Elvis Costello 「Secret, Profane & Sugarcane」(2009)

 カントリーやブルーグラスへの愛情を素直に込めた、地味ながらのびのびしたアルバム。

 さっと録音してパッと出す。"Momofuku"(2008)で味をしめたエルヴィス・コステロは、ひそかにもう一枚のアルバムを作ってた。たった3日間で作った本盤は、カントリーへの憧憬を無邪気に披露してる。
 
 時系列で言うと、"Momofuku"の2回目のセッションが08年の2月。同年4月に本盤が発売され、プロモーションやライブで4月のコステロはアメリカにいた。
 その隙間、3月31日から4月2日にナッシュヴィルに飛んだコステロは、さっと本盤の録音を完了した。電光石火。さすがに発売は一年置いて、翌年に発売された。

 録音メンバーは地元のミュージシャンらしい。のちにシュガーケインズと本盤から取ったバック・バンドとして、ツアーやアルバム"National Ransom"(2010)につなげてる。
 本盤のプロデュースは盟友Tボーン・バーネット。"King Of America"(1986)で英国人のコステロが、アメリカのルーツ・ミュージックを取り入れた盤でも、彼のプロデュースだった。
 "King Of America"はのどかなムードを前に出しつつも、気負いやヒリヒリする緊張もあった。キャリアを右肩上がりで延ばす中、リハビリめいた"Almost Blue"(1981)と異なる完成度の高さを、"King Of America"では目指したろうから。

 しかし本盤で邪気は無い。ベテランの余裕綽々。コステロ節の特徴はそのままに、アコースティック中心に緩やかでカラッと乾いたブルーグラスを鮮やかに描いた。

 楽曲はなぜか再演で"Complicated Shadows"。"All This Useless Beauty"(1995)のレパートリー。試しに旧曲を手慣らしでやったら、よかったってことか。
 あと"Hidden Shame"も旧曲で、同時期の曲。89年録音のデモが、"All This Useless Beauty"の再発ボートラでリリースされている。
 他には"Changing Partners"をカバーした。パティ・ペイジの録音が有名らしい。Joe DarionとLarry Colemanの詩曲で53年に出版された。

 あとは全部、新曲か。(3)(10)(12)は共作だが"Momofuku"に続けて、これだけオリジナル曲のストックあるのが凄い。逆に曲が余ったからこそ、本盤の録音へ至ったのかも。

 基本はバンド・サウンド。だが流しっぱなしでなく、メリハリや曲調をあれこれ変えてバラエティに富ませた。
 喉をむやみに張らず、アップテンポで押し倒しもしない。バラードでしみじみ寛ぎすぎもしない。ブルーグラスへの愛情を素直に楽しんでる。逆に音楽ジャンルへ寄り掛からず、(9)などコステロ流のイギリス風味を投入することで、アルバムにおける音像の幅も出した。

 レコード・ストア・デイ狙いで(1)と"Dirty Rotten Shame"のカップリング・シングルは出したが、それだけ。
 本盤からシングルも切らずにプロモーションを済ませたようだ。ガツガツと売れ線を狙うプレッシャーから解放されてる、ベテランならではの余裕ある活動だ。

 なお本盤では3曲の未収録テイクあり。それぞれボートラで発売された。ヴェルベット・アンダーグラウンドのカバー"Femme Fatale"、トラッドにコステロが詩を付けた"What Lewis Did Last"、そして前述のオリジナル曲"Dirty Rotten Shame"。3日間でほんと、あっというまに色んな録音を済ませたんだな。

 センチメンタルなメロディでも、湿気は少ない。晴れ上がった空気感に、イギリス流もしくはコステロ風味のひねった影が乗る。
 デモテープみたいな簡素さと、ブルーグラスの凝りすぎぬ温かさが混じって寛いだムードを紡いだ。噛みしめて滲む味わいと、ビール片手に無邪気に楽しむ双方の方向性を詰めた盤。

 あんまり売れなかったせいか、中古盤も安い。悪くない盤なのに。

Track listing:
1 Down Among The Wines And Spirits 3:11
2 Complicated Shadows 2:53
3 I Felt The Chill 3:59
4 My All Time Doll 4:09
5 Hidden Shame 4:14
6 She Handed Me A Mirror 4:04
7 I Dreamed Of My Old Lover 2:37
8 How Deep Is The Red? 3:47
9 She Was No Good 3:47
10 Sulphur To Sugarcane 5:59
11 Red Cotton 5:43
12 The Crooked Line 3:49
13 Changing Partners 2:39

Personnel:
Elvis Costello - acoustic guitar, vocals
T Bone Burnett - electric guitar, production
Jeff Taylor - accordion
Mike Compton - mandolin
Dennis Crouch - double bass
Jerry Douglas - dobro
Stuart Duncan - banjo, fiddle
Emmylou Harris - harmony vocals
Jim Lauderdale - harmony vocals

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