William Bell 「A Little Something Extra」(1992)

 スタックスが編んだ、60年代に未発表テイクのコンピレーション。

 ウィリアム・ベルは39年生まれのソウル・シンガーであり、作曲家。77歳の今も健在で、今年2017年のグラミー賞にもブルーズ関係の3部門でノミネート、月に数回の頻度だが世界各地でライブ公演を行う形で、今も歌っている。
 メンフィス出身で55年頃から作曲で活動を始めた。57年にルーファス・トーマスのバック・コーラスでステージにも立つようになる。代表的な曲だと、何になるんだろう。アルバート・キングの代表曲"Born Under a Bad Sign"(1967)には、ブッカー・Tと共作でクレジットされた。

 ベルの主な活動拠点はスタックス。61年に自らのシングルをリリースした。Wikiでのチャート・アクションによれば爆発的なヒットは飛ばさず。76年にマーキュリーへ移籍した"Tryin' To Love Two"の全米10位が、最大のヒットなようだ。

 どうにも煮え切らない記述なのも、ぼくは特にウィリアム・ベルに思い入れがないせい。サザン・ソウルはどうも苦手。これも当時、なんとなく買ってろくに聴かなかった。今回は棚を整理してて、20年ぶりくらいに聴いている。

 バッキングはスタックスだから、ブッカー・T&MGズ。管はメンフィス・ホーンズ、すなわちマーキーズのホーン隊たち。スタックスのスタジオ・ミュージシャンで固めた。
 本盤は20曲入りとボリュームたっぷり。(9),(18)が62年、あとは65~67年に録音という。当時はまだ、シングル曲が活動の中心。ベルの1stアルバムは"The Soul of a Bell"(1967)だから、文字通りシングル向けにあれこれ録音して、ボツった曲集ってことだろう。

 曲調はまちまち。軽いソウルからブルージー、サザン・ソウル系と多彩だ。歌い方は伸びやかな喉を持ちつつ、根本的な熱さは無い。洗練、とも違う。なんていうか、軽くてしなやかだ。
 汗まみれのソウルは苦手。囁くような軽さは結構好き。こういう中庸な歌いかたは、つかみどころが無い。そんな価値観で昔は聴いてたが。この年になると色々と趣味嗜好がこなれてきて、こういう滑らかな歌い方も悪くないな、と思い始めた。

 テンポ感もまちまち。まさにバラエティを色々と狙ってたようだ。(13)のゴフィン=キングみたいに、べたべたなカバーも歌ってるし、スタンダードも辞さない。自作にもこだわらない。逆に言うと、この辺の節操なさが、強烈な自己主張に至らなかったのかもしれぬ。

 完全に他人の曲を歌ってるのが(2)~(4),(10),(13),(16)~(18)。あとはベルのオリジナル。共作も数曲あるが。
 アレンジは大人しくファンキーなスタックス・サウンド。こうして聴くと、強固な伝統芸路線の保守的な確かさを実感する。何をやっても自分たちのサウンドであり、だからこそいろんなものを貪欲に取り入れる。挑戦って意味でなく、好みや売れ線やアメリカ文化に根付いた様々な音楽ジャンルを。

 本盤は未発表曲集だが、デモ集ではない。きっちりと録音されている。スタックス・サウンドでの小粋なソウルを味わえる。今は廃盤らしく、妙なプレミアがついている。
 
 
Track listing:
1 She Won't Be Like You 3:00
2 All That I Am 2:56
3 Let's Do Something Together 2:39
4 Forever Wouldn't Be Too Long 2:23
5 You Got Me Where You Want Me (Slow Version) 3:15
6 Quittin' Time 2:24
7 That's My Love 3:02
8 You Need A Little Something Extra 2:49
9 There's A Love 1:37
10 Never Let Go 2:42
11 We Got Something Good 2:29
12 You Got Me Where You Want Me 2:24
13 Will You Still Love Me Tomorrow 2:59
14 Love Will Find A Way 2:49
15 What Did I Do Wrong 2:49
16 Sacrifice 2:24
17 Love Is After Me 2:19
18 The Life I Live 2:18
19 Wait 3:06
20 You're Never Too Old 2:35

Personnel:
Vocals - William Bell
Bass - Donald "Duck" Dunn
Drums - Al Jackson, Jr.
Guitar - Steve Cropper
Keyboards - Booker T. Jones
Mastered By - Phil De Lancie
Saxophone - Andrew Lowe, Packy Axton, Floyd Newman, Gene Parker, Gilbert Caples, Joe Arnold
Trumpet - Wayne Jackson

 最後に、余談。あくまで日本人目線で聴くR&Bの華やかさやしたたかさとは別次元で、地元の音楽としての位置づけや価値観は厳然と存在する。それはおそらく永遠に僕には実感できない。アメリカに50年ぐらい住んで、アメリカ人として生きない限りぼくの感覚に根付かないだろう。
 どんなに日本人と同じようにしてても、西洋人の和服へ違和感を感じるように。

 異文化を味わうとは、そういうことだ。どこかに理性が残る。それもまた、よし。
 理解ではない、感じること。これを基本に置くとしても。
 カタログ的に「レア曲集だから、良い」とか「ヒット曲集だから効率的に聴ける」と聴くのも、知的好奇心を満たす健全な聴き方だと思う。いかにも日本人らしい聴き方かもね。

 歳を取ったいま、単純に「これは気持ちいい音楽だな」って思う一方で、なぜこれを自分はそう思ったのか、をぼんやり考えるようになってきた。たぶん時間は無限ではない、と思い始めたからだろう。かといって成長や効率を追い求める焦りも無くなってきた。
 だから何に「心地よく感じたか」の理由がわかれば、この次に聴く音楽が、さらに楽しめるんじゃないか。そんな指標探しのため、敢えて理屈っぽく考えている。

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