LOVE,PEACE&TRANCE 「LOVE,PEACE&TRANCE」(1995)

 オムニバス的な構造を持つ、見事なプロデュース。シングル曲の美しさは至福だ。


 女性三人に囲まれた細野晴臣がプロデュースしたアンビエント・ユニット。厳密には細野のユニットとは言い難い。そもそも結成の発端もよくわからない。レコード会社の企画だろうか。
 Swing slowの項でも述べたが、ただでさえ多作の細野なのに、この時期はとりわけ矢継ぎ早に加速がかかってた。

 ユニットの活動としてはアルバムは本盤のみ。あとはシングルが一枚。なおシングルは(2)(9)(11)を収録。(2)のシングル・テイクは本盤に(10)で再収されており、音だけなら本盤を聴けば網羅できるようだ。

 Wikiによると95年に本盤を発表後、西麻布Yellowでライブを一度だけやったそう。あとは、特になし。色々と可能性を感じさせるサウンドではあるが、一過性の活動に留まった。その後に共演した様子も見受けられない。もったいない。
 
 他のメンバーは遊佐未森、甲田益也子、小川美潮。年齢もまちまち。甲田はdip in the pool、小川はチャクラで活動も踏まえ、それらの曲も本盤でカバーされた。
 さらに影のメンバーとして、作曲家の福澤諸(福澤もろ)も本盤で重要な位置を占める。
 細野はまさにプロデューサーとして、あまり自己主張せずに三人の歌姫と福澤の楽曲をきれいに磨き上げた。

 アルバムは後述のようにQuiet Love Mode/Silent Peace Mode/Calm Trance Mode/と3部門に分かれた。さらにSpiritual Bonus Tracks/Celestrial Bonus Tracksと、シングル曲のオマケ・モードがつく。
 明確な音世界の変化はないが、細密な要素を組み立てて大きな一枚の盤を作る構想のようだ。

 細野の曲は(1)(3)(4)(6)(12)。ただし(1)(12)は2分弱の短い曲で、実質は3曲のみのようなもの。こうしてみると、細野はあまり本盤で前面に出ていない。サウンドはがっつりと細野的なアンビエント・テクノだが。

 (2)(10)(11)が福澤諸の曲で、大きな存在感を本盤で出した。
 (5)(8)がdip in the pool、(7)がチャクラの曲。遊佐は本盤で歌手に徹し、曲提供は無い。歌姫3人はそれぞれキャリアを積んできた頃合いの本ユニット結成であり、さほど売り込みにガツガツしなかったのか。
 なお(9)は92年封切りな同名映画の曲で、トーマス・ニューマン(ランディ・ニューマンの従兄)作曲のカバー。
 
 アルバム構成のうち、Silent Peace Modeの部分はキム・キャスコーンがミックスした。1, 2, 11, 12は細野自身がミックスしてる。録音クレジットの委細は不明だが、おそらく細野がほとんどを録音し、数人のゲストをダビング。さらに数曲のミックスをイギリスでってパターンか。
 共同プロデュースとして中山ケイが(4)(6)(8)でクレジットあり。打ち込みをしてるらしい。SEでは高野寛も参加した。

 サウンドは酩酊感が漂う無国籍でトロピカルなテクノ。アンビエントながらビート性もきっちり意識して、強度のある勢いを持った寛ぎを細野は演出した。女性の華やかさ、神秘性を見せることも忘れない。非常にバランスのいい、プロデュース力の見事さが本盤に詰まった。

 イントロの静かで水がしたたるようなテクノから、(2)へ。沖縄風のエキゾティシズムから、どんどんと穏やかにムードが高まっていく。そしてサビで、ぱあっと広がる美しさったら。和音、メロディ、響き、どれもが淑やかで魅力的だ。このキラー・チューンのみでも、本盤の価値は十二分にある。

 モナド時代の環境音楽を連想する細野の(3)は、どこか古めかしいおっとりとした落ち着きと、足元をふわふわさせたスリルが同居してる。明確なメロディ構成を持つポップスではないが、ビートを軽やかかつ自在に操る天才性が漂った。しだいにワサワサっと盛り上がる。

 ディジリドゥ風の低音がイントロの(4)はリズムを強調したテクノ。大音量ならば十分にクラブ対応で成立する音楽も、きれいな電子音の揺らめきでアンビエントの寛ぎを同居させる。

 つかみどころ無いフワッとした(5)も、リバーブ感を生かしたアレンジで優美さを強調した。アジア風味の無国籍。他国文化にすり寄らず、咀嚼して違う世界を作る。
 
 細野のオリジナル(6)もミニマルなフレーズが畳みかける、いくぶんビートが効いた曲。前曲のふくよかさと通底させつつ、ここでは女性ボーカルのきらめきをアクセントに、あくまでもきっちり硬くキメた。

 マルチ・ビートの(7)は細かく聴くほどに、リズム処理が興味深い。きっちりビートを提示しながら拍を刻むのパターンは多彩だ。アルバムの最後をポリリズミックな多様性で膨らませた。

 Calm Trance Modeの最後を飾るのが(8)。緩やかなうねりを持ちながら、ビートは螺旋状に舞い続ける。語りの主線とくつろいで歌うハーモニーの対比、リズムの機械性とフレーズのふわっとした対比。異なる要素を混ぜる。

 ここからはオマケ。シンプルな音色のテクノ・ポップできれいなメロディの(9)をカバーして、ここまでの無国籍な幻想性を、するりとポップスの世界へ戻した。これでアルバムを現実路線へ引き込むと同時に、次なる福澤のシャーマニックな世界観へ誘う落差を付ける。二重三重に練った構成のプロデュースだ。お見事。

 (2)のシングル・ミックスな(10)を挟み、同じく福澤の(11)へ。ひらがなとカタカナ、文法をすべて意識せず響きだけで構成する歌詞の感覚も独特で楽しい。
 二倍、って歌ってるのかと思ったら「にぱーり」なんだ。

 そして物理的なアルバムの最終曲も、幻想的なテクノ・アンビエントな(12)。あえて細野は自らのボーカルをぐっと前に出して、自分の色をここで強く塗った。
 インドあたりの音楽が下敷きかな。小節感はあるが、拍子をあいまいに浮遊させた。

 このアルバムがどのくらい売れたかは知らない。けれども埋もれさすには惜しい、女性ボーカルとシャーマニックさが幻想性で魅せる傑作だ。 

Track listing:
  Quiet Love Mode
1. Ho'Ola 1:23
2. はす・クリア Hasu Kriya 5:22
  Silent Peace Mode
3. Yeelen 5:36
4. Dreamtime Lovers 4:30
5. Solaris 4:20
  Calm Trance Mode
6. Mammal Mama 6:02
7. 心だ Kokoro Da 6:44
8. Dawn 5:09
  Spiritual Bonus Tracks
9. 暗闇のささやき Whispers In The Dark 2:25
10. はす クリア Hasu Kriya (Single Mix) 5:13
  Celestrial Bonus Tracks
11. はしゃ・マンダラ・にぱーりHush-A Mandala Ni Pali 4:16
12. Aina

Personnel:
細野晴臣:all
甲田益也子:vo
小川美潮:vo
遊佐未森:vo

ケイ中山、渡部高士:programming
Connie Yee :Cho on 3
Steve Gorn :Indian Flute on 5
高野寛:SE

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