Kramer 「Songs from the Pink Death」(1998)

 繰り返しが酩酊感を煽るサイケ・ポップなアルバム。

 クレイマーのいわゆる"旬"な時期は非常に短い。92年からせいぜい94年くらい。その時期にクレイマーは猛烈な活動を一気に開花させ、そこから緩やかに活動を絞っていった。
 創作力の減退というより、もっと生々しい現実のせいではないか。95年にクレイマーは来日して鮮やかなライブを聴かせてくれた。だがポップスターへの意欲はさほどなかったようだ。
 コラボ・アルバムの爆発も続いた。だがひとしきり作って、どんどんしぼんでしまう。人間関係の、トラブルか。シミーディスクのレーベル経営も難航した。ニッティング・ファクトリーニッティング・ファクトリーの傘下に入ったのが97年。アルバムで言うと6月発売なヒュー・ホッパーとのコラボ第二弾、"Huge"からのはず。

 本盤は録音が96年。発売が98年。まだ活発な活動の残滓が残る時期に製作され、そして発売は紆余曲折が一段落ついた2年後だった。TZADIKから"Let Me Explain Something to You About Art"が同年1月に発売、そして本盤が2月とやつぎばや。
 すっかりクレイマーの活動が廃れていた当時、このリリース・ラッシュに「とうとう本格復活か?」と喜んだものだ。
 実際には本盤を最後に、クレイマーはロックなアルバムからすっかり手を引いてしまう。以降、15年以上たった現在でも、彼のオリジナル曲集を集めたポップ・アルバムは存在しない。
 インスト集の"The Greenberg Variations" (2003)、オールディーズ・カバー集の"The Brill Building" (2012)があるだけ。ライブ活動でも、ものすごく散発的に"THINGS TO COME"を行うのみ。これはエレキギターと映像のコラボ作品で、ポップスとはほど遠い。
 
 そもそもクレイマーは起承転結のあるポップさに興味が無かったのか。本盤は同時期のコラボ作で聴けるものと似て、繰り返しを非常に強調してる。ほぼ一節、せいぜいそのバリエーション。執拗に同じメロディがなぞられ、アレンジの変化で聴かせる構造を多用した。
 ミニマルさ、が主眼ではない。演奏はループでなく生演奏であり、主にエレキギターのわずかに変化するオブリで飾る。ぱっと聴きでは「暗いポップスだな」程度に流してしまう。全く変わらない構造を、アレンジで成立させる大技を多用してるとは気づかない。
 そう、繰り返しなのに聴かせてしまう。この技使いが本盤の凄いところだ。
 
 歌詞を見ると、もしかしたら少しイメージわくかもしれない。いや、聴けば実感するのだが。敢えて先にネタバラシをしてしまう。ここに本盤の歌詞が載っている。
http://www.kramershimmy.com/words/pinkdeath.html
 (2)"BUDDY HOLLY WILL NEVER DIE"は、本盤で最もポップな曲。だが、歌詞を見ると、たった2行。この繰り返しだけ。
 しかし、最初は気づかない。いや、サビだけだと思う。平歌無しで成立してる。

 他の曲だって似たようなもの。歌詞は変化し続けるが、冷静にメロディを追うとどの曲もメロディ・パターンは一つか二つだけ。平歌からサビへってありふれた構造は使わない。
 ぐるぐると一つのメロディを繰り返し、時に少し音程やニュアンスを変え、アレンジの基礎構造をそのままに、オブリでじわりと味付ける。そして強烈な存在感を出す。
 
 どんよりと濁った空気のアルバムだ。開放性はない。泥酔して沈み込むような感じ。ドラッギーと言ってもいい。明るくはじけず、ダウナーにじわじわ溶けていく。
 本盤で唯一のカバーは、ビートルズの(9)。しかしクレイマーは、このカントリータッチな明るい歌を選びながら、偏執的に震える不安定さをアレンジした。確信犯で明るい世界を鈍く汚していく。

 歌唱や演奏テクニックよりも、クレイマーは録音も含めた総力戦で本盤を作った。エンジニアの技を持つ、彼ならではの手法だ。とはいえハイトーンを気持ちよく響かせるクレイマーの歌は、決して悪くない。鍵盤と弦楽器をこなすマルチさも持ち合わせた。それ以上にエンジニアである、クレイマーならではだろう。

 本盤の演奏はほぼすべて、クレイマーの多重録音。サポート・メンバーにルナのSean Eden(g)、デーモン&ナオミのDamon Krukowski(ds)を招いた。人選ははっきり言って、悪趣味。
 デーモンはまだいい。来日公演にも帯同し、デーモン&ナオミの1stをプロデュースはクレイマーだ。ドラムはクレイマーが得意としないため、サポートがいるだろう。
 だがなぜ、シーン・エデンを呼ぶ?
 ギャラクシー500が解散は91年。録音の96年時点にルナはバリバリに活動していた。なにも疑似的なギャラクシー500人脈で固めずともよかろうに。ギタリストのほうが、もっとクレイマー人脈で選べたろ。

 このアルバムに収録されたアルバムは、決して勢い一発ではない。丁寧に楽曲はアレンジされ、演奏も細かく重ねられた。ダビングを様々に施して、クレイマーらしい煙った危ういムードのポップスが詰まった。
 異様なのはほとんどメロディ展開が無く、立ち止まり崩れ落ちるような雰囲気を漂わせてるところだ。クレイマーのサウンドに馴染んだ耳ならば、シューゲイザー的な内省さが好みならば、本盤は十分に楽しめると思う。
 現に僕は本稿を書くため、久しぶりに何回も本盤を聴き返したが、楽しめてる。ただ、へんてこで寂し気な空気は感じる。クレイマーの諦念、減退した気力を象徴するかのよう。

 本盤はクレイマーの3rdソロ。発売順では4thだが。サイケ・ノイズなロックとポップさを見事に融合させた大傑作、1stの2枚組"The Guilt Trip" (1992)、歌ものに拘った佳作2nd"The Secret of Comedy" (1994)。
 そしてシンプルなラインをアレンジで聴かせる、薄汚れた風景の本作。本作でクレイマーは、ポップスターへの道を自ら閉ざした。残念。

Track listing:
1. The Funny Scene
2. Buddy Holly Will Never Die
3. The Opium Wars Have Long Ceased
4. Don't Come Around
5. The Parasite Song
6. The Pink Death Song Of Love
7. It Never Stops Being Absurd
8. Eddie Called Back On The Carphone
9. You've Got To Hide Your Love Away
10. The Hot Dog Song
11. It's Alright If She Don't Love You Right

Personnel:
Kramer - vocals, guitar, bass guitar, keyboards, mellotron, tape, percussion, production, engineering
Sean Eden - guitar
Damon Krukowski - drums

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