Genesis 「We Can't Dance」(1991)

 静かなキャッチーさを持つ、プログレ回帰を果たした盤。

 ツアー・メンバーも含めてゲストを一切呼ばず、三人だけで作られた。ベースとギターをマイクが担当しており、厳密な意味でのバンド・サウンドとは異なる。過去数枚に遡っても、ジェネシスは基本的に自分たちだけでアルバムを作ってきた。それが彼らの矜持か。

 本盤からシングルは6曲切られた。アルバムも売れた。決して自己満足のアルバムではない。
 フィルは本盤でジェネシスを去った。本盤の6年後"Calling All Stations"(1997)を出して、ジェネシスは実質的に解体している。

 プログレだからとコンセプチュアルな世界やテクニック偏重に向かう必要もない。ポップスに身を売ったと非難も理不尽だ。どんな音楽を志向しようとも、根本がブレていなければ。
 ぼくにとってジェネシスはプログレの雄でありながら、ポップス志向の最も強いバンドだった。最初に知ったのが"That's All"などを収録した"Genesis"(1983)で、顔の見えない抽象的なジャケットから「中学生には分からぬ大人のロック」って彼らを意識したせいもある。

 ちなみに僕がジェネシスに限らず、全ての音楽で特に好きな曲のひとつが"That's All"。"That's All"には、小粋なスイング感にやられた。
 洋楽を聴き始めてすぐにプログレへ触れたが、"That's All"の音楽性としっくりこず、ジェネシスの立ち位置に戸惑った。
 その一方で"MAMA"の重厚さは苦手だった。この両極端を一枚に収める懐深さがプログレかな、とも思ったものだ。

 そんなわけで大好きな曲がレパートリーにもかかわらず、ぼくはジェネシスの熱心なファンとは言えない。聴いてない盤もある。
 あまりにつかみどころない、幅広い音楽性と後年のポップス寄りなアプローチに違和感を感じたためだ。

 明確なフックを持ったポップス集として大ヒットしたアルバム"Invisible Touch"(1986)はよく聴いた。しかしそこでも、彼らに熱烈な思い入れはなかった。
 この歳になるとどうでもいいが、当時はメインストリームとサブカルチャーは明確に区別したい、かたくなさを持って聴いていたから。

 本盤はそんな思い込みすら軽く飛び越え、改めて地に足を付けたプログレ回帰のコンセプトが透ける。しかし個々の楽曲に込められたポップ・センスはぬぐえない。
 猛烈に攻めてくる熱さを控え、静かに見つめる曲が多い。メンバーが歳をとって疲れたのかもしれない。

 売らんかな、のパワーが充満した"Invisible Touch"よりも、むしろ"Genesis"に近い。
 そして本盤は初のCDサイズ。12曲入り61分のボリュームで、なんとも重厚で盛りだくさんなイメージを作った。
 ジェネシスは丁寧にツアーを繰り広げ、ゆったりじっくりとアルバムを売ったので80年代以降のアルバムは少ない。"Invisible Touch"(1986)から5年後、91年に本盤は発売された。
 フィル・コリンズがソロで忙しいせいもあったろう。熱心に彼らを追っていたわけでないため「やっと出たか」程度の、当時は認識だった。かなり後になって、本盤を聴いた。

 夢中になる、とはちょっと違う。しかし"Invisible Touch"(1986)に感じた、フィルのソロに感じたキャッチーさの過剰さが好い加減に減じて、静かな広がりが心地よい盤だなと思った。
 発売当時はヒットチャートを既に追っておらず、タイトル曲をちょっと耳にしたことあるくらい。すべてを新鮮に聴いた。もしヒット曲を知ってたら、アルバムの印象は変わったかもしれない。

 本盤は静かなアルバムだ。メロウなバラードが印象に残る。
 アップで押す楽曲もある。しかしそれすらもポップを強欲に追及せず、穏やかな余裕を感じる。それがメンバーの余裕であり、そもそもジェネシスの音楽性か。

 全12曲が三人の共作とある。10分越えを2曲収め、じっくりソロを聴かせる構成も厭わない。明確なアルバム・コンセプトをあからさまにアピールしないが、緩やかな統一性を持つ。

 鍵盤の粘っこくべったりしたシンセ音色が、バタバタするフィルらしい独特の16ビート感覚が、シンセ・ギターかと音色加工したギターとベースが、このサウンドを作った。
 奏者としてテクニック披露の我を張らないのも特徴だ。フィルはもっと潔い。生ドラムにすら拘らず、リズム・ボックスを大胆に導入してる。ソロでリズム・ボックスの成功も意識のはず。しかしテクニカルなアンサンブルがプログレの特徴って先入観がぼくにあったため、このアレンジはむしろ潔さを感じた。

 プログレ・マニアには向けない。しかしシンフォニックな要素を取り入れて、単なるポップスも追求しない。ちょうどいいバランス感覚と、老成した落ちつきが本盤を産んだ。
 この盤で苦手なのは鍵盤の柔らかいがのっぺりした音色。あとはいい感じだ。

Track listing:
1 No Son Of Mine 6:39
2 Jesus He Knows Me 4:16
3 Driving The Last Spike 10:08
4 I Can't Dance 4:01
5 Never A Time 3:50
6 Dreaming While You Sleep 7:16
7 Tell Me Why 4:58
8 Living Forever 5:40
9 Hold On My Heart 4:38
10 Way Of The World 5:39
11 Since I Lost You 4:09
12 Fading Lights 10:16

Personnel:
Bass, Guitar, Backing Vocals - Mike Rutherford
Keyboards, Backing Vocals - Tony Banks
Percussion, Drums, Vocals - Phil Collins

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