Gary Peacock 「Eastward」(1970)

 浮遊するフリー・ジャズ。危うい空気感こそが聴きどころ。

 心身ともにリフレッシュで東京へ静養しに来てたゲイリー・ピーコックが日本人のレコード会社に気づかれ、当時の若手二人と吹きこんだ初リーダー作。よって満を持してというより、偶発的な録音だったのかもしれない。
 全7曲中、6曲がピーコックのオリジナル。残り一曲(6)はサイドメンで参加した菊地雅章の作品だ。

 本盤はピアノ編成を取り、菊地と村上寛がサポートする。若手の抜擢。なにせ菊地の初リーダー作とされる"Matrix"よりさらに前の録音らしい。すでに名を上げていたピーコックが敢えて二人を選んだ大胆さが興味深い。攻めのアルバム。
 よくピーコックはこの時点での菊地の楽曲まで取り上げる決断をしたもの。菊地の売り出しを図る、レコード会社側の判断だろうか。

 スタジオでなく川口の市民会館で録音。おそらくホールの鳴りを吸収が狙いと思われる。ふわりとした残響感が、それか。ほぼすべてが(7)のみ70年2月4日、あとはすべて翌日2月5日の録音が採用された。リハ日、もしくは予備日で二日間設定されたのだろう。

 冒頭からトリオが硬質な演奏を繰り広げる。ウッドベースのミックスはむやみにレベルを上げておらず、奔放なフレージングを楽しむにはグッとボリュームを上げる必要あり。
 律儀なハイハット・ワークで拍頭を刻むドラムと、短いフレーズを重ねながら断片的に音を重ねてくピアノ。その二人を柔軟なフレージングでベースがガッチリ連結した。ランニング気味に移動はするけれど、本質は柔らかく拍にとらわれないフレージングをゲイリーは奏でる。

 性急に畳みかけ、くきくきひねるピアノはクールな熱さを持つ。BPMは一定だが拍子は微妙に揺らぐ、もしくはあいまいになる。形式上はピアノの音が最も目立つけれど、中心を持たぬ浮遊した世界を三人は描いた。

 耽美なピアノの美学が全編に漂う。スイング感を軸にピーコックがベースを遊ばせるのではない。二人は既に独自のフリーな世界を目指している。村上の着実でまじめなプレイが、ぎりぎり音楽へ枠をはめている。律儀ではないため、ときおり村上がリズムを遊ばせると、とたんにサウンドは宙を舞う。
 たとえば(3)。高音部のフレーズがピアノで繰り返されて緊張感を作り、すっとアドリブに向かう瞬間の爽やかさは格別だ。

 演奏の起承転結は分かりやすくない。互いが自分の音を意識しつつ、我を張りすぎない。
 鮮やかなフレーズがたちまちアドリブに飲み込まれる。インプロで斬り合う世界観ではない。コーダルな風景を見据えつつ、ありふれた道をピーコックも菊地も辿らない。
 以外と本盤のキーマンは村上だったのかも。ドラムの打点一発で本盤の自由度は大きく変わる。

 ファンキーさでもスインギーでもない。クールなグルーヴが全編を漂い、武骨なドラムが傷を刻んでいく。その荒々しさが味か。
 あえて選曲にスタンダードを入れなかったのは正解。曲構造の固定観念を頭から外して、オリジナル曲の優美さへ、しっとりじっくり浸れる。

Track listing:
1 Lessoning 9:47
2 Nanshi 6:08
3 Changing 8:27
4 One-Up 5:23
5 Eastward 13:46
6 Little Abi 6:17
7 Moor 9:45

Bass - Gary Peacock
Drums - 村上寛
Piano - 菊地雅章
Producer - Kiyoshi Itoh
Track 7: February 4, 1970
Tracks 1 to 6: February 5, 1970

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