Prince 「Batman」(1989)

 昔は苦手なアルバムだった。しかし20年ぐらいぶりにまとめて聴き返すと、悪くない。デジタル臭さもいい感じに古びてる。それに加えて、プリンスの音楽をようやく僕の耳が受け付けてきたのかもしれない。

 大傑作の"Lovesexy"につぐ本盤は映画"Batman"のサントラ。肩の力を抜き、なおかつ商業的な成功をまっこうから追求したアルバムだ。
 だからこそ、当時は好きになれなかった。思い切りポップであるがゆえに、商業主義にすり寄った気がして。若かりしころこそありがちな、マイナー志向の趣味なぼくの耳にバイアスがかかってしまった。

 とはいえサウンド的にも前作とは大きく違う。打ち込みやヒップホップ色を強めながら、16ビート的なきめ細かいリズム性を持った前作とことなり、本盤はくっきり明確なエイトビートで攻める。
 なおかつデジタルのシンセと打ち込みが思い切り前に出た。エレキギターの比率も下がり、プリンスの杭打ちドラムが打ち込みと混ざって聴こえた。今回、それこそ20年ぶりに聴いたらエレキギターもリズムを中心に活躍してるのだが。

 そもそもプリンスは一人多重録音が常ながら、本盤は特にやっつけ感が強かった。カッチカチに硬い。"Lovesexy"がアナログ的な滲みやダイナミズムをもってたのとは対照的に。
 時代、かな。ぼくも本盤からCDで入手をしていった。"Lovesexy"はLPだったもの。 

 シンプルで打ち込みが鳴り響く本盤だが、とはいえ別にアイディア一発で一気に作ったわけでもない。半年くらい、断続的なのだろうがレコーディング期間はかけている。
 当時の未発表曲で本盤収録予定ながら落とされた曲に"Dance With The Devil"がある。この曲がアルバムのイメージを暗くするとされ、最終的に外されたらしい。プリンスの判断は正しかったと思うが、もちろん曲としては悪くない。

 バットマンへのファン気質な無邪気さや、サントラという大義名分がある徹底的なポップさの追求。それらが本盤を、すこし違う親しみやすさを産んだ。
 ここから数作、プリンスはデジタル・メディアやヒットチャートとの距離感を探る模索が続く。

 やっつけ感が強い、と言いながらもアレンジは凝っている。あくまで質感の一定さが産む一本線な色合いだ。出演者のサンプリングを使用しながらも、プリンスは幅広い声域を駆使してカミール声の早回しハイトーンから地声まで使い分けた。

 サウンドのアプローチはデジタルなビートが強いだけで"1999"から"Purple Rain"あたりの路線に近い。
 独特な和音感がところどころで聴ける。けっして単純な曲作りではなさそうだが。だれか楽典的にプリンスの楽曲を分析してくれないものか。

 なおどういう脈絡なのか、プリンスの録音風景の動画なるものも残ってる。
 スタジオに入らずコンソール前でトラックをスピーカーで流しながら、ライン録音で高速にベースを弾く姿。わずか30秒ばかりだが、貴重な映像だ。さあ、レコーディングするぞって構えず、次々に音を足してく様子が伺えるけれど。
 録音順の観点だと変な感じ。コーラスまで一通り録音した後、ベースを入れるわけ?ファンサービスというか、あくまでこの動画向けの当て振りみたいなシチュエーションなのかもしれない。


 ちなみに苦手な本盤ながら、発売当時からずっと好きだったのが(8)。プリンスの楽曲で、脳裏へ頻繁によぎるのがこの曲だ。デジタルな打ち込みながら、べったりしたシンセの音色がそれこそ80年代初期のプリンスっぽい。
 語り掛けるような節回し、サビでの盛り上がり。ひずんだ和音感。名曲だと思う。喉を軽く鳴らす箇所のテクニックも好きだ。

 そして最後の"Batdance"。本盤に収録した他の楽曲モチーフを織り交ぜ、コラージュやメガミックスのようなスピーディさを出した。
 高速に空気感を操る、プリンスの妙味を象徴しながらポップセンスを保つ、稀有な曲。

 うーん。改めて本盤を聴くと、どの曲も悪くないな。当時の僕は本盤の何を聴いていたのやら。

Track listing:
1 The Future 4:07
2 Electric Chair 4:08
3 The Arms Of Orion 5:02
4 Partyman 3:11
5 Vicki Waiting 4:52
6 Trust 4:24
7 Lemon Crush 4:15
8 Scandalous 6:15
9 Batdance 6:13

Personnel:
All choir, horn and orchestra parts were sampled and re-arranged by Prince
Special guest presence by:
Jack Nicholson, Michael Keaton and Kim Basinger on THE FUTURE, VICKI WAITING, PARTYMAN & BATDANCE
Sheena Easton on THE ARMS OF ORION
Femi Jiya with Anna Fantastic on PARTYMAN
Matthew Larsson on BATDANCE

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