Prince 「The Chocolate Invasion」(2004)

 密室的な楽曲を並べ、一人多重録音のファンクネスをクールに表現した。

 流通を模索しNPG Music ClubのWebを立ち上げ次々に音源をリリースしてた時期の、デジタル・アルバム。この時代はぼくの家でネット回線がさほど太くないのと、危なっかしい運営体制にカネを払うのためらっており、あまり実情がピンとこない。
 当時はプリンスが自己模倣に陥り、さほど音楽的に発展してないと誤解してたため、なおさら。エレクトロ仕立てで生演奏のダイナミズムも無いと勘違いしてた。

 改めて今聴くと、メロディこそ地味だが、詰まったファンクネスを開放してたと評価が変わった。演奏も打ち込みを中心ながら、リズムなども生演奏ループを駆使して録音の実験も次々行ってたと伺える。
 リリース的には00~01年に次々発表されてた曲の集大成。(8)のみが、当時に完全な新曲だった。そして(8)は改めて"3121"(2006)に再収録される。

 本タイトルを使った7枚組BOXでのCD発売企画もあったようだが、頓挫。時代が早かったのと、全て自分でコントロールを図ったせいだろう。製造、流通を外注に任せたらリリースまで至ってたろうに。惜しい。

 2015年にTidal配信が行われたとき、本盤がラインナップに含まれており驚愕した。「わかってる、プリンス」とありがたく思ったっけ。これで本盤が容易に聴けるようになった、と。 実際はプリンスの死であいまいになってるのが現状だが。

 本盤の特徴は、プリンスの多重録音に拘ったところ。より密やかなムードを強調した。この対比な盤がホーン隊も入れたバンド風の続編"The Slaughterhouse"(2004)と言える。
 そのわりに(10)でデュエットのごとくコンセプトを徹底させず、バラエティさを持たせるバランス感覚、もしくはあいまいさがプリンスでもある。

 (1)のシンセは打ち込みループ、リズムは生演奏かな。軋むようなSEが加えられ、バラードだが危うい不穏さを演出した。ボーカルが幾層にも重なりしっとり厚みを出すスローな曲。ファルセットから低音の地声までフルレンジのボーカルで描かれた。
 サンタナ、と一声入ってエレキギターのソロがリフレインにカブって始まる。

 重たいファンクでザクッとしたギターがアクセントの(2)は鍵盤を打ち込みループで硬質なリズムを作った。ドラムは生演奏のループかも。打ち込み風に細かいフレーズながら。
 多数のボーカルを乱立ダビングして、サビ後のフレーズも生ホーン隊が映えそうなのに。ホーン隊を入れずにクールだがパーソナルな雰囲気を作った。本盤のアルバム・タイトルはこの曲で連呼される。ハーモニーはプリンスだけでなく女性ハーモニーも加えて、わさわさっと荒々しい空気を作った。

 (3)はあえて派手さを抑えたアレンジ。リズムは重く、ベースはシンプル。ギターと鍵盤で最小限の飾りを付けた。サビ後のサックス・ソロ、そもそもリフでホーン隊が映えそうなのに、プリンスは削る。
 ボーカルの多重録音のみで鮮やかさを演出し、全体のムードは冷静なファンクネスで締めた。エレキギター・ソロは歪みでひとしきり。そしてブライトな音色でアドリブを繋げる。

 (4)は甘いミドル・テンポの曲。セグエ風のつぶやきから打ち込みビートと弾むシンセに載って、柔らかく歌われた。主旋律をハイトーンのファルセット、低音のつぶやきで同じラインを歌って厚みを出すプリンス流の多重録音ハーモニーが映えた。
 楽曲としてはシンプル。だがベースラインでコード感を漂わせる手法は、時に強烈な浮遊感を与えて、素晴らしくかっこいい。

 エレクトロ・ファンク仕立てな(5)。当時はこういう打ち込み中心で繰り返し中心のプリンス流ファンクが苦手だった。フロア対応をそのまま音盤へ封じ込めたのだが、ライブでないと今一つ単調に聴こえてしまって。
 聴きこむと細かいボーカル・テクニックを駆使した、引き算のファンクネスにしびれる。だんだんテンポアップと誤解する、サビ前の畳みかけも良い。
 80年代の味わいで、盛り上がる部分だけを抜き取ったかのよう。とはいえムードは硬く強く抑えっぱなしだが。

 (6)も大勢でグイグイ盛り上がる要素を多分に持ち合わせながら、プリンスは弾けさせない。ベースのうねりとシンプルなドラムで、ぐっとノリを係留した。ドラムは生演奏かな。
 幾本も重ねて同じラインを弾くエレキギターが、音程の違いで酩酊感ある厚みと揺らぎを作った。いっぽうでボーカルはぴたりとピッチが揃い、プラスティックな冷涼さを出す。

 (7)も打ち込みビートの硬質さで多重録音ボーカルが冴えた一曲。スピーディに曲が進み、あまり展開させず声の重ねややり取りでメリハリを付ける。聴きようによっては単調。だが今聴くと、丁寧なアレンジの工夫にしびれる。
 プリンスはずっと多重ボーカルにこだわっていたが、幅広い声域と声質の変化で見事に変化をつけていたんだ。当時は気づけなかったな・・・。残念。
 サビで一瞬メロディアスに雪崩れそうだが、すぐにドライなファンクへ戻ってしまう。
 なまめかしさを漂わす(8)はチープなリズムを敢えて前のほうに配置した。本盤でも特にメロディックな曲ながら、リズム・ボックスの乾いたビートが少し冷静な耳でこの曲を聴いてしまう。
 ストリングスやエレキギターが妖しくこの曲を飾るのに。プラスティックなリズム・トラックが堅苦しく目の前へ線を引く。
 "3121"のテイクはリズム強調でも、シンバルと乾いたパーカッションで、もっと肉感性を強調した。進化してる。

 (9)はラテン・パーカッションが軽快に鳴り、鍵盤とギターでアコースティックな耳ざわりのアレンジ。パーカッションはループかもしれない。メロウなバラード路線でソプラノ・サックスも入る。
 ここまでタイトでジャストな世界を密やかに作ってきたのに。一転してラウンジBGMみたいなインスト曲を混ぜるとは。よくわからない。
 NPGのシングル"The Daisy Chain"のB面曲でもリリースされた。
 
 アルバム最後は7分にもわたる大曲。ちょっとモタるシンバルに鍵盤中心のアレンジ。これも80年代のアウトテイクっぽいメロディ・ラインだ。録音は00年位かもしれないが。
 二番はアンジー・ストーンにボーカルを完全に委ね、彼女への提供曲みたくもある。でも歌の魅力で言うと、やはりプリンスの粘る声がベスト。
 ゴスペル的なハーモニーをこじんまりまとめた。大サビでメロディは魅力的に跳ねるが、歌声は加工を施して今一つ華がない。

 改めて聴いて、やはり楽曲的には地味なところや内省的な場面がいくつも。他の時代に比べて、NPG Music Club時代はキャッチーさを敢えて抑えた気がする。
 だが、これもプリンスの魅力の一つ。アレンジの技は聴きどころが多数あり。この盤が一刻も早く、容易に聴ける形になって欲しい。

Track listing:
1.When Eye Lay My Hands On U (3:41)
2.Judas Smile (6:34)
3.Supercute (4:19)
4.Underneath The Cream (4:01)
5.Sexmesexmenot (5:42)
6.Vavoom (4:36)
7.High (5:05)
8.The Dance (4:40)
9.Gamillah (3:18)
10.U Make My Sun Shine (7:06)

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