灰野敬二 「I Said, This Is The Son Of Nihilism」(1995)

 59分一本勝負のドローンめいたエレキギターと歌の鮮やかな一枚。聴き終えると、灰野の歌が一杯なアルバムだったって気分。

 冒頭から轟くエレキギターのノイズ。ビート性は希薄に轟音が溢れかえった。たぶん一発録りと思うが、どの音が実際に出しており、どの音がノイズか判別できない。この時代にディレイはあるかな。ループは使ってないんじゃないかな。
 響き渡る低音のうねり、軋むフィードバックやハウリング、充満するリバーブ、うねるように音程が変わる低い音と、高音のきらめき。弓で弦をこするような音も聴こえる。
 
 エフェクターとアンプ、ギターの三位一体で作っている音と想像するが、どこまで灰野はこの音像を意識的に構築したのだろう。どの辺が偶発的だろう。
 しばらくすると灰野のファルセットが緩やかに入ってくる。遥か古代の讃美歌めいた神秘性をもって。激しいギターと対比的に。

 ギターそのものも譜割はないのだが、ファルセットのタイミングもギターのうねりとは違う時間感覚で密やかに響く。この多層的なタイム感も灰野の特徴だ。
 叫びではない。言葉も乗せない。ただ、高らかにファルセットがたなびいた。

 10分過ぎに音像は変わる。そこまでの雑味が取り払われ、軋む音が金属的に磨かれた。きらめく倍音がじんわりと空気を揺する。伸びた和音の音程がみりみり震える。
 荒々しい世界から、一気に滑らかな風景へ移った。

 やがてそれも整理される。ほんの少し残響をまとっただけのストロークに音色が収斂した。
 ストロークのテンポが次第に下がり、爪弾き程度に。
 もう一度、灰野のファルセットが始まる。一呼吸おいて、ギターが加わった。つぶやく歌声へ変化した。歌詞を引き連れて。フォーク調の色合いに移る。

 ひとしきりの穏やかさ。だが強い低音弦の唸りが歪みながら響いて歌声に載っていく。声はテンションを上げて負けずに張り上げる。
 すうっと炸裂したハーシュ・ノイズ。このあたりの滑らかな展開が見事。冒頭の混沌よりよほど整理された音像ながら、声とノイズとギター・ストロークの混在がカッコいい空気を作った。

 けれども力押し一辺倒で安直に終わらない。また、音像は静かな雰囲気へ戻る。常に灰野は予想通りに動かない。違う方向へ向かう。ここでは、鋭角な金属質のギターをバックに切々と歌いかけた。

 冒頭や終盤のノイジーなイメージが強烈だけど、ならすと静かな場面も同じくらい多い盤。
 

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