Acid Mothers Temple & the Melting Paraiso U.F.O.  「Son of a Bitches Brew」(2012)

 マイルスの有名盤をコケにした作品、が基本テーマ。河端の色が強く出た。

 "Bitches Brew"へのオマージュ盤と思っていたが、インタビューによると河端一はマイルスに批判的だった。本盤も別にマイルスへ捧げておらず、『『ビッチェズ・ブリュー』を俺がやるんやったらもうちょっと面白くできますよという皮肉がこめてある』という。
 ライブの一発企画で茶化すならまだしも、わざわざ作品に仕上げるとは。この年にAMTがリリースしたスタジオ・アルバムは本盤のみなのに。どういうきっかけで録音に至ったのか興味深い。
http://www.ele-king.net/interviews/003043/index-5.php

 CD1枚で7曲。曲名は"Bitches Brew"に限らず、さまざまな70年代マイルス作品のパロディとなった。(6)も"Bitches Brew"で"John McLaughlin"と参加ミュージシャン名をそのままタイトルにしたことへのパロディ。
 アルバムタイトルからして"Son Of A Bitch"に引っ掛けて、アルバムそのものをからかった。

 メンバーは宗家へコットン・カシノが戻った編成。ゲストで田畑満などが参加した。Tabla Manは正体不明。Stoo Odomは西海岸のバンドThe Graves Brothers DeluxeやThin White Ropeで活動するStooert Odomのようだ。コットン人脈か。
 
 アルバム冒頭から不穏なオルガンが鳴り、ソプラノ・サックスが動く。前者が河端、後者が津山の演奏とある。二人とも達者な演奏で、見事に当時のマイルスを連想するサウンドに仕上げた。ここへAMT仕立てのパワフルなリズムが乗り、サイケ色を振りまく。
 もちろんシンセが唸り、ギターが暴れる。きちんとアシッド・マザーズ・テンプルのサウンドになった。

 きっちりマイルスを消化した面白いサウンドと思うのに、好意的じゃないのか。うーむ。
 ちなみにクレジット見てると、河端はオタマトーンを使ったりタンブーラでドローンを作ったりと、本盤でもかなりダビングを施し複雑な世界を作った。yangqinとは中国の弦打楽器、揚琴のこと。色んなものを弾いてる。
 
 宗家の加速する痛快さは押さえ、むしろ酩酊感あふれるマイルス・ジャズに近しい世界観だ。即興的な夢遊性はフリージャズでなくサイケ寄り。どっぷりエコーが施され胡散臭くも怪しい世界が広がった。河端自身のミックスも凝っている。

 よってAMTのバンド・サウンドでありながら、河端の志向が強く出たアルバム。津山の豊富な楽器演奏やアイディアが注ぎ込まれ、無国籍アジア寄りの複雑でタフなユーモア精神も、もちろん本作の強い味付けになった。

 つかみどころ無い混沌さが本盤の特徴。"Bitches Brew"に輪をかけて、サウンドはモヤっとしてる。リズムの疾走はたゆたう鍵盤の奔流とギター、サックスの即興に塗り込められる。
 明確な構成は無く、ベーシックなリズムの上へてんでなインプロをダビングが基調かな。この不定形な複雑さは、面白くもあるのだが。リズムの実験よりも、シンセも加えた多層構造のインプロが心地よい。

 ただしもちろん、単調ではない。(4)を筆頭にぐいぐいグルーヴして追い上げる。ただ、アルバム全体が不定形のゲル状に沈むような停滞感とせめぎ合う。それが本盤のスリルだ。
 逆に(5)は異才の田畑を中央に据え、インド音楽風の猛烈なリズムと電気仕掛けでサイケな奔流を微細に吹き上げた。

 ミックスやマスタリングは煙った感じを出しながら、うまいこと楽器同士を溶け合わせた。濃密な音像ながら団子にならず、かといって冷たく分離しすぎてもいない。見事。
 どれかの楽器を極端に立てず、柔らかな壁を作った。

 本盤を細かく聴きこんだら、マイルスの盤からどう解釈/変容したかイメージできるかもしれない。今は分析せず、単純に楽しんでるだけだが。

 クレジットには録音やミックスにコンピュータやハードディスクは使ってない、とある。プロトゥールズでの切り貼り加工は無し、あくまでアナログ的に録音と明記した。
 11/10/14~11/19までの"A Space Ritual Tour in UK & Europe"を終え、帰国後に12年2月まで数ヶ月かけて、本盤はレコーディングされた。なお本ツアー時にコットンは帯同が無く、あくまで本盤のために一時的な参加。

 このあと4月から田畑を迎えた5人編成で、AMTは"Last Tour"と銘打ち、4/6~5/12までが北米/カナダ、10/18~11/25の欧州、12/18~/22の日本ツアーに出ていくわけだ。
 当時の体力はボロボロだったらしい。しかし、幸いにしてバンド解体には至らず。メンバーを変えながらいまだAMTは存続してくれている。このままずっと駆け続けて欲しい。
 
Track listing:
1 Son Of A Bitches Brew 17:16
2 Helen Buddha; Miss Condom X 7:01
3 Fellatioh's Dance Also Bitch's Blow 12:21
4 Water Babies Kill Kill Kill 19:10
5 Theme From Violence Jack Johnson 5:31
6 Tabata Mitsuru 3:31
7 Sweet Peanut Vs Macedonian Beauty 8:38

Personnel:
河端一 - guitar, electric piano, electronics, fuzz-otamatone, tape machine, yangqin, tanbura
津山篤 - bass, soprano saxophone, nei, pungi, alto recorder, voice
志村浩二 - drums
東洋之 - synthesizer
Cotton Casino - space whisper

田畑満 - guitar & guitar synthesizer (on “Tabata Mitsuru”)
Tabla Man - tabla (on “Tabata Mitsuru”)
Stoo Odom - voice (on “Son of a Bitches Brew”)

recorded at Acid Mothers Temple Dec.2011 - Feb.2012
produced, engineered and mixed by 河端一
digital mastered by 吉田達也

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