灰野敬二 「The Book Of "Eternity Set Aflame"」(1996)

 ドローンへ徹底的にこだわった名盤。ロックに留まらぬ、和風な香りもする。

 単調な連続ではない。めくるめく変貌と精妙な美学が詰まったドローン。どうやって音を操ってるか、さっぱりわからない。同じように見えて常に変わり続け、いわゆるノイジーなアプローチを取りながらも、徹頭徹尾に美しさを追求したアルバムだ。

 96年と灰野のアルバムでは比較的初期の作品。エレキギターと歌によるライブ録音だが、場所など詳しいことは記載無い。要はダビング無しと言いたいのだろう。
 しかしどうやってこの音楽を作ったのだろう。エレキギターを基調に、エフェクタ処理と思う。リバーブとディレイとハウリングとフィードバックの集大成、だろう。偶発的な作りな要素も多数あると思われる一方で、すみずみまで音楽に破綻は無い。

 リズムや平均律から解放され、低音から超高音まで幅広い音域を使った。軋み続けるエレキギターの音色を操りながら、たゆたう懐深さと前のめりなスピード感の双方が込められた。
 非常に日本人的な音楽、と思うのは民族主義的に過ぎるだろうか。

 轟音やノイズは結果論であり、破壊や解体、アンチ音楽などの仮想敵や暴力衝動の危うさとは無縁な音楽だ。
 (1)はエレキギターのみ。幾層にも絡み合う緩やかなドローンと、別の時間軸でうねる音が紡ぎ出す風景は、大河ではない。むしろ小規模のせせらぎが似合う。激しく流れる箇所と緩やかに滴る箇所。違うタイム感が一つに混ざっている。

 さらに見事なのが、この終盤。すっと一気に音を絞り、たちまち新たに同様の音像を作る。けっしてコントロール不能な音楽ではない、の証明だ。力強くも繊細なひととき。
 歌声無しで、まったく飽きさせないハーシュ・ノイズ寄りの細かな色合いの音楽を紡いだ。

 (2)はさらにオリエンタルな要素が強まる。アンプの唸りをイントロに、エレキギターと思えないブライトで平べったい音色を使った。途中から絞り出される、硬質で鋭くまくしたてる灰野の声。
 この曲が最も、和風の要素が強まった。笙をエレキギターで表現してるかのよう。突き刺さる歌声は狂言や能のりりしさを連想した。

 じっくりと伸びる音色は切れ目なく、唸りながら音程を変えていく。ワウを微妙に操作してるのか。ピックが弦をはじく感じが希薄で、ねじるようにじわじわとピッチが移った。
 本盤でも特に幻想的な一曲。アンビエントな聴き方もできそうだったのに、猛然と吼える灰野の歌声が弛緩を許さない。

 (3)は(1)と似ているが、ぐっとロック寄り。40分近くにわたって、激しいギター・ノイズをばら撒いた。
 ここでは(1)よりも生演奏のアグレッシブさが強調されてる。歪み倒した音色を元に、メロディがぐいぐい流れた。フレーズこそ通常の4拍子に割り切れない、突飛な流れをするけれど。旋律構造は極端に上下せず、むしろ聴きやすい。
 
 ハードロックの歪んだギターが表現する、かっこよさだけを抽出した。ビートの要素は希薄だが、明白なグルーヴ感を持つ。音色からノイジーに聴こえるけれど、音符だけを取り出したらかなり聴きやすい。
 灰野の歌声はギターの譜割と無縁に叩きつける、独特のタイム感を本盤でも聴ける。

 そして楽曲はやむことなくサイケにテンションを上げていく。だがドラッギーな酩酊や危ういいい加減さは皆無。集中力を切らさず、灰野はぎりぎりと音楽を絞り上げる。美しく。
 この手癖に終わらない真摯なスタイルこそが、本盤を凛々しく仕上げた。

 明白な起承転結は無い。けれども停滞や連続は無い。耳を澄ますと、本盤の中で音楽は常に変化と進行を行っている。

Track listing:
1. Eternity Set Aflame I (18:41)
2. Eternity Set Aflame II (12:01)
3. Eternity Set Aflame III (39:31)

 米ボストンのレーベル、Forced Exposureからの発売。廃盤なのかAmazonではプレミアついているけども、Youtubeでも聴ける。
 

関連記事

コメント

非公開コメント