Prince 「Crystal Ball」(1998)

 レアテイク集に海賊版対策とを込めたと思われる3枚組コンピ。今になって多彩さとアイディアの冴えにやられる。

 まず本項では、本盤への思いと概況を書いてみよう。

 プリンスの魅力の一つに、コピーライター的なセンスがある。タイトルの付け方が、抜群にうまい。つまりアイディア切り取り方が凄く斬新でシンプルだ。他のブートで流出した曲を聴き進めると実感する。もちろん、公式音源は言わずもがな。シンプルな言葉をすっと取り上げ、瑞々しい世界を作り出す。
 溢れるアイディアをアルバムにまとめきれず、なおかつ前と同じようなアルバムを作る気もなく。そんな創作スタンスが単発の楽曲を膨大に産みだした。それが"Vault"に詰まってる。もちろん創作力と実際に録音する体力の裏付けあってこそ。

 そんな蔵出しの第一弾、が本盤。第二弾が翌年の"The Vault... Old Friends 4 Sale"。第三弾で"Crystal Ball Volume II"の企画が産まれ、選曲のアンケートまで取られたが実現しなかった。残念。

 リアルタイムの実感ではリリースはありがたいけれど、煮え切らないアルバムだった。コンセプトがはっきりしない。
 録音時期は85年頃と95年頃の二種類に大別される。85年頃の作品が、Disc 1;(1)(2)(9),Disc 2:(5)-(9),Disc 3:(2)(9)の10曲で、残りは95年頃の20曲。ブートで出回った音源はカギとなるDisc 1;(1)(2)など代表曲に絞った感あり。本当の意味で、85年頃の蔵出しを望むと肩透かしにあう。

 また本盤には数曲のリミックスや再演、再収録などもあり。蔵出しとレアテイク集の混在っぽい。あるていどブートを聴いてた身としては、中途半端感が否めなかった。
 だから率直なところ発売当時は、寄せ集めのパッとしないアルバムって印象だった。ブートでしか聴けなかった曲をクリアな音質でリリースは単純にうれしかったけれど。どうせならブートで聴いたあれもこれもリリースしてよ、と欲張りに思った記憶もある。
 そんな鬱陶しいファンの思いを満足させるべく、プリンスはサービス精神も込めて、新譜の魅力を増ために新録集の"The Truth"も同梱したのでは。

 原盤はプリンスが自分のレーベルNPGからリリースした。流通を大手に任せたバージョンもある。もっとも流通したのが、"The truth"を含む4枚組。一番豪華なのが"Kamasutra"を含む5枚組。後者はNPG直販のみだった。ぼくは後者を聴いたことない。当時、NPGの流通はあまりにもずさんで手間取るってたため、危なっかしくて見送った。今から思い返すと、惜しいことした。当時なら簡単に、ちょっと割高だが手に入ってた。 

 そもそもプリンスはワーナーからこの"Crystal Ball"を出すつもりだったのかも、と妄想が膨らむ。
 頓挫したアルバムの一つに"The Vault - Volumes I, II and III"がある。95年の話。この企画が潰れて、プリンスは"Chaos And Disorder"をリリースのあとワーナーを離れた。オマケで"The Vault... Old Friends 4 Sale"を残して。
 ボツったワーナー版の"The Vault"の選曲は詳細が不明だけど、"Chaos And Disorder"の収録曲を軸に、新曲と過去曲を混在させた壮大なアルバムを構想してた、とも空想できる。

 いずれにせよ現実は異なった。新曲群は"Chaos And Disorder"、さらに新曲の固まりな3枚組の"Emancipation"。そして新曲アルバム"The Truth"や"Kamasutra"を作って、3枚組の本盤をリリースに至った。
 ・・・わずか2年かそこらの話だ。蔵出しを含むとはいえ、膨大な創作力にくらくらくる。この当時のプリンスは、ほんとうにリリースを惜しまなかった。

