不失者 「不失者」(1989)

 不定形を定型へ絞り上げ、分かりやすさを狙った盤。

 不失者のデビュー作にして2枚組。楽曲を演奏、が特徴だ。いわゆる定型フォームの曲構造はとらないが、明確なソング・ブックである。
 灰野敬二のギターと歌が炸裂し、漆黒のサイケ・ロックを産んだ。灰野は妥協していない。だが、とても聴きやすい盤だ。

 初期の不失者の盤はデザインが同じ。ジャケットで見分けることができない。本盤は帯で識別しかない。この盤だと「わたしと 今 どっちがどっちに にじんでいる」と書かれてる。
 なお2ndならば「一五0分の輪廻 長すぎるか 短すぎるか 君の心のとろけかた次第さ サイケデリックの逆説」とあり。

 本盤はメンバーが不確定だったのか、ドラムが二人クレジットされた。ギターも灰野だけでなく三浦真樹が参加した。どれがだれの演奏かは識別できず。
 ライブ・レコーディングとある。しかし観客を入れた臨場感はあまりない。ダビング無し、ていどの意味か。

 縛られないフリー・フォームの音楽を灰野は一貫して追ってきた。いっぽうで孤高にとどまらず、ロスト・アラーフを筆頭に、バンドで他者とのコミュニケーションにもこだわった。
 音楽は聴く相手がいてこそ成立する。分かる人にだけ分かればいい、って選別で他者を排除せず、聴き手であり奏者であり、相手を常に求めた。
 
 その時、繰り返しを回避する灰野のスタンスと理想へ、どこまで共感と協調が可能か。それが現存する灰野のバンド活動、もしくはコラボ活動の聴きどころになる。そこで不失者は灰野の音楽を、ロックというキーワードをよりどころで、骨太に体現したバンドと思う。

 時を重ねるにつれ、不失者は囚われなさを音に込めてきた。だがここでは、ブルージーで重たく、センチメンタルな要素を封じ込めた。灰野はハーモニカも操り、フォークな要素もたっぷり。
 アコギでかき鳴らす四畳半フォークに通じるパーソナルでメランコリックな世界が、そこかしこに漂う。だが鮮やかに轟音エレキギターで飾られ、シューゲイザーに近い風景へ貫かれた。

 低く粘りながらパワフルに進む(1)で幕を開けるが、剛腕よりも切ない感情の滴りが本盤には満ちている。静かに、ではない。メロウさの意味で。
 透き通る灰野の声は、不安定に漂う独特のメロディや漂いをまとって変幻自在。さらに叫びやささやきに反応して、バンドがグイッと動くさまもスリリング。バンドならではのダイナミズムもたっぷり味わえる。

 音が小さいわけではない。たぶん、フル・ボリューム。ラインでなく出音を録音したか。残響をたっぷりまといつつ、大音量による空気の軋みや滲みがそこかしこに感じられる。その意味で純粋培養な録音ではない。生々しいノイジーさも封じ込めた。

 歪んで音の輪郭が崩れた灰野のギターも、フルレンジで暴れるボーカルも本盤でたっぷり聴ける。いっぽうで最終曲に象徴される、突き抜けた静けさも素晴らしい。
 猛然さと穏やかさ、歪みから産む美しさ、炸裂する切なさ。双方の要素が矛盾なく自然に表れた。

 若さゆえのパワフルさが本盤の魅力だが、老成したしたたかさもあり。凄く普遍的な音楽だ。瑞々しい灰野の歌声は、変わらぬ説得力を備えている。

 曲構造は決して単純ではない。だが、聴きやすい。不失者は本盤で、聴き手へ間口を大きく広げている。

Disc 1
 1. あっち
 2. 暗号
3. 好きにすればいい
4. 届かない

Disc 2
1. ふわふわ
2. なったんじゃない
3. 迷子
4. ここ

Personnel:
灰野敬二 (guitar, harmonica,voice)
小沢靖 (bass)
三浦真樹 (guitar)
Akui(阿久井喜一郎) (drums)
Murayama(村山政二朗) (drums)

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