Prince 「Lovesexy」(1988)

 至高の傑作であり80年代快進撃の総決算な、プリンス流のゴスペル。16ビート感覚とヒップホップ要素の混交が、最高に高まった創作性とトータル・アルバムを産んだ。

 プリンスの快進撃なスタートを仮に"1999"からとしよう。"Purple Rain"で盤石の態勢を築き、"Around the world in a day"を筆頭に"Parade","Sign o the times"と矢継ぎ早にアルバムを発表し、そのどれもが先駆性を持っていた。進歩する音楽性をスリリングに楽しめた同時代を過ごせたことは、ほんとうに幸せだった。

 その集大成が本盤であると思う。鍵盤を巧みに使い、白人ロックを取り入れつつもJBを筆頭の先達ファンクを吸収し、シンプルに組み立てたプリンス・サウンド。
 さらに"Purple Rain"や"SIGN 'O' THE TIMES"で顕著だった、語るようなメロディ・ライン。これはヒップホップと非常に親和性が高かった。逆に、チープなストリート感覚を売りにするラップと、完全に相反するのだが。
 
 一方で、メロディアスだからこそラップと相いれなかったし、プリンスの頭か裏拍をきっちり叩いて小気味よさを出すラップの好みは、フロウする字余りラップとも溶けない方法論だった。この辺は、話がそれるのでやめよう。
 
 "Lovesexy"のジャケットは素っ裸で悪趣味極まれり、みたいな評判だった。いっぽうで「すべてをさらけ出し、十字架一つで神にと対峙する」と明確にコンセプトを読み取ったアメリカのジャーナリストを招待し、プリンスと食事を楽しんだというエピソードもある。
 プリンスはスキャンダラスなイメージを保ちつつ、敬虔さを両立させる。そんな頭を絞ったイメージ戦略だった。

 本盤の直前にプレス寸前まで行き発売中止となった"Black Album"があるのは有名な話だ。
 ぼくはこの盤すら、プリンスのプロモーション戦略だったのではと想像する。つまりズブズブのファンクをアルバム一枚分作り、ぎりぎりでキャンセルする。そしてクリーンなイメージをとことん強調した本盤をリリース。
 その方法論で本盤の崇高さを、大胆にアピールしたかったのではないか。

 平たく言えば、話題作りのためにギリギリまでアルバムの戦略を進行させ、ドタキャンすることで新作に期待を持たせる。
 「アルバム一枚、無駄にするくらいだから新作はどんなに素晴らしいことだろう」と思わせるために。

 いずれにせよ予算の無駄遣い。"Black Album"をいったん発売してイニシャル・プレスで廃盤。間をおかず"Lovesexy"を発表という貧乏くさい手もあるのに。
 まあ、こんなせせこましい販売手法はワーナーも選ばないか。無駄な流通経費が掛かるだけだし。

 ともかく、"Lovesexy"は世に出た。「CDだとトラック分けなし。頭から最後まで一気に聴け」って方法論とともに。実はこれも、ちょっと時代が早かった。88年時点では、少なくとも日本ではCDが普及にはちと早い。ぼくはLPで買ったため、今一つピンと来なかった。
 LPで途中から針落としすればこのコンセプトは瓦解する。むしろ後年、CDで買い直した時に「めんどくさいことするなー」とうんざりして、しばらく本盤を聴かなかった。
 思い切り集中して聴くことでもない限り、途中の一曲だけ聴くって機会は少ないのにね。
 むしろ最近、i-podで聴くときに本盤のコンセプトは再び意味を持った。移動中に聴くとき、曲を飛ばすとか面倒なことをすることこそ、ごくまれ。流しっぱなしだから、トラック分けはほとんど意味がない。むしろアルバムの統一性あることが、聴いてて楽しい。
 
 面白いことに、アルバムそのものにひとつながり性は希薄だ。いわゆるメドレー式ではない。フェイドアウトで曲が終わり、次の曲が始まる場面もあり。その自然な曲順の選び方そのものが、本盤にトータル性を持たせた。ちなみに歌詞はよく知らない。もしかしたら、詩を知るとさらに意味性が変わるのかも。

 サウンドに話を移そう。密室性とバンド的なダイナミズムの双方を本盤は持っている。ホーン隊もふんだんに暴れて、完全にワンマン・レコーディングではない。実際の録音の様子は知らないが、リズム隊はすべてプリンスのような気もする。
 だがコーラスは他の人も呼び、キャットのラップを筆頭にわさわさっとした集団性を強調した。P-Funkみたいなざわめかしさを、すっきりしたプリンス流のファンクでまとめてる。

