジー・ワークマンが定説だが、ライナーによると90年代後半にレジーへ確認、ジミー・ギャリソンがベースとの説を本盤は採用した。

 本盤のボートラは12/21のセッションをてんこ盛り。そこからは荒々しい"Greensleeves"の連打と、テンポやムードを変えて録音を繰り返すD1-7の様子が伝わる。

 同時期の作品は、"Impressions","Coltrane","Duke Ellington & John Coltrane"。
 アルバム発売としては、似たような盤を避けるためコンセプトを固めた編集だろう。一夜のセッションを記録するスタンスな50年代後半から、時代は変わった。パッケージとしてLPを大切に紡ぎあげたいコルトレーンの思惑もあったろう。

 繰り返す。だがなぜ、バラードで固めるならば11/13のあとに録り溜めなかったか。それが本盤の面白いところで、謎だ。

 アルバムを聴き進めると分かる。D1-4が異様に漆黒だ。荒々しいグルーヴが溢れ出る。アルバムとしてメリハリの観点では正解だが、この粘っこいファンクネスは本盤でいかにも座り心地が悪い。

 スケール大きく、ロマンティックに。音をわずかに軋ませながらテナーをコルトレーンは操る。
 だが本盤に聴ける"Greensleeves"ではソプラノ・サックス。"Africa/Brass"で荒々しくこの曲を吹きまくったのは、6/21の半年前。コルトレーンの中では地続きだった。
 同じものを繰り返さず、新らしい世界に。叶うならばより洗練されたサウンドの拡大を。

 マウスピースかほかの不調か知らないが、マンネリを避けたいコルトレーンが生真面目にスタンダード・ジャズに向かったのが本盤だ。
 ""Live" at the Village Vanguard"は61/12/21の一カ月程度前。燃えたつパワフルなエネルギーを持て余しつつ、真摯なジャズ・スタイルとも連結を図るべく、コルトレーンは静かに試行錯誤してたのかもしれない。

 派手な演奏ばかりがジャズには求められない。静かなクラブ演奏も必要だったろう。そんなマーケット模索もあったのではないか。

 コルトレーンのライブ・スケジュールはどのくらい、記録があるのだろう。ぱっと検索してすぐに見つからなかった。そのスケジュールを追えば、本盤に至る筋道やコルトレーンの模索が、何かわかるかもしれない。
 コルトレーンが残した同時期のアルバムを聴きこんだら、新しい気づきがあるかもしれない。

 ぼくは本盤を熱心に聴きこんだとは言えない。初心者向けってバイアスがかかり、むしろ敢えて聴かなかった。
 けれどDisc 2を敢えて収録した本盤のコンセプトを踏まえて本盤に向かったら、改めて本盤のいびつな魅力に気づいた。

 画一的な発売順がミュージシャンの真髄ではない。「マウスピースの調子悪くてスピード出せないからバラードね」と、作られたイメージをそのまま受け取るのも芸がない。
 真実がわからないからこそ、残された音源を元に妄想を膨らませるのも、後追いな楽しみの一つだ。想像が膨らむほどに、音楽をより楽しめる、かもしれない。

 そんな発想が改めて、本盤を手に取って頭に浮かんだ。

 ぼくが買ったのは左の方。オリジナル・シーケンスが真ん中。バラードを7曲たした、別のボートラ版もあるようだ。
  

Track listing:
1-01 Say It (Over And Over Again) 4:16
1-02 You Don't Know What Love Is 5:12
1-03 Too Young To Go Steady 4:20
1-04 All Or Nothing At All 3:35
1-05 I Wish I Knew 4:50
1-06 What's New 3:44
1-07 It's Easy To Remember 2:46
1-08 Nancy (With The Laughing Face) 3:12
2-01 They Say It's Wonderful 3:03
2-02 All Or Nothing At All 3:42
2-03 Greensleeves 4:27
2-04 Greensleeves 3:47
2-05 Greensleeves 3:44
2-06 Greensleeves (45 RPM Take) 3:37
2-07 Greensleeves 4:18
2-08 It's Easy To Remember 4:40
2-09 It's Easy To Remember 2:45
2-10 It's Easy To Remember 2:47
2-11 It's Easy To Remember 2:46
2-12 It's Easy To Remember 3:45
2-13 It's Easy To Remember 2:38
2-14 It's Easy To Remember 2:42

Personnel:
John Coltrane - tenor saxophone
McCoy Tyner - piano
Jimmy Garrison - bass
Elvin Jones - drums

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