Gary Peacock 「Voices」(1971)

 よりピントが絞られた流麗で耽美なフリージャズ。富樫の傘下でリズムの鋭さも増した。

 日本滞在中のゲイリー・ピーコックが日本人の若手ジャズメンと吹きこんだ2ndリーダー作。こんどは前作を自作で固めた。前作のメンバーに加え、下半身不随になった直後の富樫雅彦が参加、村上と二人パーカッション体制で臨んだ。たぶん右が村上、左が富樫の演奏。
 ピアノは菊地。本盤ではエレピも演奏して響きに幅を持たせた。

 本盤での特徴はコンセプトの明瞭さ。前作での奔放さはさらに拡大し、さらにピーコックを主軸に入れ代わり立ち代わりで音を重ねるスタイルが見事に昇華してる。
 軽快かつスマートなリズムを奏でる富樫と、武骨にモタらせる村上のドラムが対照的だ。
 富樫に加え菊地もピーコックも前のめりの鋭さを持ったリズム感のため、色々な意味で村上の重たいリズム感がサウンドに幅を持たせてる。
 
 まだ富樫は後年のパーカッション・スタイルを確立しておらず、線の細く軽快なタム回しとシンバルにとどまっている。それを補強するように、村上がハットの踏みやバスドラなどドラム・セットで加わった。
 正直、ケガ前の富樫と菊地、ピーコックで吹きこんだ盤を、と夢想してしまう。さぞかし重心軽いグルーヴのジャズが出てきたろう。

 富樫、菊地、ピーコックの演奏そのものは、本盤の数ヵ月前に録音した菊地+富樫のアルバム"ポエジー"、94年にGreat 3名義の共演"ビギン・ザ・ビギン"があるけれど。
 

 とにかく本盤は、美しい。隙間の多い響きながら、隙は無い。弛緩せず緊張感が漂う、真剣な日本流フリージャズを保ちながら、柔らかい空気を漂わせる。
 フレーズやコード進行ではない。音の流れ、そのもの。つかみどころ無さは前作を軽く超え、不定形でつるつると滑らかな世界観を作った。

 明確にピーコックは、本盤で主役の芯を担当した。アレンジとしてベースのソロを軸に、周辺のメンバーが音をかぶせる構造な点もある。常にグルーヴを作り出し、みっちり太く硬い音色でベースは歌った。
 フレージングは小節線や拍から解放され、自由で鮮やかな譜割が続く。ビート面ではドラム二人に任せてる。それでもサウンドの中央はくっきりと、ベースだ。

 ピーコックはのちにポール・モチアンと合わせて菊地雅章のバンド、テザード・ムーンに加わる。ピーコックの著名な活動と言えば、キース・ジャレットとのトリオ演奏だろう。
 それらでピーコックは透徹で型にはまらないベースを聴かせていた。ぼくはそれが、ピーコックの持ち味だとしても、リーダーに引っ張られた音楽性と思い込んでいた。

 とんでもない。ピーコック自身が、既に自由なジャズをのびのびと本作で披露していたんだ。
 71年の録音らしい堅苦しい緊張感と、時代を超えた普遍的な浮遊性。双方の要素が本盤に詰まってる。しかも意識的にピーコックはこの音像を奏でた。素晴らしい。スリリングな視点が、コンパクトなサウンドで描かれている。

 キース・ジャレットとのスタンダーズ・トリオの結成は83年。その母体となる"Tales of another"(1977)はピーコックのリーダー作になる。
 菊地がテザード・ムーンの結成は1990年。ポール・モチアンは71年前半にジャレットとバンドを組んでおり、テザード・ムーンのメンツには大きな意味でジャレットの影響もありそうだ。
 だがいずれにせよ、全ての母体にはピーコックがいたんだな。初めて知った。

Track listing:
1 Ishi 11:50
2 Bonsho 6:14
3 Hollows 7:50
4 Voice From The Past 11:19
5 Requiem 6:05
6 Ae. Ay. 9:47

Personnel:
Bass, Composed By - Gary Peacock
Drums - 村上寛 (tracks: 1 to 3, 5, 6)
Percussion - 富樫雅彦 (tracks: 1 to 4, 6)
Piano, Electric Piano - 菊地雅章

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