【Disc 1】Prince 「Crystal Ball」(1998)

 それでは3枚組蔵出し音源集の感想を曲ごとに書いてみる。

 なお特にアルバムごとのテーマ性は感じない。85年頃と95年頃、発売の数年前と、さらに十数年前。ちょい昔と一昔。それぞれを混ぜ合わせることにこだわったかのよう。
 冒頭2曲はマニアには嬉しいが、いきなり敷居が高い幕開けだった。このあと書いていくが、本曲は真のマニアならばリリース当時に、初めて聴く曲は一曲もなかった。

Disc 1:
1. Crystal Ball (10:28)
2. Dream Factory (3:07)
3. Acknowledge Me (5:27)
4. Ripopgodazippa (4:39)
5. Love Sign (Shock G's Silky Remix) (3:53)
6. Hide The Bone (5:04) 1
7. 2morrow (4:14)
8. So Dark (5:14)
9. Movie Star (4:26)
10. Tell Me How U Wanna B Done (3:16)

Disc 1:
1. Crystal Ball (10:28)
 
 "Sign O' The Times"(1987)の前に頓挫した2枚組もしくは1枚、あるいは3枚組のアルバム、"Dream Factory","Camille","Crystal Ball"。これらのコンセプトでカギとなる2曲がいきなり並んで、マニアには驚喜の流れ。ブートでは流出していたけれど。
 ただし楽曲は取っつき悪い。いきなり10分越えの大作で幕を空けつつ、楽曲はポップさとほど遠い。軽やかなファンクとクレア・フィッシャーのストリングスが漂うとりとめない展開から、バンド的な演奏に続く。

 プリンスの要素にイージーリスニングめいたインスト好きがある。さらに断片を興に任せて連ねるところもあり。一つの楽曲をまとめ上げる集中力もあるが、散漫にアイディアの赴くまま展開させる。そんな分裂的な天才的な志向の象徴がこの曲だと思う。
 意識の流れをそのまま楽曲にしたかのよう。シンプルなコンボ編成が、ブロックごとに次々移り変わり、つかみどころないまま展開した。
 驚異的なのは、楽曲の流れが途切れないところ。どうやって録音したんだろう。違う楽曲をつぎはぎしたっぽさが、非常に希薄だ。片端から自分で録音し、それを後で編集だろうか。
 リリースした盤は10分半だが、ブートでは11分弱や9分半程度のテイク、さらに5分弱と短いバージョンもあり。すべて流出のため真意は不明だが、楽曲にまとめようとしてスッキリうまくいかず頓挫が本音かもしれない。

2. Dream Factory (3:07)

 この曲も前述のとおり"Sign O' The Times"(1987)の前にボツった未発表アルバムの代表曲。テープ回転を落としてボーカルを録音、通常スピードだとピッチが甲高く上がる効果を使ったプリンスの仮面キャラクター、カミールの要素が既に使われている。

 ボーカルの多重録音を使った軽やかなファンク。音が妙に潰れ気味なのはマスター劣化のせいか。いまいち覇気がない重たさを漂わせながら、サビのフレーズできゅうっと絞って舞い上がるスピードさが、本曲にある二面性の象徴と思う。
 打ち込みと生演奏、ファンクネスと密室さが混在する。

3. Acknowledge Me (5:27)

 "Chaos And Disorder"時期の曲で、94年頃からライブのレパートリーになっていた。バンド的なタイトさと、プリンスが多重録音したねちっこさが合わさっている。
 よく聴くと爽やかなファンクネスが心地よい。バック・ボーカルが小さくミックスされ、メインの歌声が目立つけれど、混ぜたら行き来する勢いがグルーヴィだ。
 プリンスのラップから一気にヒップホップ風に雪崩れる流れも気持ちいい。"Kiss"と一言告げて、ふわっと浮かぶ場面の和音感も素敵。
 メインボーカルをもっとみっちり、コーラスへ埋めたミックスで聴いてみたい。

