灰野敬二 「ドキュメント灰野敬二」(2012)

 感動的な灰野敬二がわかりやすく詰まった。とりわけ(3)が美しい。

 灰野の生きざまを活写した映画、"ドキュメント灰野敬二"の上映劇場にて販売されたサントラ・アルバム。不失者の2曲は12年4月3日に高円寺Highでのライブ。ソロの(3)は11年10月19日に上野水上音楽堂で録音された。

 最新編成の不失者の音源は映画で完奏なかったため、音源として嬉しさがある。1stから(2)を取り上げ、ぼくはあまり詳しくないが(1)もたぶん代表曲なのだろう。
 激しく重たい世界を、むやみに手数多くせず突き進む不失者。映画で見られた独特なタイポグラフィを使った譜面、リハーサル風景のテンションも含めて、創作風景が伺えて興味深かった。

 轟くエレキギター、軋む音色と唸り。ブルージーなうねりと単色の構成でも微妙な陰影を出す漆黒のアンサンブルが、ロックのかっこよさを丁寧に描いた。
 そして灰野のシャウト。絶叫し喉を絞りながらも、声が破れずきっちり響く素晴らしい声帯だ。

 だが本盤で何よりも素晴らしいのが(3)。(2)と同じく不失者の1stに収録の曲だが、ここではブライトなエレキギターで、よりフォーク風味のアレンジに仕立てられた。
 シンプルなストロークの弾き語りではない。ニュアンスが、そこにはある。

 そして切々と歌いかける灰野。ファルセットが滑らかに漂う。歌手であることを、しみじみ痛感した。20分ほどの長尺が、すっきりした音像だが濃密に響く。
 ギターの一音一音、歌の一節ごとに説得力があり。映画でも感動的なシーンだった。これがCDでいつでも聴ける嬉しさよ。

 灰野敬二の音楽は、毎回異なる。すべてが即興的に生まれ、似かよらない。
 だが本盤を聴いてると、「曲」を演奏だと実感する。他のテイクとも違うアレンジ、異なる構成なのに。いわば直感として「曲」の核心が掴まれている。だから違う演奏でもブレない。

 しかしこの映画、DVD化されないかなあ。


Track listing:
1. おまえ 13:53
2. 暗号 16:11
3. ここ 19:46

Personnel:
不失者
灰野敬二 (ギター, ヴォーカル)
亀川千代 (ベース)
Ryosuke Kiyasu (ドラムス)

灰野敬二 (ギター, ヴォーカル)

関連記事

コメント

非公開コメント