 さらにアナログ・レコーディング流の滲みを最高にうまく使った。音数少なく分離良い、デジタルなサウンドではない。ぎっしり音が詰まり、丁寧なミックスで奥行きを出す。数限りないダビングが施され、なおかつハーモニーはプリンスの多重コーラスを筆頭に複雑な構造を作った。
 プリンスはダブル・トラックやハーモニーへ異常にこだわっている。完璧なピッチで合わせられるテクニックがあってこそ。

 そして雑踏を同じ声のダビングで厚み出す手法がすきなようだ。
 顕著なのがキャットのラップ。あれってダブル・トラックだよね。ハーモナイズでダブルにせず、同じラインを繰り返させ、最後の部分でソロ・トラックにしてる。

 プリンスのハーモニー・センスと、和音感は独特だ。誰か楽典的に細かく分析して欲しい。ぼくは、知識が無く出来ないから。

 収録曲はパッと聴き、過去作の焼き直しと最初は感じた。だが僕はプリンスの作品でベストを問われるならば、迷わず本作を上げる。
 このあともプリンスは傑作を山のように作ってきた。しかしアルバム・サイズで緻密かつ隙の無さを見せたのは、本盤が格別と思う。

 のちのプリンスは、CDパッケージと格闘を続けた。たぶんプリンスのパッケージ観はLPサイズがぴったりなのだ。CDの収録ぎりぎりだと、アルバムとしては盛りだくさん過ぎて終盤まで集中力が続かない。

 ・・・これって、プリンスのせいじゃないな。おれのせいだな。
 ま、まあ。それはさておこう。よし、次の話題だっ。

 本盤が集大成というのは、過去の楽曲と連結したコンセプトを感じたため。具体的にいおう。
 "Glam slam"や"Lovesexy"は"1999"のアレンジ・センス。
 "When 2 R in Love"や"Positivity"は"Purple Rain"の色合い。
 "I Wish U Heaven"は"Around the world in a day"の乾いた質感。
 "Dance on"や"Anna Stesia"のクールさやはしゃぎかた。
 "Alphabet St."や"Eye know"は"SIGN 'O' THE TIMES"の弾むビート性。
 
 もちろん全くの二番煎じではないし、強引にまとめてる。たとえば"Dance on"は"SIGN 'O' THE TIMES"や"Kiss"の要素が混ざって感じる、などと曲の中で複数の要素が当然ながらあり。
 だからこそぼくは、本盤が好きになった。80年代の疾走が、素晴らしくがっちりとまとめられて聴こえたから。

 プリンスは見事に、過去数年の活動を高め続けた。本盤に収められた楽曲は、みっちりと熱気やパワーが詰まり、なおかつ緻密なミックスで繊細かつ整ったバランスを産んでいる。

 80年代のプリンスは無敵だった。本盤で作品としてとことんまでやり抜いた。
 絢爛豪華なツアーを繰り広げたのも、本盤のあとだ。

 だが、リクープができなかったのか。このあと、しばらくプリンスは評論家的な視点で苦戦する。
 商業的なヒットはともかく"Batman"(1989)のわかりやすさでケチをつけ、白人マーケットをわかりすく狙いながらボロボロの評判だった"Graffiti Bridge"(1990)。
 ツアー中に録音を試し、商業的にはヒットしたがデジタルの硬さでそっけなさを出した"Diamonds And Pearls"(1991)。
 ビジネスとして結果を出しながらも、いわゆる僕を含むマニアや評論家勢からは"失速"という、無碍な対応をされた。

 CDサイズの豪華さを出そうとしつつ、詰め込み過ぎた"Love Symbol"(1992)を経てプリンスは改名騒ぎを起こしだす。
 プリンスは評論家の評判なんて、心底どうでも良かったろう。しかしこだわりは若干ながら持っていたのではないか。万人に承認されたかったのではないか。

 一般購買層の評価は売れ行きで証明できるし、ライブを行えば熱狂を肌で感じる。当然のことだ。ファンが行くんだから。
 しかしマスコミや評論家は冷淡。この不条理さをプリンスは打開しようと手管を施したのが90年代。"Emancipation"時の積極プロモーションも含めて。
 自主流通を模索することで、ほんとうに評判なんてどうでも良くなり、孤高を目指したのが00年代以降ではないか。そんなふうに僕は感じる。

 話が既に本盤の感想からそれている。強引に戻そう。創作力の進歩がマーケットとも評論家筋とも蜜月の関係を作った80年代。その上り調子がとことん高まったのが、本盤と考える。

 時代を牽引して聴き手の耳を引きずり上げた時代に、いわゆる「80年代プリンス・サウンド」として最後のアルバムが本盤だった。

Track listing:
1.Eye No (5:46)
2.Alphabet St. (5:38)
3.Glam Slam (5:04)
4.Anna Stesia (4:57)
5.Dance On (3:43)
6.Lovesexy (5:49)
7.When 2 R In Love (3:58)
8.I Wish U Heaven (2:43)
9.Positivity (7:16)

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