Momus 「Ping Pong」(1997)

 自らの変質さや市場と折り合いに興味を失ったような、とりとめないポップス集。アルバム全体の、わずかなヌケの悪さが寂しさを表現した。
 

 米盤はジャケットが変更され、よりキッチュさが前面に出た。逆にコンパクトな打ち込み中心の内省サウンドを表現な点では、オリジナルの携帯ゲーム機を描いたジャケットのほうがコンセプトを明確に言い表している。
 
 ヘンテコ紳士モーマスが72分ぎっしり16曲詰めて、97年にロンドンで吹きこんだ。
 クレジットを見ると、全ての作編曲演奏とプロデュースはモーマスが行っている。
 チープなシンセが主体のサウンドではあるが、打ち込み一辺倒でなくギターやパーカッションなど生演奏もダビングしてる。

 繊細で退廃的なムードを漂わせたデビュー86年から初期のイメージは、じわじわと変貌していく。分岐点らしきアルバムはいくつもあった。
 打ち込み中心を明確に出した"Hippopotamomus"(1991)。
 セルフ・カバーで自らをパロディ化したような"Slender Sherbet"(1995)。
 あるいは前作、デモ集のような"20 Vodka Jellies"。

 モーマスはジワジワと壊れ、内省さが孤高の領域に向かった。価値観がどんどん現実と乖離していく。ナイーブさはセールス・ポイントでなく単なる性格のアピールになり、へんてこな趣味嗜好は、もはや共感を求めず単なる自己発露になった。

 本盤にぎっしり詰まったポップスも、聴き手へおもねったり売れ線を意識は皆無。もはや白亜の塔で世捨て人の貴族が、ひとり呟いてるかのよう。
 どの曲もモーマス節が炸裂した。センチメンタルで滴るようなメロディが、つぶやかれる。盛り上がりや構成をほとんど意識せず、自らの世界に籠りながら。

 なおすでに日本への興味は強烈に沸いていた。クレジットのサンクス覧には日本人らしき名前が幾人も並ぶ。大阪へ移住するのは、もう少し先の話。日本で録音は本盤の数年後、"Oskar Tennis Champion"(2003)になる。
 (9)では渋谷、(11)ではたまごっちを曲名に冠する。エキゾティックな文化圏として日本を明確に意識し始めた。(9)で「チョベリグ、チョベリバ」と歌われた日には、腰砕けになる。

 サウンド面にも工夫あり。(4)でのギター・ソロは三味線みたいな音色で、ぺしぺしと薄っぺらく響いた。
 (9)でのチップチューンみたいなテクノ・アレンジも、ある意味で日本っぽい。(14)のシンセ・サウンドは演歌の換骨奪胎か。

 全体的にアートを隠れ蓑な自己表現よりも、ずっと本作は日記に近い。とりとめない作品集な感じ。思いついたことを次々に作品にしてる。デモのように投げっぱなしにするほど、まだ割り切ってはいないが。
 チープながら、キチンとアレンジして仕上げる気概は残ってる。それが本盤を指一本だけ、ポップスの世界に座らせた。

 喉を張らずつぶやくような歌い方はそのままに、ラップ風に語り掛けたりダブル・トラックで深みを出したり。あれこれと工夫やアイディアを取り入れた。
 崩れそうな耽美趣味はそのままに、どこか明るいムードを漂わせる。だが、同時に寂しさも本盤から強く漂う。

 本盤でのモーマスは吹っ切っていない。おずおずと躊躇う臆病さと、孤高に踏み切る強い意志の双方が危うく揺れ動いた。これはあくまでサウンドから聴いた僕の印象だ。
 しかし後年の投げっぱなしないい加減さが本盤には、まだ表れていない。
 
 安っぽいが、丁寧に磨き上げる気概が残っている。

Track listing:
1 Ping Pong With Hong Kong King Kong (A Sing Song) 0:49
2 His Majesty The Baby 4:23
3 My Pervert Doppelganger 4:32
4 I Want You, But I Don't Need You 4:46
5 Professor Shaftenberg 3:33
6 Shoesize Of The Angel 6:33
7 The Age Of Information 4:37
8 The Sensation Of Orgasm 3:52
9 Anthem Of Shibuya 4:00
10 Lolitapop Dollhouse 4:08
11 Tamagotchi Press Officer 2:20
12 Space Jews 3:58
13 My Kindly Friend The Censor 3:53
14 The Animal That Desires 7:05
15 How To Get - And Stay - Famous 7:36
16 2PM 5:56

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