灰野敬二/Ambarchi/O'Rourke 「Tima Formosa」(2010)

 轟音の掛け合いでなく、パフォーマンスっぽい密やかな持続と混沌の記録。

 タイトルのTima Formosaとはギヤマンクラゲのこと。日本では東北以北に生息らしい。
 09年1月8日に福岡の北九州芸術劇場で行われたライブを収録した。音盤では初の三者共演。アンバーチがこのトリオへ手ごたえを感じたが、以降も毎年アルバムが同じ編成でリリースされていく。

2011:"またたくまに すべてが ひとつに なる だから 主語は いらない"
2012:"いみくずし"
2013:"まだ 暖かい内に この今に 全ての謎を 注ぎ込んでしまおう"
2014:"ただ美しく溶けてしまいたいのに まだまだ満ち足りていないから まだ見えてないはずの ほうが愛おしく 思えてしまう"
2015:"ここに 与えられた この身体 全部 使い切てやる という者の お茶の 時間"
2016:"君は気がついたかな 「すみません」 という響きがとても美しいことに それ以上悪くしないように"
      

 本盤はジム・オルークがピアノでクレジットされる珍しい編成。もっとも別に流麗なピアノをオルークが弾くわけでもない。
 なおアンバーチもドラムでなくギターとクレジットあり。だが太鼓の音色はアンバーチだろうか。

 (1)はドローンの黒いせせらぎにノイズの光がちらちら瞬く光景で始まった。エレキギターのフィードバックと、灰野のエレクトロニクスが産む音像か。ベースのような低音が数音、ピアノらしき音が鈍く数音。内部奏法っぽいざらついた音色も。

 トリオより多くの音が重ねられ、誰がどの音かが今一つ不明。闇の濃い残響に、のっぺりとノイズが乗る構成が続く。
 静かに金物ノイズが散発的に乗った。ライブの現場では轟音だったとしても、アルバムとしては穏やかで無機質な世界。
 そしておもむろに、灰野がファルセットをゆっくり伸ばしていった。音程は緩やかに上昇し、張りつめた緊張が涼やかに滑る。

 ビートも展開も無く、持続する響きへ灰野の歌声が溶けた。ひとしきり透明な喉を披露したあとで、ぐしゃっと潰す対極の叫びも。何事もなかったがごとく、声を戻す。強靭な喉だ。
 そのあとはまた電子音のドローンに戻る。ヂリヂリと空気がざらつき、低音のうねりと高音のばらけた細粉がひっそりと舞った。セッションよりも三人でサウンド・スケープを作ってるかのよう。
 持続する単調さが酩酊感を誘う。そして(1)は終焉へ。かなりストイックな始まりだ。
 
 インターミッションのように3分程度の(2)は、充満する電子音と散発的に高音部を鳴らすピアノで幕を開けた。電子音は数種類あり、灰野とアンバーチで弾き分けか。 
 地声のハイトーンで灰野は鋭利に世界を塗っていく。するりと音程が下がり低く唸った。緊張から不安定な空気がじわじわ侵食してきた。

 この音盤はもう少し長いライブから聴きどころを切り取ったもののようだ。三曲に継続性は無く、時空が飛んでいる。
 (3)は(2)と似ているが、もう少し途中経過があったのでは。かぼそく灰野が啼き、ピアノが低音で鳴った。灰野が低音を絞り出し、ピアノと地を揺らしあう。

 静かな発振音。激しさを抑え、サウンド・アートのような構築感が漂う。
 切り裂く甲高い音は電子音っぽいが、灰野がフルートで倍音のみを強く吹いているようだ。切なく寂しく尖った風が産まれた。
 その場でサンプリングして、数種類の音が溢れる。灰野による巧みさがさすが。音を重ねても歪まず潰れず崩れない。それぞれが調和して響く。偶発的なハーモニクスのはずなのに。

 ざらついたパーカッシブな音がアンバーチだろう。灰野もドラムマシンを使ってるらしい。13分過ぎに現れる和太鼓めいた響きが、それか。
 単調でわずかな変化が漂う。爽快さでなく重苦しい雰囲気がどんより流れる。
 ドラムマシンの乱打が和風の野性味を作った。ここまでの停滞を吹き飛ばすように、ドラムマシンとノイズの絡みが高まっていく。

 オルークはここで何を弾いてるのか。ギターは軋んでおり、アンバーチの存在感はある。灰野はエフェクターで潰し倒した声を提示した。
 ドラムマシンのリズム、弾けるエレクトロ・ノイズ。灰野の叫びが複数混ざり、全体が大きくうねる。

 20分過ぎに急速に音が消え、再びゆるやかなドローンへ。電子音が複数重なり、波打つさまは複雑になっている。
 ぽつり、ぽつりとピアノの音が現れた。クロスフェイドでノイズからピアノへ重心がずれていく。
 最後は電子音と灰野の低音、ピアノと三者三様の世界観が並列で成立した。

 アルバム全体のイメージは沈鬱だ。激しく炸裂の部分も、解放感とはほど遠い。ずいぶん形而上的なサウンドを志向したものだ。

 「どうもありがとう」
 灰野の挨拶と拍手で、本アルバムは幕を下ろす。

Track listing:
1 Tima Formosa 1 24:44
2 Tima Formosa 2 3:45
3 Tima Formosa 3 31:14

Personnel:
Voice, Flute, Electronics, Drum Machine : 灰野敬二
Guitar : Oren Ambarchi
Piano : Jim O'Rourke

Recorded live at 北九州芸術劇場(福岡県北九州市)on January 8, 2009

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