Alfa Mist 「Antiphon」(2017)

 新鋭ビートメイカーの1st。ジャズのクールさを、ほんのり歪ませた。

 イギリスの黒人ビートメイカーAlfa Mistが、17年3月に発売した1stアルバムで、2015年のデビューEP"Nocturne"に続く作品。配信のみのリリースかな。AmazonやBandcamp、CD Babyなどで入手が可能だ。
 
 冒頭から10分越えのセッションで、ブレイクビーツよりジャズに寄った仕上がり。だが2曲目からヒップホップ色が滲んでくる。ニュー・ソウル、もしくはフュージョンを踏まえた音楽性ながら、乾いた空気感とざらつくビートの雰囲気が今仕様ということか。
 そこかしこで変拍子にひねってる。いまいち偶数で割り切れないノリだ。

 ぼくがリアルタイムの音楽に触れておらず、あからさまな尖鋭性や同時代感が今一つピンとこない。本盤を聴いて、昔とは何かが違うってのは感じる。グルーヴに没入せず、一歩引いた冷静な視点に見える。だがイギリス流の洗練もしくは青白く陰った屈折とも違う。 
 何かが、違う。上手く言語化できない。直感的もしくは理屈まっしぐらなアメリカ勢と違って、イギリスのソウルやジャズは一枚のベールで覆われた感じがある。輸入音楽のためか。いったん自国の文化と咀嚼した解釈ゆえか。
 もっと無邪気かつカタログ的にフィルターをかけて、マネにせよオリジナリティにせよ、独自性が滲む日本での"西洋音楽"と違う。

 一般論で言うと拡散するので本盤に絞るが、生真面目さ、もしくはためらいが本盤から滲む。開放性ともひねったこだわりとも違う。どこか整えを施す冷静さが、本盤から染み出す。
 そうか、逆にジャンルへこだわっていないのか。ジャズとは、ヒップホップとはって追求よりも、上澄みをきれいにまとめている。芯は自らのリズム感や美意識。

 アドリブのフレーズもテクニックや直観的なアプローチを追求しない。クール・ジャズや欧州ジャズよりも、もっとクラブ仕様なアシッド・ジャズと似た、乾いた小奇麗さがあり。かっこ悪くはない。きれいだと思う。

 生演奏ゆえのダイナミズムがありながら、例えば(3)では即興に身をゆだねず、白玉シンセの男性コーラス風なバッキングをかぶせる。奇数拍子っぽく揺れる小刻みなリズムの上で。
 リーダーである鍵盤奏者なAlfa Mistのこだわりか。破綻を慎重に避けた。

 鍵盤のフレーズによる自己表現よりも、サウンド全体の整えを優先する。この辺がプロデューサー感覚なAlfa Mistのこだわりかもしれない。
 コンボ編成よりオーケストレーションまで含めた集合体、総合的なサウンドの出来で勝負をかけている。

 例えば(4)の最後。生々しいピアノ演奏とシンセ・ストリングスを足して、プラスティックに磨かれた音像を描いた。ペダルを踏む肉体的な空気と、作りこまれた風景が混ざってクリーン・ルームな箱庭を演出してる。

 (5)の最後でもフェイドインやコーダで締めず、テープ操作風にぐにゃっと終わった。
 歪んだギター音色が現れる(6)も、あくまでディストーションはコントロールされた。滑らかにミックスされた鍵盤をかき消さない。
 この作りこみは生演奏のベクトルとは違う。奏者の汗を感じさせない、もしくはライトアップで光る汗の輝きのみを見せるかのよう。

 若さゆえの破綻した冒険を欲しがる聴きかたが間違っている。今の時代は、この手の音楽へ求めるべき構築美であり、荒ぶった規格外の存在ではないのだろう。

 録音したPinkbird RecordingはWebによるとアナログ機材が売りらしい。
 http://pinkbirdrecordingco.com/studio/
 けれども出音は見事にデジタルな硬さがある。アナログの太さを根底に据えても、あくまで上品に整えられた。この辺のそつのなさが、何とも興味深い。

 全体的にはつんのめりながらグルーヴを崩さないビート感が気持ちいい。一曲を選ぶなら(8)。あれこれふわふわと和音が飛び交う変化が良かった。

 参加ミュージシャンはDiscogsで検索の限り、本盤以外に目立った参加作が出てこない。Jordan Rakeiに若干の参加作が見られたくらい。Alfa Mistの周辺ミュージシャンたち、なのかも。あと何年かしたら、本盤参加メンバーたちが話題性持って語られるのかもしれない。


 
Track listing:
1.Keep On 10:47
2.Potential 05:09
3.Errors 10:01
4.Breathe (Feat. Kaya Thomas-Dyke) 07:27
5.7th October 04:09
6.Kyoki 06:06
7.Nucleus 06:42
8.Brian 02:34

Personnel:
Keyboards, Piano - Alfa Mist
Alto Saxophone - Maria Medvedeva (on 1, 3, 6)
Artwork - Kaya Thomas-Dyke
Bass - Kaya Thomas-Dyke (on 3, 6, 8), Rudi Creswick (on 1, 2, 4, 5, 7)
Drums - Gaspar Sena (on 5, 7), Jamie Houghton (on 1, 2, 3, 4, 6, 8)
Guitar - Jamie Leeming (on 1, 2, 3, 7), Mansur Brown (on 2, 6, 7)

Trumpet - Johnny Woodham (on 1, 4, 7)
Violin, Strings - Lester Salmins, Tobie Tripp (on 4)
Vocals - Jordan Rakei (on 2, 3), Kaya Thomas-Dyke (on 3, 4)

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