Momus 「Circus Maximus」(1986)

 モーマスは世界との距離感を本盤で測っている。楽曲そのものは美しいが、迎合せず自分の好みを徹底的に絞り上げた。

 ソロのデビュー作。
 アコギを主体のフォーク路線を基調だが、陰ったひねりと欧州風のデカダニズムを盛り込んだ。さらにシンセなどで細かく音を飾り、きれいなメロディと豊富なアイディアを詰めた。線の細い歌声で、リズムを希薄にして青白い危うさを表現した。
 おもいきり気取ってはいるのだが、不思議と嫌味さはない。魅了したい寂しがりの裏返しでなく、ほんとうに自分の世界へ籠っているせいかも。

 そもそもモーマスの音楽デビューは、本盤から遡ること5年前。エジンバラで結成したバンド、ハッピー・ファミリーだった。
 シングル"Puritans"(1982),アルバム"The Man On Your Street"(1982)、カセットのデモ集"This Business Of Living"(1984)(500個くらいしかリリースないらしい)を出して解散。
 そして数年後にニコラス・キュリーはモーマスと名義を変えて、本盤をリリースした。

 ミュージシャンのクレジットはバック・コーラスのJane Daviesと、シンセのNeill Martinのみ。アレンジの主体はアコギだが、数曲でチェロも聴こえる。これもシンセだろうか。
 アンサンブルは細かく、色んな音色が聴こえるのに。ほとんどクレジットが無い。

 総じてアコースティックな耳ざわりで、ビート性は薄い。繊細でナルシスティックな空気が漂う。触れたら壊れそうな危うさは、ナイーブな自分自身のアピールであり、聴き手の共感や対立構造は作らない。内省的で、静かな音楽だ。けれども強烈な自意識だけは滲み出る。

 後年のモーラスから感じる突き放した孤高さは、本盤では希薄だ。柔らかいメロディをそっと扱い、アコギとシンセで丁寧に飾っている。イギリスのトラッドよりも欧州のバスキング風味な退廃さをまとう。
 
 きっちりポップに楽曲を成立させる作りで、歯切れ良いメロディがそこかしこに交じり、決して退廃性のみに陥らない。この辺はまだ若々しくデビュー盤でもあるゆえか。
 投げっぱなしにせず、アレンジにも細かなメリハリを付けて作りこんだ。

 逆にリズム強調のバンド風にせず、あくまでも個人の作りこみな風合いだ。ダビングをあれこれ施しながらも、寂しげで自分の世界をかたくなに守る。
 全く他者を寄せ付けない割り切りまでは、行かないが。逆にこの辺の中途半端さ、もしくは隙が本盤の魅力かもしれない。コミュニケートをおずおずと、しかし自分の身を傷つけないよう注意深く。

 オリジナルのLPは9曲入り。後年のCD化で3曲のボートラがついた(86年12"シングル"Nicky"音源を収録)。

 いつしか本盤は廃盤となり、モーマス自身が音源を無料配信までしていたが。
 2015年に改めて再発された。さらにボートラが足され、全18曲らしい。現物は見てないがDiscogsによると、3種類の12"音源を収録。
 (85年"The Beast With 3 Backs 12"、86年"Murderers, The Hope Of Women"、86年"Nicky")
 初期モーマスを概観にはちょうどいい再発になった。

 もっとも"Nicky"は前述のとおり本盤のボートラで既に再発され、残る二枚の12"も"Monsters Of Love - Singles 1985-90"(1990)にて、編集盤で以前は入手が容易だった。だから昔からモーマスを聴いてた人にはレア曲ってほどでもない。

Track listing:
1 Lucky Like St. Sebastian 3:19
2 The Lesson Of Sodom (According To Lot) 3:43
3 John The Baptist Jones 3:12
4 King Solomon's Song And Mine 3:17
5 Little Lord Obedience 5:13
6 The Day The Circus Came To Town 3:25
7 The Rape Of Lucretia 4:57
8 Paper Wraps Rock 3:58
9 Rules Of The Game Of Quoits 4:03

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