灰野敬二 「慈」(1992)

 強靭で幅広く柔軟な声帯を駆使して、囚われぬ自由な歌を味わえる、優雅な盤。轟音もあるよ。

 58分一本勝負。千川ゴスペルで91年12月30日のライブ音源を収録した。エレキギターと歌に特化した、灰野敬二が聴ける。実際には数曲を演奏してるのだが、あえてトラックを切らずひとつながりのパフォーマンスとして一枚に仕立てた。

 曲かもしれないし、即興的に灰野が歌ってるのかもしれない。いわゆる平歌からサビに行く典型的なロックをやってるわけではない。演奏と歌が並列で動き、全体像の中でエレキギターが主軸な場面と、歌が中心の箇所が交錯した。

 轟音一辺倒ではないため、聴きやすい盤だ。入門編に良いかもしれない。約60分一本勝負って長尺なのが、ちょっと敷居高いけれど。アルバム全体で緊張感は途切れない。
 ブライトな音色でゆるやかなフレーズが提示され、次第にテンションが高まっていく。テンポは揺れるが、グルーヴは崩れない。一つの流れや間は、寸断されず大きいうねりを持ち続けた。
 スタイルは全く違うが、ジョン・リー・フッカーのしぶとく正確無比なブギを連想した。

 ひとしきり灰野はギターを爪弾いたあと、か細く高らかに声を絞り出す。言葉でなく、声そのものに強烈な説得力があり。テンポも譜割もビートも気にせず、声が揺れて高まる。
 ハウリングの静かなノイズが、歌を彩った。そしてエレキギターもきらっと光る。出音はそうとうでかいボリュームなのか。ハウリングの音がかぼそく聴こえた。

 冒頭のムードは清涼で緩やか。リバーブの効いたふくらみの中で、じっくりと灰野は歌った。酩酊感をうっすら漂わせるエレキギターは常に鳴り続けた。
 歌声は次第に音程が低くなっていく。この浮遊する流れが美しい。

 この音源は編集無しだろうか。14分過ぎにスッと次の曲へつながった。軽快にギターがかき鳴らされ、わかりやすく丁寧なメロディのフォーク・ソング寄りの楽曲に移った。この曲はタイトルなんだっけ?・・・思い出せない。灰野のオリジナルと思うが。
 サビで、はかなげに舞い上がる旋律も美しい。

 19分過ぎに3曲目へ。一気に轟音ギターへ世界がシフトした。リバーブとフィードバックの嵐が溢れる。空気が揺らぎ、激しく震えた。ここまでの白い世界が漆黒へ塗り替わる。
 数分で轟音ギターがすっと消え、わずかな余韻を持つ。すかさず、再び静かな歌声の風景へ。この切り替えしも潔く、きれいだ。
 ひとしきりそっと歌った後、再び猛烈なギター・ノイズの奔流に突き進んだ。楽さは極端に、激しく。

 だがまたしてもギターは歪みとハウリングを収斂させ、きれいな音に絞って淑やかなストロークに向かった。一つ所に、留まらない。
 歌はドスの効いた激しさへ。喉を絞り、シャウト気味に歌い上げた。残響が声を滴らせる。

 ひとしきり自由な世界を楽しんだ後、すっとフォーキーな世界へ。最後はノイズに加速していった。
 
 本盤は灰野のライブ風景を封じ込めた盤だ。特に歌モノへ特化して。じっくりと時間をかけて楽器演奏を練り上げるのも灰野だし、轟音で空気を揺さぶり続けるのも灰野。
 だがこうして、歌手なのも、歌手であることが灰野だ。

Track listing:
1.Affection (58:07)

Recorded live 30 December 1991, at Gospel in Tokyo.

 

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