松風鉱一 「万華鏡」(1997)

 明るく多彩なアプローチを、不可思議な浮遊感が包む。コンパクトに小宇宙を巡るジャズ。

 彼のサックスは線が細くメロディアス、そして繊細なイメージがある。一筋縄ではいかない。簡単に包み込めない。
 松風は一つのバンドをつきつめるより、アルバムごとにあれこれを試すミュージシャンってイメージ。日本のジャズの場合、ほとんどがこのパターンだが。今回、プロフィールを調べてたら、ゴダイゴのホーン隊に参加してたと初めて知った。

 リーダー・バンドではトリオだと80年代に吉野弘志(b) 古澤良治郎(ds)、その後のトリオが本盤で聴ける水谷裕章(b) 小山彰太(ds) 。さらにStudio Wee盤をきっかけにか、加藤崇之(gt) 水谷浩章(b) 外山明(ds)に進化した。
 他にサックス・ワークショップやPortも率いたことがあったそう。前者は3枚組のライブ音源復刻があるが、後者はよく知らない。メンバーは吉野/古澤とのトリオだな。トリオをPort名義にしてたってこと?音盤があるかは不明。

 ただ今回、ディスコグラフィー(後述)を整理して、なんとなく共通性や流れが感じられた。
 オーソドックスなジャズに飽き足らない。かといってゴリゴリのフリーでは無く、インプロ、しかも凝った手業と和音を捨てたくない。
 今のカルテットも、ティポのリズム隊ってイメージが強い二人と、即興の天才な加藤を擁した。どんな方向にも向かえる。そしてすべての要素を包み込める。それも、サックスで歌いのめす松風のメロディ・センスがあってこそ。

 本盤にしてもそうだ。ドラムは山下洋輔トリオでならした小山を迎え、フリーなイメージ。だがたぶん水谷の要素で、整った複雑妙味も浮かぶ。さらに奔放だが繊細な三好功郎をゲストに迎えて、独特な空気を作った。
 のちの水谷バンドに通じる和音感もそこかしこにあるが、本盤の根底はもっとがっつり骨太だ。
 
 このトリオ名義では"ア・デイ・イン・アケタ"(1993)に続く4年ぶりのアルバムかな。
 横浜のイギリス館で97年の4/30,5/14に録音された。エンジニアはアケタの店の島田正明が務めた。彼らしい温かく柔らかい響きの録音を、たぶんマスタリングで硬めに仕上げてる。
 発売レーベルOff Noteの神谷一義に加えて、共同プロデューサーにはエアジンのうめもと實もクレジットあり。前作のアケタと同様にジャズを、彼の音楽を分かった人が作ってる。

 全11曲すべて、松風のオリジナル曲。どれも突飛なタイトルがついているけれど、楽曲は静かなユーモアを持ったロマンティックな楽曲ばかり。
 テクニカルなメロディがどの曲もくっきり成立してる。けれど技巧前提の堅苦しい緊張感が無いのは、奏者の腕前あってこそ。複雑な構成も、あっさり弾きこなして穏やかなムードを漂わせた。

 テーマからソロ回しのアレンジが基調。シャープにドラムが刻み、ベースはリズムというよりフレーズでノリそのものを温かくささえた。そして松風はサックスとフルートを吹き分けた。全体的にはロマンあふれる楽想だが、のちに渋谷毅オーケストラに提供する(2)のごとく、ファンキーなノリも忘れない。

 松風と水谷、三好が楽曲ごとに楽器を変えるため、アレンジは多彩。曲想もまちまちだが、通底するのはほんのり寂し気な切なさ。情感はじんわり滲ませ、ストレートには提示しない。
 なおゲストの三好はバンドの一員として弾きまくった。楽曲ごとに変えた音色はブライトさが基調で、歪ませはしないアプローチで。

 スピードを上げ過ぎない。テンションも盛り上がりすぎない。ムーディに走りすぎない。どの楽曲も強い抑制が感じられる。中庸、でもない。どこにも属さない、隙間を探して安住を避けている。
 
 演奏にしたって、アドリブ要素を増やしてがんがんソロ回ししたらあっさりとアルバムが成立する。けれど11曲も並べて、垂れ流さない。
 常に安定を外し続け、それでもフリーな孤高は目指さない。どこかの立ち位置を目指すほうが容易だろう。派手でも、前衛でも、オーソドックスでも。
 ところが本盤で松風はもっとあやふやな世界を描いた。崩れそうで緻密でロマンティックだがひねってる。そんなふわふわとたゆたう質感が素敵だ。

Track listing:
1.昼飯時の"ライフタイム"に5拍子のブルースを
2.会田家の田舎暮らし
3.黄砂
4.あぎさい寺の庭に咲くあじさい
5.ジャズ酒場グルーヴィーのテーマ
6.レクイエム
7.中西太三塁手へのゆるいゴロ
8.Centris 650 でのガボテン通信
9.48 のこと
10.サムイ島のエメラルドコゥヴ
11.エンドレスストリート

Personnel:
松風紘一 as,ss,ts,bs,bc,fl
水谷浩章 b
小山彰太 ds

with
三好功郎 g



 色々アルバム出してるイメージあるが、ディスコグラフィーで適当なのが見当たらない。ざっとまとめてみた。膨大な参加アルバムもあるため、リーダーもしくは双頭盤のみ抽出した。

[Discography (incomplete)]

1975 アット・ザ・ルーム 427 (with 山崎弘一/古澤良治郎)
1976 生活向上委員会ライブ・イン・益田 (with 明田川荘之/山崎/宮坂高史)
1978 アース・マザー (with 川端民夫/古澤/大徳俊幸)
1981 Good Nature (with 望月英明/森山威男/初山博)

1993 ア・デイ・イン・アケタ(with 水谷浩章/小山)
1997 万華鏡(with 水谷/小山/三好)【本盤】

2003 無明 (with 原田依幸)
2005 Private Notes(with 加藤崇之/水谷/外山明)
2005 ゲストハウスで昼寝 (with 加藤/水谷/外山)
2005 ライヴ・イン・浜松 (Sax Workshop名義)*1982年の録音

2008 Lindenbaum Session (with 南博/吉野)
2008 Blue Black の階段 (with 渋谷毅)

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