Mavis Staples 「Time Waits For No One」(1989)

 プリンスが丁寧にベテラン歌手を盛り立てた一枚。少し似合わない歌い方が玉に傷。

 プリンスが仲間うちや若手からベテランにレーベルを広げ始めたころの一枚。唐突にリリースされた感があった。メイヴィス・ステイプルズの7thソロに当たる本盤はペイズリー・パークからのリリース。
 懐メロ路線や復活狙いでなく、一時代を築いたプリンスが日の光が当たらぬ先達に手を差し伸べたというか。本盤盤しかり、同年の数か月後にリリースされたジョージ・クリントンの"The Cinderella Theory"もそうだった。

 だがクリントンはプリンスの力を借りず録音、配給だけペイズリー・パークだったのにくらべ、本盤はかなりプリンスの色合いが漂う。
 全8曲中、(2)と(6)以外はプリンスがらみ。作曲もプリンス、もしくはメイヴィスとの共作だった。
 
 演奏はプリンスだけでなく、当時のプリンスがらみなミュージシャンも担当したとクレジットあり。
 クレジットはともあれ、実際はプリンスがガイド・ボーカルまですべて収録を済ませてメイヴィスはボーカルだけって可能性もある。ベテランにそこまで過剰なお世話はプリンスでもしないかな。

 プリンスの提供曲は楽曲はファンクネスを保ちつつも、どこか野暮ったい。没曲を分けた感じも少しした。
 これはメイヴィスの歌い方にも問題ある。もともとゴスペルを踏まえた朗々たる歌い方を得意とするシンガーに対して、線の細いセクシャリティが持ち味のプリンスの曲は相性悪い。

 シンプルなメロディをか細いファルセットやシャウトのニュアンス込みで魅力を付与するのが、そもそもプリンスの強み。従ってもともと歌の上手い人だと、あまりにさらっと歌いこなしてしまい、逆にメロディのシンプルさが大味に聴こえてしまう。

 例えば(1)。軽快なグルーヴ感だが、しっかり重たくメイヴィスは解釈してしまい、重心がすっかり下がった。多重ボーカルもメイヴィス自身か。プリンスほどピッチが合わず、すこしざらついた感じがする。
 (2)は本来、Homer BanksとLester Snellの楽曲でプリンスは絡んでいないはずだが。ちょっと明るい穏やかなリズムとラテン風のノリに、うっすらと紫のプリンス色が漂って聴ける。リズムが軽くてシンプルだし、文字通りプリンスは関与無しかもしれないが。
 
 (2)と似たテイストの(3)が証明めいた。プリンスが絡むとビートがリズムとベース、ギターでアクセントが多層的に鳴り、ノリが立体的になる。これも悪く無い曲だが、ちょっと溜めて歌うメイヴィスの節回しがいまいち、グルーヴ感を重たくしてしまった。
 (4)はシングルも切られた。クールなファンクで涼やかな疾走感を味わえるのに。やはりメイヴィスの歌い方が係留感を与えてしまう。これはもどかしい。野太い歌い方がむしろバック・コーラス的な頼もしさ。これはプリンスの歌唱版を聴いてみたい。

 (5)はそもそもプリンスの未発表アルバム"Dream Factory"(1986)候補曲として、三種類語り継がれる一番最後の曲順に残っていた。アルバムが没になったとき、後継となる"Crystal Ball"プロジェクトには乗らず、そのままお蔵入りとなった。
 これは重心低いファンク。むしろこれこそメイヴィスに似合いそうなのに。なんか歌とリズムが鈍く絡んでいる。弾けきれてない、というか。

 このようにアルバムとしてはプリンス流のファンクさが充満の中で、むしろオーソドックスなゴスペル寄りなソウルの(6)が良いペース・チェンジになってる。ほのぼのと穏やかだ。
 なんだろう、チャンスは凄くあるのにすれ違い感がところどころである。

 いっぽうでタイトル曲を筆頭に、バラードは凄く良い。メロディの確かさを、しっかりクッキリと上手い歌唱で表現できるから。
 プリンスもそのへんは計算してるのか、あまりネジ繰り回したメロディを本盤には提供してなさそう。

 ベストはミドル・テンポの(8)と(9)。(8)はプリンスのデモのほうが粘っこくて色気あるけれど。ちょっとしたメイヴィスのコブシは、健康的だが野暮ったくしてしまう。


 いっぽうで(9)はメイヴィスの魅力が炸裂した。語り掛けるような歌い方から、サビに向けて盛り上げる。終盤はプリンスのギター・ソロ。ある種、"Purple Rain"の亜流みたいなスタイルだ。それをメイヴィスは堂々と切なく歌い上げた。PVも残っている。


 今の耳で聴くとシンセ中心の演奏は少し安っぽい。00年代以降の緻密なプリンスの録音スタイルだと、もっと映えたかもしれない。けれども、この時代に本盤は十分な衝撃を持った。プリンス色を減じずに、鮮やかにメイヴィスを映えさせる。良い盤だと思ったよ。 

Track listing:
1 Interesting 4:28
2 20th Century Express 3:54
3 Come Home 5:29
4 Jaguar 5:29
5 Train 4:27
6 The Old Songs 5:02
7 I Guess I'm Crasy 4:10
8 Time Waits For No One 6:12

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