Quipu 「GLACE」(2001)

 切なく美しい世界が広がった。演奏と歌がせめぎあいコンパクトなアレンジながらシンフォニックに盛り上がる。

 Quipuの主導権はshezooと前田祐希のどちらだろう。そもそもの活動を紐解くと、DEBORAH名義で二人はユニットを組んで4枚のリリースがあり。このときshezooは志津名義で、ピアノとアレンジを担当した。

1991:君恋し <3曲入りシングル>
    :(1)君恋し(2)ヴォカリーズ(3)君恋し(ドイツ語バージョン)
1993:ルナ・パーク <ガーシュウィン曲集>
1994:月夜のルナ・パーク <ガーシュウィン曲集>
1995:窓に雨 瞳に涙 <6曲入りミニアルバム>
 
 
 この後、前田は一曲ごとにピアニストを変える豪華なアルバム、"JAZZ AGE 1","JAZZ AGE 2"を共に98年にリリース。
 そしてSPICY☆DEBORAH名義で4曲入り"bit"を01年に発売。これがQuipuの前身となった。
 メンバーは既に確定している。前田祐希とshezooに加え、青木タイセイと岡部洋一が参加した。収録曲はすべてshezooの作品。少なくとも音楽的なイニシアチブはshezooが取っている。
 同年にQuipuと名義を変えた1stが本盤となる。

 Quipuのディスコグラフィーは以下の通り。
2001:GLACE
2002:天上の夢 (ライブ盤:ゲスト林栄一)
2005:両手いっぱいの風景
 
 "両手いっぱいの風景"では前田とshezoo以外はメンバーが変わる。深堀瑞穂(tb) 松井秋彦(g/b) 高井亮(ds)の編成になった。
 ここから先の動きは、今一つわからない。

 "天上の夢"のコンセプトを継続させて、01年の段階でshezooはバンド、Trinteを稼働させた。委細のメンバーは不明だが、2008/6/28に大泉学園 in-Fにてshezooのセッションでは、MCでメンバーの一人が小森慶子と言っていた。岡部洋一はQuipuの流れでゲスト参加たことあったそう。
 2009/1/17のin-Fで、shezooは壷井彰久と初共演。それをきっかけで同年8月30日に同じくin-Fにて、shezoo+小森+壷井+岡部のアンサンブルでライブを行う。

 これがそのままTrinteになった。組曲『prayer』『月の歴史 Moons』『神々の骨』と章立てでコンセプチュアルなアルバムを作ってきた。2ndからパーカッションが小林武文に変わっている。
2012:prayer
2015:月の歴史
2016:神々の骨

 つまり2001年はshezooにとって転機だった。Quipuと変更してTriniteが存在する。本盤はぐっとTrinite寄り。コンセプトを明確にするため、Triniteに軸足が移り、Quipuが解体したのではないか。"両手いっぱいの風景"は少しばかり、ムードが違うし。

 Quipuへ話を戻そう。本盤はドラマティックだ。shezooがTriniteで開放するイマジネーションと切ない風景が一杯に広がった。ピアノ、トロンボーン/ベース、パーカッションと、しごくシンプルな構成にもかかわらず響きは豊潤で雄大だ。
 演奏はダビングも施してるが、決して多重録音で厚みを出すのが目的ではない。アレンジそのものでふくよかさを演出する。shezooのアレンジが炸裂した。

 かっこうとしては前田の歌がフロントに立つ。ただしボーカルと伴奏の対比構造でなく、あくまでボーカルもアンサンブルの一要因。ジャズ・ボーカルなアプローチだが、メロディのフェイクやスキャットは無く、滑らかで確実にメロディを紡いだ。

 shezooが作る楽曲で魅力の一つは和音感。ここでも整い浮遊する、和音の変遷をじっくり味わえる。いわゆるポップスな展開ではない。もっと深く柔らかい風景を作った。
 けれども前田の歌が柔らかく間口を広げ、親しみやすくも感じさせる。格調の高さと穏やかな優しさが同居した。

 とはいえサウンドの過半数はshezooの美学に塗られている。ピアノが硬質かつ美しく響き、着実で正確にベースとリズムが支えた。フリーな要素はほぼ無い。リズム打点の解釈はかなり岡部に任されていそうだが。伴奏のリード楽器はトロンボーン。青木がベースと双方を演奏できる強みを、多重録音ならではの生かしかただ。

 かっちりとせめぎ合うアンサンブルはきっちりと煮詰められ、繊細かつ丁寧に編み上げられた。前田の歌声は楽曲を彩るが、shezooの殻を崩すまでには行かない。その意味で、本盤はshezooのアルバムである。

 むしろこの構築美に隙間とアドリブ要素を作るべく、shezooは即興に強いバイオリンとクラリネットのツートップで立て、ベースレスなカルテット、Triniteを稼働させたのかもしれない。

 ともあれ本盤は、隙の無い美学に満ちた、良いアルバムだ。Triniteが好きな人なら、ぜひお薦め。崩れ落ちそうな切ない危うさを、強固な音楽できれいに輝かせた。

Track listing:
1. 水の記憶
2. 天使の仕事
3. -Interlude-Clair de Lune.
4. ひとひらのため息
5. MOONS
6. Trunk
7. -Interlude-鱗の煌く様
8. 人間の透明化について
9. Bolinopsis Neon
10.-Ending- Sabato Santo

Personnel:
All Songs Written & Arranged by shezoo

Quipu :前田祐希 (vocal) shezoo (piano,keyboards)
    青木タイセイ (electric bass, trombone) 岡部洋一 (percussion)

On 5:guest musician 広田智之 (oboe) 橋本光博 (clarinet) 黒川正三 (cello)

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