V.A. 「Sonic Circuits VIII」(2000)

 現代音楽でなく、エレクトロ寄りの電子音楽集。起承転結を希薄に電子ノイズがたなびく。

 米ワシントン州で行われる前衛電子音楽祭"Sonic Circuits"の前身と思われる。当時のエントリー作品を集めたCDかな。イベントとしては02年から開催が始まった。第一回の出演者にイクエ・モリの名前もあった。
 Sonic CircuitsのWebはこちら。17年も9月にワシントンDCの非営利施設 Rhizomeを会場に予定あり。http://dc-soniccircuits.org/

 本盤を発売元のInnova Recordingsはミネソタ州が拠点。電子音楽や現代音楽が守備範囲のレーベルらしい。このシリーズは02年までに10枚のCDを発表したようだ。本盤が文字通り、8作目。いまいち、全貌がつかめない。

 "Sonic Circuits"としてもイベントはやっている。作品発表の場はBandcampが拠点のようだが、14年の"District of Noise Vol.7"を最後にリリースが無い。

 Youtubeチャンネルも持っているが、14年10月の、このライブ動画の断片が最後だ。
https://www.youtube.com/watch?v=YNRgh2elRgQ
 
 手が回らないのかもしれないな。ツイッターはそこそこ投稿あるが、Facebookはいまいち動きが無い。売れ線とも思えないし。とはいえ曲がりなりにも、低予算でWeb発表ができる今と違い、記録を残してくれた本盤は貴重だ。

 全9曲入り。楽曲の規模はまちまちだが、どうにも中途半端なアプローチが揃ってる。それが面白いとも、退屈とも言える。ダンス、ノイズ、前衛、現代音楽、即興、スカム、ギャグ、芸術。一口にエクスペリメンタル=実験音楽と言っても、いろんな切り口がある。さらに個々のジャンルはさらに細分化される。

 本盤に詰まった音楽は、それのどれにも当てはまらない。妙に脱力で、けっこう真剣で、それでいてピントが合わない。発表の場がないハグレ者たちが意図的に集まったわけではあるまい。レギュレーションの不明瞭さと、まちまちの創作レベル、なおかつ観客動員のフィルターを経ないと、こんなふうになるのかと興味深い。
 音楽としてつかみどころのない、脱力ノイズ集っていうとまとまりやすいかな。

 00年だからDTM環境も揃っていない。電子楽器も知れてるし、録音機材も素朴っぽい。生演奏を足してもいるだろう。かといって楽器演奏のベクトルではない。どこかこじんまりと宅録した趣あり。なんとも奇妙さ、かといってフリーキーなアウトサイダーではなく、あるていどの社会性を持った。普遍的な売れ線を志向って意味ではなく、時代を突き抜ける先駆性や危うさすらも持ち得てなさそう、って意味で。

 (1)のJohn Von Seggernは香港を拠点に99年頃活動を開始。デュオDigital Cutup Loungeで数枚のアルバムを残し、Electro Tec Services名義でも作品あり。今はLAでダーク・ジャズのユニットPhantom Protocolでベースを弾いてるらしい。
 ここでは淡々としたビートに乗せて、ときおりシンセがたなびくリズミックで浮遊感ある作品を提供した。

 (2)のKatherine Gordonはオハイオ出身かな?経歴が不明。ここではコラージュめいた静かな電子ノイズを出す。DJ的なアプローチだ。ラジオ・ノイズみたいな響きと、不安を誘発する揺らぎ、さらに断続的な電子ノイズを足した。

 (3)はフランスやカナダで賞を取った現代音楽家。本盤収録の曲も委嘱作で、他にも音盤が多数あり。この人はきっちり評価されてるらしい。1929年生まれのベテラン。フランスを拠点にクラシックやミュージック・コンクレートで活躍してきた。アルバムも多数あり。
 本盤では(8)と同様に10分越えと長めのスペースを許された。抽象的でビート感は薄い。
 ランダムな電子音が沸き、静かに沈む。弦楽器なども足して、即興的に音を重ねたかのよう。ぐわっとうねるとき、いくつかの音が同時に動くのは譜面か。

 残響を纏わせ、夢幻で混沌な風景を描いた。理論裏付けよりも偶発性を重視に聴こえる。
 中盤からスペイシーな展開に移った。弦楽器の爪弾きに加え、こすりや響きにボディ鳴りを組み合わせふわふわ浮かぶ世界を作るセンスは心地よい。

 (4)はアメリカ人。Preston Wrightも詳細不明。本盤発売のInnovaレーベルの数枚でマスタリングのクレジットあり。スタッフによる電子音楽作品ということか。
 性急なビート感でパーカッション主体の作品。断片をつなぎ合わせ、アフリカ的な野性味を持ちながらも基調はしっかりエレクトロな硬質さを持つ。ランダムさを生かしながらミニマル要素も強い。

 (5)はMalte Steinerはドイツ拠点の電子音楽家。Block4レーベル主催の一人で、Elektronengehirn, Notstandskomiteeという変名や、ユニットDas Kombinat, Konformを稼働させる。今も活動を続けており、Bandcampで作品の入手も可能だ。
https://notstandskomitee.bandcamp.com/

 (6)はニューヨークを拠点の音楽家。電子音楽家として今も活動している。http://philipmantione.com/

 (7)はニュージャージー州出身。ライナーにはいろいろな音楽活動の記載あるが、Discogsではパッと出てこなかった。音盤が今では残っていないのかもしれない。
 (8)はアイオワ州のジャズ系な現代音楽家。いわゆる作曲家寄りで、クラブで演奏と言った立ち位置ではなさそう。http://choppingedge.com/index.shtml

 最後の(9)はクロアチア出身。バンドOnly Bass And Drumも率いた。ぱっと検索で出てこないが、調べたら継続活動の可能性はある。 

 つまりは玉石混交。当時から評価された(3)みたいな人もいれば、今の活動が読めない人も、地道にキャリアを重ねる人も。それらの人たちが、実に素朴であやふやでつかみどころ無い音楽を、本盤に提供した。
 音楽的には、もやっとしてるだけに。収録曲はアンビエントとして聴こうとしたら、どれも少しばかり音楽の主張が強い。BGMを超えた主張を持つ曲が多い。
 逆に思い入れが無ければ、さらりと聴き流してしまう。アカデミック視点で真剣に分析するのも面白いだろう。好奇心の持ち具合で、さまざまに評価を変える一枚。

Track listing:
1. John Von Seggern Hyper Erhu 5:19
2. Katherine Gordon Holding Patterns 6:36
3. Francis Dhomont En Cuerdas 11:29
4. Preston Wright Carpenter Ant Blues 6:19
5. Malte Steiner Drahtwelt 6:27
6. Philip Mantione Sinusoidal Tendencies 9:57
7. Michael Kosch Colatudes 3:50
8. David Jaggard Mary & Ann 14:30
9. Antun Blazinovic Elements 3:39

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