けもの 「LE KEMONO INTOXIQUE」(2013)

 薄く生々しいジャズを伴奏の、なまめかしくも妖しいボーカル・アルバム。

 菊地成孔がプロデュースした青羊のソロ・ユニット、けものの1stフル・アルバム。

 ぱっとイメージしたのは(2)から、ピチカート・ファイブ。そしてもちろん(9)でスパンクス。
 ただし青羊の歌声はもっと芯が太い。壊れそうな危うさとも、異物の存在感とも違う。すらりと非日常性を演出しつつも、自立した逞しさをうっすら滲ませた。小粋なジャズをバックにしつつも、気取りすぎぬ。野暮ったくはないが、テクニックに走らず言葉を一つ一つ不器用に置いていく。

 ものんくる、菊地凛子と本盤の後に続くアルバムに比べて、個性をさりげなく立たせつつも敢えてイメージを統一させない。ふんわりと浮遊させた。ジャズでもポップスでもなく、無邪気な音楽でも病んだ世界観にも留まらない。
 ものんくるが洗練されたふちがみとふなとを連想させ、菊地凛子で病んだ女性の演技をあらゆる意味で描いた。

 だがこの盤は、むしろ素直だ。青羊のキャラクターを素直に立たせつつ、菊地の洒落たセンスを振りかけて鮮やかに彩った。いい感じのプロデュース具合。菊地の個性を出しすぎず、一方でサックスの音色やスマートなアレンジの雰囲気に菊地の味を漂わせる。
 ものんくるでは彼らの個性を立て、菊地凛子ではグッと世界観を明確に彩ったのと比べて、ちょうど中庸の立ち位置に感じる。

 その一方で菊地のサックスをたっぷり味わえるのも、本盤の美味しいところ。滑らかなアドリブから、噛み潰したフリーキーな音色まで多彩なサックスが聴ける。

 若手ジャズメンをバッキングに並べたが、シンプルなコンボ編成ではない。引き算のアレンジだ。主役はあくまで青羊であり、ドラム/ベース/プアののリズム隊にはこだわらない。
 エレピをそこかしこで使い、揺れる妖しさをなまめかしく演出した。その一方で、青羊の歌声は意外とシンプル。UA好きとインタビューで言うように、かすれた歌声を持ちながらあまり声を張らない。するりと歌声を並べた。

 全13曲、13年2月25日と26日の二日間であっさり録音された。ダビングも無し、かな。曲ごとにアレンジが異なるけれど、ほとんど手をかけずに録音できたのは奏者たちのテクニックあってこそか。

 ポエトリー・リーディングで菊地のシンセがいっぱいな(9)でスパンク・ハッピー色を出す以外は、生演奏のムードを全面に出した。
 基調はアコースティック。エレピを使う場面もあるが、コンボ編成のジャズを繰り広げ
、わかりやすい凝りっぷりは無い。鍵盤を静かに前に出しつつ、ドラム/ベースを曲によって二組使い分けた。あとはところどころで、菊地の流麗なサックスが色を添える。
 (5)と(11)、(8)と(13)でリズム隊を変えてアプローチをさりげなく聴き分けられる工夫も施した。こういう構成のプロデュースがにくい。

 曲は青羊のオリジナルが主となる。スタンダードで(1)(12)、ジェフ・マルダーの娘なクレア&ザ・リーズンズの1st"The Movie"(2008)に収録の(6)、マイケル・ジャクソン(7)とアルバムの前後中央にカバーを並べた。曲構成もアルバムを見事に締めている。

 (7)が顕著だが、超有名曲を選びながらも素材に変えた。ビート性を消して曲の個性をがらり変えている。このアレンジは青羊と菊地、どっちのアイディアだろう。

 アルバム全体を通して、若い女性の溌剌さよりプラスティックな美しさを演出する。しかし作りこみすぎない。
 あまり声量を出さない歌い方を逆手に取り、オンマイクで息遣いをたっぷり聴かせて生命力を見せる。やりすぎず、見事にまとめる菊地のプロデュース力を、青羊は無造作に受け止めて自己アピールに変えた。計算を感じさせず、天然で。
 
 ぱっと聴きは静かなアルバム。しかし聴き続けるほどに、味わいが深まる。

Track listing:
 1. MY FOOLISH HEART
2. アンビエント・ドライヴァー2
3. 月とあの子
4. すごいエンジン
5. フィッシュ京子ちゃんのテーマB
6. PLUTO
7. BEAT IT
8. おおきな木 ver.2
9. 魚になるまで
10. お菓子なうた
11. フィッシュ京子ちゃんのテーマA
12. DAY BY DAY 13.おおきな木 ver.1

Personnel:
青羊:vo

石田衛:p
織原良次:b
トオイダイスケ:b
柵木雄斗:ds
石若駿:ds
菊地成孔:sax,vo,synth

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