Swing slow 「Swing slow」(1996)

 テクノとオールディーズを同一目線で混ぜ合わせた、ほのぼのラウンジな盤。当時は気づけなかったが最近聴き返して、いまさらキュートさにハマった。

 細野晴臣とコシミハルのユニット、Swing slowが唯一残したアルバム。ようやく魅力がわかった今に聴くと、もっと活動して欲しかった。のちに細野がルーツ回帰としてカバーを重ねる、アメリカの古き良きオールディーズ世界に通じる、穏やかで上品な世界がエキゾティックなテクノで飾られた。
 
 全10曲だが、以外と細野は目立たない。裏方に回ってる。細野の作曲は3曲、うち二曲(2)(11)はテクノの小品のみだ。
 他にカバーが3曲あり、スウィング・スロウ名義が2曲(6)(10)。なぜかスウィング・スロウでなく細野/コシ共作名義の(12)。細野は裏方に回った。けれどもアレンジや演奏で強烈な存在感は出しており、けっして脇役ではない。

 実際、演奏はすべて細野でコーラス・アレンジをコシが担当のようだ。
 この当時、細野はソロは"Naga"など企画モノ的なアプローチで、コラボで様々なアルバムを出していた。公式ページから当時のアルバムを並べてみた。ものすごいペースだ。
 そしてスウィング・スロウは一連のリリース・ラッシュが一段落ついたあと、おもむろにリリースの盤と分かる。力のこもったレコーディングだったのかもしれない。
 
95/1/21 LOVE, PEACE & TRANCE(with 甲田益也子/小川美潮/遊佐未森)
95/4/26 N.D.E (with ゴウ・ホトダ/ビル・ラズウェル/寺田康彦)
95/9/10 GOOD SPORT <ソロ>
95/10/25 Naga <ソロ>
96/1/21 Interpieces Organization (with ビル・ラズウェル)
96/10/25 swing slow 【本盤】
96/12/21 HAT Tokyo-Frankfurt-New York (with テツ・イノウエ/Atom Heart)
 
 収録された曲は過半数がオリジナル。けれどもどこかのどかなムード漂う、おっとりした空気が本盤の特徴だ。(1)からしてコシの透明なハイトーンで歌われるフランス語歌唱は、カバーに聴こえてしまう。
 オリエンタルなトロピカルさと欧州のデカダニズムが漂う(4)もしかり。(4)はエキゾティックなムードが漂いつつ、歌でなくインスト寄りに仕上げたコシのアレンジが心地よい。

 なお演奏はテクノを基調ながら生楽器の温かさもそこかしこにあり。実際は打ち込みっぽいけれど。
 (4)は軽快なドラム・ソロが淡々と刻むカホンっぽい音色と絡み合うリズムの饗宴が心地よい。
 
 スキャットが素敵な(5)も淑やかだ。ネスカフェのコマーシャルを連想させながらも、ここではエコーを生かして、さらに神秘的に仕上げた。

 なおテクノに本盤は決めつけてるわけではない。(4)の肉感的なリズムや(10)のわさわさっと不穏なラウンジ・ムードなセッション色溢れる曲もあり。打ち込みビートを利用しつつ、がっつりグルーヴィだ。ところどころ寸断されるDJっぽい箇所もある。

 カバー曲も整理しておこう。「雪やこんこん」をカバーの(7)は、譜割を一小節づつ飛ばして、ユーモラスな浮遊感を出している。このテクノなアプローチは、めちゃくちゃに耳馴染んだ童謡を、キュートなポップスに仕上げた。さすがのアレンジ・センス。

 (3)の"I'm Leaving It All Up To You"はWikiによるとオリジナルが57年のDon Harris and Dewey Terry。

1963年に全米1位なヒットのDale And Graceバージョンで有名になったらしい。本盤もこちらのアレンジを下敷きのようだ。


(8)の"Good Morning Mister Echo"はYoutubeに数パターンあり。Jane Turzyがオリジナルらしい。ついでにGeorgia Gibbs、Harvie June Vanのバージョンを並べておく。まさにタイトル通り、木霊なエコーを利用した楽曲アレンジの小粋なジャズ・ソング。
 今聴くと、奇妙な味わいがユーモアというよりギャグに聴こえてしまう。たぶん当時は、大真面目と思う。
  

 スウィング・スロウの動画も貼っておこう。


 このアルバムは、かなりバラエティ豊かだ。通底するのは、ノスタルジックな中流の平和さ。さらにスペイシーな雰囲気と、先駆的なアンビエントが混在する。古めかしいメロディが鮮やかに表現される一方で、ベトナム戦争前の寛いだオールディーズも無造作かつ滑らかにカバーされた。機械仕掛けが主だが、歌声やリズムに生演奏のダイナミズムも透けている。

 一曲づつ聴いていくと、発想や方向性はバラバラ。しかし細野によるテクノの懐深さやコシのメカニカルで透明感あるボーカルで柔らかく包まれている。
 ごった煮なアルバムなのに、不思議と統一性がある。明らかな前衛性は見せないが、刺激的なアイディアはいっぱい。細野とコシの才能が実にさりげなく、見事に炸裂した。これは凄いアルバムだった。今まで、気づけなかったなあ。無念。これから改めて、たっぷり聴こう。

Track listing:
1 Western Bolero 4:09
2 Time Scan 1:57
3 I'm Leaving It All Up To You 3:17
4 Disappeared 6:38
5 Hotel Etoiles 4:13
6 Snow Wave 1:28
7 Yuki-Ya-Konko 2:42
8 Good Morning, Mr. Echo 2:39
9 Capybara 5:27
10 Voo Doo Surfer 4:04
11 Time Scan 3 0:33
12 Paradise, Ver.2 7:12

Personnel:
ハリー細野Jr.(rhythm arr,sound design)
コシミハル(harmony arr)、
ティモシー・リアリー(voice)

関連記事

コメント

非公開コメント