加藤崇之/金井英人/馬場たかもち 「渦」(1991)

 幻想と具象の一夜を封じ込めた、混沌の"渦"巻くフリー・ジャズ。

 91年10月12日に移転前の新宿ピットインでのライブ盤。三人のフリージャズと、加藤崇之のガットギター・ソロが収められている。
 なぜ一夜のライブで、ここまで振り幅広い演奏だったのだろう。1stセットと2ndセットでソロとトリオ、分けたということか。

 異なる二日の音源を抜粋した、なら分かる。スタジオ録音で、トリオの合間にソロ・ギターを録音した、でも分かる。片一方は、思い切りフリー。もう一方はフリー寄りだがスタンダード。
 非常に混沌な加藤のライナーノーツによれば、この年は高柳昌行とマイルス・デイビスが無くなったといいう。二人を加藤なりに象徴した選曲かもしれない。

 このトリオは本盤以外、公式録音は無いはず。たまたまのセッションか、バンドだったのかは不明だ。
 アケタの店の島田正明がエンジニアを務めてる。オーディエンス録音ではない。レコーディングを前提として、明田川荘之が確信的に収録したようだ。

 前半2曲は三人の即興。加藤がリーダーシップを取ってはいない。幻想と、仏教的な秘境感を漂わせる抽象的な響き。中心も展開も無く、淡々と音が紡がれた。

 指弾きで奔放なギターを時に鋭く、時に浮遊させる加藤。骨太に刻むベースの金井。リズム・キープを放棄し、連打と乱打で空気を泡立たせる馬場。三人の音がサイケに盛り上がった。
 ありふれた起承転結やわかりやすい熱狂を、注意深く外したインプロが続く。剛腕の疾走ではない。余裕と渇望がひっきりなしに入れ替わる。互いの音を聴いてるのと、あるていど合わせあうために、ときおり盛り上がりがうねる。隙間を縫い合う。

 こういうツーカーの完成度が、冷徹な欧州ジャズやパワフルな北米ジャズと明瞭に異なる、中央線ジャズの特徴と思う。
 とはいえ楽曲を中途半端に放り出す潔さと勇気は常に兼ね備えた。
 メリハリを避けてるため、楽曲としての完成度はコメントしづらい。じわっと始まりやんわり終わる楽曲の、つかみどころ無さを楽しみたい。

 なお最終曲はパーカッションのソロ。叩くだけでなくシンバルのエッジをこすって倍音出すなど、幅広い響きを馬場が作り上げた。

 一転してアコースティック・ギターの2曲。ここで加藤の美学と卓越したテクニックを堪能できる。凛々しく、柔らかく、そしてどこか寂しげにギターが鳴った。
 インテンポのコードでアプローチと言いたいが、耳ざわりはフリー。けれども奔放さは見事に美しく整っている。たっぷりと間を取ったインテンポであるかのよう。
 だが唐突に跳躍するフレージングに、フリーさがにじんだ。

 つかみどころのない一夜。しかし豊潤で幅広い味わいだった一夜を封じ込めたアルバムだ。

Track listing:
1. 渦 I 16:14
2. 渦 II 19:43
3. Stella by Starlight  11:29
4. 'Round About Midnight 5:21
5. 渦 III 3:22

Personnel:
加藤崇之:g
金井英人:b
馬場たかもち:Per,ds

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