 当時のプリンスはワーナーに頼らず、自主流通の道を模索した。ちょっと時代を先取りしすぎ。この5年後なら、流通体制がもっとしっかりして安定した売り上げを叩きだせた。
 でもリリースが膨大すぎで追いつかなかったかな。なにせ本3枚組がリリースは、3枚組"Emancipation"(1996)の発売から14ヶ月後。さらにその数カ月前には"Chaos And Disorder"がリリース。ワーナーとの契約消化と、自分の立ち位置を早晩構築のためにプリンスは矢継ぎ早に創作力を放出した。

 そのなかの本盤は、位置づけがよくわからない。オマケみたいな気分でリリースしたのかも。単価が高い分、自主流通だと売り上げがまとまる。EMIを通した"Emancipation"と比較の意味もあったりして。

 なお本盤収録曲のすべてがブートで流出してたわけではない。当時の純粋な新曲と言えそうなのは"2morrow"らしい。
 まず再収録を簡単にまとめると、リミックスが5曲。
"Love Sign"【"1-800 New Funk"(1994)】、
"So Dark"【"Come"(1994)】
"Tell Me How U Wanna B Done"【"The Continental" from "Love Symbol"(1992)】
"Get Loose"【"Come"(1994)】
"P. Control"【"The Gold Experience"(1995)】

 さらに既発曲が3曲。
"Interactive"("Interactive"(1994);CD-ROM Game)
"Good Love"(OST"Bright Lights, Big City"(1988))
"The Ride"("The Undertaker"(1993):Video)

 すなわち上記の通り30曲中7曲が大きな意味で既発曲。さらに冒頭に書いた通りDisc 1:(1)(2)(9),Disc 2:(5)(6)あたりはブートで有名だった。
 そしてDisc 1:(3)(4),Disc 3:(1)(5)は94年以降のライブで演奏しており、やはりライブのブート音源では耳に馴染んでいた。

 ぼくは徹底的なマニアではなかったが、そこそこブートにも興味もってプリンスを聴いていた。そうなると30曲中17曲は「ああ、あの曲か」って程度になる。当時はパソコンを持っておらず、"Interactive"の再収録は単純に有難かったけども。それに"Crucial"は大好きだったので、公式リリースは凄く嬉しかった。
 
 とはいえ「まだ倉庫にいっぱいあるよね。もっとリリースしてよ」と贅沢な気持ちになったものだ。ああ、何と贅沢。当時に本盤はそこそこ聴いた。だけど新譜のほうに惹かれたな。当然のことながら、最新型のプリンスのほうに興味あったし。

 でもここ最近に繰り返し聴いて、改めて良さを痛感した。ここでは剥き出しのアイディアがいくつも詰まっている。アルバムの発展性を気にせず、一曲へ無造作に集中した片鱗が伺える。比較的、ファンク寄り。メロウさやポップさを敢えて抑えた感じがする。

 ともあれ当時はこのみずみずしさに気づけなかった。皮肉なことにプリンスが死んだ今になって、ようやく本盤のありがたさを実感する。よくぞ倉庫の一部を開放してくれた、と。アルバムに縛られず、個々の楽曲集をリリースしてくれてありがとう、と。
 具体的な感想は項を改める。いいかげん、この本文も長くなってしまった。 

Disc 1:
1. Crystal Ball (10:28)
2. Dream Factory (3:07)
3. Acknowledge Me (5:27)
4. Ripopgodazippa (4:39)
5. Love Sign (Shock G's Silky Remix) (3:53)
6. Hide The Bone (5:04) 1
7. 2morrow (4:14)
8. So Dark (5:14)
9. Movie Star (4:26)
10. Tell Me How U Wanna B Done (3:16)

Disc 2:
1. Interactive (3:04)
2. Da Bang (3:20)
3. Calhoun Square (4:47)
4. What's My Name (3:04)
5. Crucial (5:06)
6. An Honest Man (1:13)
7. Sexual Suicide (3:40)
8. Cloreen Baconskin (15:37)
9. Good Love (4:55)
10. Strays Of The World (5:07)

Disc 3:
1. Days Of Wild (9:19)
2. Last Heart (3:02)
3. Poom Poom (4:32)
4. She Gave Her Angels (3:53)
5. 18 & Over (5:40)
6. The Ride (5:14)
7. Get Loose (3:31)
8. P. Control (Remix) (6:00)
9. Make Your Mama Happy (4:01)
10. Goodbye (4:35)

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