Sun Ra | Merzbow:Strange City (2016:Cold Spring)

 サン・ラの音源を,メルツバウがノイズ加工した、企画アルバム。

 書きたくなかったけど、頭の隅をよぎるフレーズをまず書いて、忘れてしまおう。
「アルバムを、サン・ラに出す」。Quick Japan誌8号のインタビューで、96年に秋田昌美の発言だ。リリース量はたぶん、とっくに越してるだろう。サン・ラも未発表音源が出る上に、何をもってサターン盤を1枚と定義かよくわからない。
 ともかく、単なるメタファーとして挙げた「膨大リリース量」の対抗馬、サン・ラとメルツバウが具体的に共演する機会となったのが本盤である。

 だれが持ちかけた企画かは不明だが、過去のサン・ラ音源へメルツバウがハーシュ・ノイズをまみれさせる展開となった。テープ・コラージュやテープ音源をフィルター加工ではない。断続的に素材をループはさせているが。
 とても分かりやすいメルツバウが飾ったサン・ラな構造となった。

 なお本盤はLPとCDで内容が違う。これはCD盤。LP盤はCD(2)のバリエーションを3曲収録した。具体的には、
【LP Track listing】
A Granular Jazz Part 1 17:50
B1 Granular Jazz Part 3 13:22
B2 Granular Jazz Part 4 5:05

 こういうケース、最近多い。両方買えってか。LPはDLコード付きでも場所を取るのでなるべく買いたくない。そのうち、音源だけでも聴ける日が来るだろう。
 
 本盤で使われたサン・ラの音源は"Strange Strings"(1967)と"The Magic City"(1966)。なぜこれらが選ばれたか、は不明だ。別に特段、前衛寄りの盤ってわけではなかろうに。これら両方のタイトルに引っ掛けて、本盤は"Strange City"と題された。

<全曲感想>

1 Livid Sun Loop 32:11

 サン・ラの音源へハーシュ・ノイズが降り注ぐ展開がひとしきり。ノイズで塗りつぶさず、サン・ラの動きがわかる程度には原型を留めた。切り裂く電子音といななくシンセが無秩序に飛び交い、アーケストラの混沌を飾る。

 途中でシンセが出たり、ドラムの音もサン・ラだろうか。メルツバウの音素材をミックスか。
 経緯は払っている感じだが、サン・ラの再解釈や紹介ではないため音像はグイッとメルツバウ側へ引き寄せられてる。ただしコンガのアフリカンなビート、メロディの揺らめくスイング感などは、明らかにメルツバウが出さない要素。ノイズまみれのひしゃげたフリー・ジャズっぷりが新鮮で面白い。

 素材も若干は音色をいじっているかも。中盤でサックスが左右のチャンネルで窮屈に鳴る。デジタル加工したミックスの中で、濃密なノイズの奔流でもかろうじて輪郭がわかる。この辺は周波数帯がバッティングしないように、フィルター処理されてるかも。
 
 タイトルの"Livid Sun"に合致する曲名は、取り上げられた2枚のLPへは存在しない。メルツバウの作ったキーワード。Livid Sunとは「鉛色の太陽」ってとこか。サン・ラを青黒い太陽に例えたのかも知れぬ。

 メリハリや物語性は無い。冒頭と終盤にサックスの軋みが現れ、中間部分は電子鍵盤を強調した、かな。力押しノイズだけでなく、シンセと炸裂ハーシュの双方をバランスよく投入してる。

 次々にアイディアを詰め込み、ざっぷりハーシュの蜜を絡めて多彩な要素を込めた、素材とセッションする作品に仕上がった。ミックス的にはノイズの比率が強いけれど。
 終盤はノイズを引いてサン・ラ音源のみを出してフェイド・アウト。

2 Granular Jazz Part 2 34:03

 浮かび上がる電子音。いきなり曲が始まっている。LPのテイクも聴き比べてみたい。CD単体で聴くとこの曲はひとつながりの流れから中盤を抜き出したかのよう。
 (1)からハーシュ・ノイズを抜いて、テープ処理したコラージュ作品にメタル・ノイズをわずか足した感じ。複雑玄妙な世界だ。

 うねるシンセと波打つ音が回転して混ざる。サン・ラの素材がすっかり解体/変質されて、刺激的なノイズ作品に仕上がった。こっちのほうが僕はむしろ面白い。ハーシュをかぶせた(1)よりも。極初期のメルツバウ音源に通じる、無軌道で危うい音空間だ。
 音の中心が無く、激しいハーシュをわかりやすく載せてもいないため、微妙でつかみどころ無いサイケな空間にのんびりと身をゆだねられる。

 ビートも展開もコードもメロディも無い。うねる音とドラムのループがゴチャッと混ざりかき混ざる。
 音の構成要素は変わり続けた。高速回転とごおっと唸るノイズが次第にボリュームを上げてくる。テープの回転が旋律めいて鳴った。繰り返しかぼそく軋む。鳥が囀るように。
 このじわじわくるドラマティックな展開も見事。15分くらいかけてじっくりとメルツバウは世界のバランスを変えてきた。さらにサン・ラの素材を細かくばらまき、世界をなかなかシンプルにしない。混沌は続く。
 ドラムの音色も背後で鳴り、アーケストラっぽい軽く不安定なホーンの響きもかすかに聴こえる。鍵盤もいるかな?笛のエキゾティックな鳴りもした。

 そろそろハーシュの登場だ。フィルターで潰された音と軋み音が注がれる。全体をわしづかみ軽くひねってみた。シンセが現れ、野太く唸る。どこまでも混沌で、明るさと開放感の無い祝祭空間が生まれる。
 ハーシュはわずかひとときであり、しばらくして高速サンプリングの嵐に移っていった。
 終盤では笛が高らかに鳴り、シンセが溢れてノイズと溶けていく。様々な世界がメルツバウの手で描かれた。
 最後はジワッとメルツバウ寄りの音が充満し、急速にフェイドアウト。LP収録のパート3に続く、だろう。

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