灰野敬二 「こいつから失せたいためのはかりごと」(2008)

 ハーディ・ガーディの追及をストイックに追い詰めた凄いアルバム。

 副題は"21世紀のハーディガーディ・マン(The 21st Century Hard-Y-Guide-Y Man)"。もちろんクリムゾンのもじり。
 "手風琴"(1995)、"こんなになってもまだ考えている"(1998)に続く、10年ぶりのハーディ・ガーディのソロ演奏。PSFからのリリースで、本レーベルで一連の「アルバム1枚を1楽器で構築」路線の一環、ともいえる。

 さまざまな切り口からハーディ・ガーディと対峙した。ノイズ製造機、共鳴体、そして楽器。共通するのは"そもそもの奏法と異なる"演奏。原典が見つからないが、どこかのインタビューで灰野敬二は"自分はハーディ・ガーディ奏者にとって、やってはいけない奏法のみを、やっている"と明確に語っていたような気がする。

 このインタビューでは32分40秒過ぎに"空間を埋め尽くせる。いろんなハーモニーが作れる。アタックが無い"と表現していた。

 前に高円寺のオールナイト・ソロライブでハーディ・ガーディの演奏をしてた時は、たしかアルミホイルみたいなものを楽器に挟む、プリペアード奏法も行っていたような。ドローン楽器として操っていた。轟音だが、深夜のため聴いてると眠りを誘う展開だったと記憶する。退屈ではなく、単調。音は変化し続けるのだが、轟音で耳鳴りが発生してしまい、細かな音が識別できなかった。
 だから本盤でじっくりと、灰野のハーディ・ガーディを聴けるのは嬉しい。

 長尺一本やりではなく、5つにトラックが分かれた。ひとつながりのセッション途中にトラックを切ったのではなく、5種類の演奏に聴こえる。曲間での編集は無いように思う。
 共通するのはハーディ・ガーディ一本槍なこと。灰野のボーカルは無い。(5)の中盤で笑い声のような声も聴こえるが、いわゆるボーカル的に灰野がシャウトはしない。
 ほかの楽器を足すこともない。サンプリング・ループはあるかも。よくわからない。
 あるのはリバーブ。それとアンプ。

 つまり灰野はここでアコースティックな演奏に留まらない。むしろマイクを通して残響を付けた。歪みの強調はディストーションなどのエフェクタを通しているのか。違うような気もする。増幅の音量でアンプにて歪みが産まれてるだけかも。分からない。

 少なくとも生楽器と電気仕掛けの二種類なアプローチがある。
 さらに持続音に着目と、楽器から様々な音色を引き出す工夫が詰まってる。
 そのうえトラックごとにアプローチを変え、バラエティさを持たせた。
 いっぽうで次々に世界を変えず、じっくりと音色に拘り膨らませた。

 一筋縄ではいかない。とっつきも悪い。灰野はストイックに、かつグイッとハードルを上げて本盤を作った。緊張した空気を漂わせ、なおかつ耳ざわりを厳しくしてる。
 だが集中力を切らさず、音楽に耳を澄ますと、実に芳醇な世界が広がるとわかる。

 たぶん(3)を最初に持ってきたら、本盤の印象はがらりと変わる。
 ノイジーだが生楽器の軋みを持ち、メロディアスではないが複数の音が微妙なハーモニーを撒く。旋律感はないが精緻な音程の変化を持ち、持続音とうねりが同居した。
 つまり多様な価値観を追う、灰野の芳醇かつ奔放な世界にスッと入れたろう。

 しかし灰野は近道を作らない。(1)は延々と続く持続だ。まずここで心構えを試される。お前はこの盤を聴き続けられるか?と。
 超高域の軋みが充満して、低音のふくらみがじわりと漂う。くるくると回転するドローンは、同じ音の持続ではない。アンプを通したキイキイいう音の連続は、ノイズ好きならさほどハードルが高くないのだが。

 単なる持続ではない。変化し続けている。そして(2)でいきなり、似たようなアプローチだが急にアコースティックな世界へ放り出された。この落差が凄くて、気持ちいい。
 今までの詰まった世界が、電気仕掛けから素朴さにかわるため。けれども残響がすぐに溢れ、やがてエレクトリックな味わいにずれていく。
 けれども(1)から(2)への跳躍を楽しめたらならば、そのあとはめくるめく変化の旅路が約束される。

 灰野は何一つ妥協しない。アイディアは尽きず、楽器の響きも驚くほど多彩だ。例えば(4)でボディを叩く音が続けられる。その衝撃と振動に共鳴してハーディ・ガーディが啼く。

 (4)の後半ではきれいなメロディがゆっくりと動くシーンもある。古めかしい英国の風が幻想として浮かぶ。これも、(1)で軋み続けたハーディ・ガーディから出る音だ。逆に、ノイジーな音も出せるということだ。

 それも、音楽だ。
 灰野は固定観念と既成概念を問い続ける。頭でっかちな実験ではなく、真剣に楽器と対峙して。そんな好奇心と発想と実現力。灰野の天才性が、むしろ最もわかりやすいアルバムともいえる。

 エレキギターの轟音、シャウトする鋭さ、間と音程をずらし続けるアプローチ。なまじ馴染み深い楽器だからこそ、灰野の個性が異物のような固定観念になってしまう。

 だがハンドルを回して音を出し、摘みを指で押して音程を変える双方のハーディ・ガーディは、奏法も音もなじみが薄い。だからこそ斬新な灰野のアプローチが、ひときわ際立つ。

Track listing:
1 Untitled 10:59
2 Untitled 14:09
3 Untitled 20:26
4 Untitled 9:41
5 Untitled 11:12

灰野のハーディ・ガーディ演奏動画がネットにいくつかあった。むしろ動画のほうが、イメージわきやすいかも。
青山 月見ル君想フ、約30分

12/10/18の川越 スカラ座、約20分

13/09/12の新宿 ピットイン、約8分。

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