4. Ripopgodazippa (4:39)

 これも94年頃のライブで披露済み。"The Gold Experience"に収録されてもおかしくない。当時のプリンスは"Slave"と頬に文字を書き、新曲まみれのステージを繰り広げてた。これもそのうちの一曲。しとやかなファンクで、滴るムードが涼やかに響く。
 バンド演奏一発でなく、細かくいろんな楽器がダビングされている。凝りまくりの録音だが、基調はシンプル。リフを延々繰り返すだけに聴こえる。聴きこむうちに、プリンスのアレンジ力にやられる曲だ。

5. Love Sign (Shock G's Silky Remix) (3:53)

 よりヒップホップ寄りにリミックスされた曲。ノーナ・ゲイとデュエットした楽曲だがNPG名義の"1-800 New Funk"(1994)でリリースのため埋もれた感あり。改めて陽の目を当てるべく再収録ではないか。
 テイクそのものはノーナ・ゲイとのバージョンのほうが好み。こちらはいじりすぎて、DJ色が強く、原曲のファンクネスが薄まってしまった。

6. Hide The Bone (5:04)

 野太いファンク。打ち込みビートと粘るベースの対比が良い。わさっとコーラスがかぶさる。ポップなメロディは薄く、プリンスのボーカルを薄くハーモニーがなぞる構成で、ライブで映えそうな曲。オーケストラ・ヒットに時代を感じるなあ。
 これもライブでは94年頃から披露済みだった。きっちりスタジオ録音も残してたんだな。
 喉を引き絞るプリンスの声が切実なムードを作った。

7. 2morrow (4:14)

 Prince Vaultによれば96年11月20日に"Emancipation"のプロモ番組がアメリカのラジオ局で行われ、そこで初公開されたという。本盤発売の2年前にお目見え済みで、アメリカのコアなファンには知られた曲だったのだろう。
 ジャジーなムードを醸しながら、これまた細かくホーンやギター、鍵盤がダビングされている。山のように手が込んでいながら、するりと曲はクールに流れていく。
 アイディアが次々溢れ、練りこまれた。

8. So Dark (5:14)

 "Come"(1994)に収録曲のリミックス。膨大な未発表曲がある一方で、プリンスは一曲を意外とかなり何度も弄ってる形跡あり。作って終わり、でなく何らかの磨き上げをも試みたようだ。よく覚えていられるな。山のように作品を作ってるのに。

 原曲から1分ほど短く縮めてつつも、色合いはむしろ華やかに飾った。中盤での女性的なコーラス・ワークなど、妖しい魅力もある。
 削ぎ取りでなく付け足す方向の再編集。ベーシック・トラックはいっしょなのかな。もっと綺麗に仕立て直した。生々しい原曲と、彩を増やした曲。うーん・・・。好みは原曲だが、アレンジの妙味が溢れるこの曲も捨てがたい。

9. Movie Star (4:26)

 没アルバム"Dream Factory"に収録候補の一つで、ブートではおなじみだった。小気味よいファンクで、シンプルなバンド・サウンドにSEがときおり載る。メロディは希薄でプリンスのラップ風歌声で聴かせる。"Kiss"と"Housequake"の間に位置するようなタイプ。
 アイディア一発のほとんど展開しない流れで涼やかにグルーヴした。たしかに"Sign O' The Times"の収録曲に比べれば、パンチ力が弱い。ボツったのも頷ける。
 しかし蔵出し音源としてはキュートな魅力があり。はしゃぐ様子が楽しい。

10. Tell Me How U Wanna B Done (3:16)

 "The Love Symbol"(1992)に収録の"The Continental"から一ラインのみ抜き出して、全く別の雰囲気な曲に仕立てた。プリンスの創作力の自由さを痛感できる一曲。完成形と思わせて、まだ違う要素を持っている。"The Love Symbol"はボリュームが多すぎて、当時はきちんと聴き込めなかった。"The Continental"とこの曲が同じと知ったのは、ぶっちゃけプリンスが他界後に、じっくり聴き直しながらPrince Vaultを読んだあとのこと。
 それくらい僕は、プリンスを聴きこんでなかったんだなあと情けなく思った一曲だ。

 なおこの曲そのものはかっこいい。"The Continental"よりこっちのほうが好きかも。

 ということで、Disc 1の感想はこれで終わり。

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