Masada 「Alef:One」(1994)

 高らかに表れたマサダのデビュー・アルバム。

 ジョン・ゾーンの大きな転換点となったMASADAの1stは、日本のみの発売だった。いまだに各国で再発された様子は無い。入手性はどうなんだろう。Amazonのマケプレでは7千円程度とけっこうなプレミアがついている。

 TZADIKで再発する様子もなし。ゾーンのキャリアで重要な盤のはずだし、大人気のバンドなだけに販売力もあると思うが再発の動きはないようだ。デジタル販売もなさそうだし。不思議。ライブ盤だけでもTZADIKからあれこれ出ており、改めて発売する必要もないって判断か。

 そもそも1stって位置づけも、本質的に無意味だ。この94年2月20日にMASADAは本盤だけでなく、2ndと4th、さらに3rdの一部音源まで録音してしまった。さらにアウトテイク集"Sanhedrin"(2005)には、加えて5曲の音源あり。
 なお"Sanhedrin"では本盤(11)の別テイクが聴ける。たぶんワンテイクで片端から録音と思うが、まったく一発勝負でなく何曲かは複数回録音したもよう。どんな一日だったのだろう。ドキュメンタリー本を読んでみたいものだ。

 ともかくそんなわけでアルバム4枚分を1日で録音しており、1stと2ndに本質的な違いは無い。アルバムとしてのまとまり、程度だ。
 だがその違いこそが、重要なのだろうか。後年までMASADAはソロ回しで無闇な長尺を目指さず、せいぜい7~8分程度とコンパクトに一曲をまとめる。

 本盤でも11曲と多数収録された。せっかちなゾーンらしい方向性だ。おおざっぱな時系列で言うと、この時代のゾーンはペインキラーを稼働のころ。Naked Cityのスキゾなス
ピード感から、フリーキーかつパンキッシュな即興を行ってたイメージある。
 とはいえ僕は当時、リアルタイムでゾーンを聞いてはいなかった。社会人の数年目で仕事に追われてたころだし。

 ただ、音楽雑誌でMASADAの存在くらいは知ってた。ユダヤ要素を前面に出す一大転換で、なにがあったのだろうとくらいは思った記憶あるような。
 TZADIKの稼働は2005年、本盤の翌年になる。一匹狼で価値観の擾乱者からユダヤのルーツを見据える大きな舵の変更がこのとき、行われた。

 TZADIKから出たMasadaのデビュー録音、"First Live 1993"(2002)が93年9月2日。本盤が翌年2月20日。
 初ライブからレコーディングまであいだ、どのくらいライブを重ねたかは知らない。いずれにせよ数えるほどではないか。半年足らず、まさに思い立ってすぐさまMasadaは作品に仕上げられた。

 なお当時の音源らしきものとして、コンピレーション"Klezmer 1993 New York City - The Tradition Continues On The Lower East Side"(1999)でMasadaによる"Ziphim"のライブ音源が聴ける。ただこれも録音時期が不明で、93年のデビュー前音源かは怪しいのだが。

 ともあれゾーンは本盤で、明確にノイジーに吹き倒すアプローチから一線を画した。
 あくまでメロディアス。なおかつユダヤ的な切なさ。"Kristallnacht"(1993)で表に出した民族的なプライドと、"News for Lulu"(1988)でとっくに表現してたオーソドックスなジャズを、MASADAで結実させた。

 後年のMASADAで聴けるスピード感はむしろ控えめだ。トレードマークであるサックスとトランペットの二管が並行即興する、絡み合いもどことなくぎこちない。
 Naked Cityからの盟友ジョーイ・バロンと息を合わせつつ、グレッグ・コーエン、デイブ・ダグラスという新たな仲間と作り上げるみずみずしさが本盤に詰まった。

 抜群にうまいメンバーぞろいだから、カッチリ構成されて完成度は高いのだけれど。後年の変幻自在ぶりに比べたら、まだほんの少しだけ荒い。その危うさが音楽的なスリルにもなっている。
 こだわるのはメロディ。センチメンタルさとスピード感。フリーだがオーソドックスな構成を残す。奔放ながらかっちりしてる、相反さを見事にまとめ上げた。Masadaの本当にすごいところは、このデビュー作から本質的なところが完成しており、このあとはひたすら円熟の道を歩むところだ。決してブレず、なおかつ発展性が凄まじい。
 作曲家として、バンド・リーダーとしてのゾーンの手腕が確かな点を、痛感できる一枚。
 
Track listing:
1 Jair 4:54
2 Bith Aneth 6:25
3 Tzofeh 5:15
4 Ashnah 6:21
5 Tahah 5:41
6 Kanah 7:25
7 Delin 1:56
8 Janohah 9:40
9 Zebdi 2:48
10 Idalah-Abal 6:15
11 Zelah 3:48

Personnel:
John Zorn - alto saxophone
Dave Douglas - trumpet
Greg Cohen - bass
Joey Baron - drums
Recorded at RPM, NYC on February 20, 1994.

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