藤井郷子Tobira 「Yamiyo Ni Karasu」(2015)

 凛としたジャズ。フリーと構築美が交錯したTobira名義の1stアルバム。

 「闇夜に鴉」と邦題をアルファベットでつけ、バンド名も"扉"だろう。オリエンタルな風味を意識か。
 
 藤井郷子は膨大なアルバムをリリースし、似たような編成でメンバーもいろいろ。
 ライブ活動を意識してと想像するが、逆にバンドごとのコンセプトを掴みづらい。音楽の方向性よりもまず、メンバーの違いでサウンドが異なっているような。

 Tobiraは例えば吉田達也や早川岳晴との藤井郷子カルテットほど荒々しくなく、より構築されたジャズが狙いかな。
 なお他に藤井が率いるカルテット編成にはFour、Min-Yoh Ensemble、ma-do、KAZEなどもある。
 
 Tobiraのメンバーは藤井郷子New Trioに田村夏樹が加わった形。New Trioでは"Spring Storm"(2013)をリリースあり。ここでもメンバーの共通性がみられる。
 パートナーである田村との息はもちろんそろっており、本バンドでもアンサンブルに危うさはない。2014年6月17日にNYで録音された。

 藤井の硬質で涼やかな美学が本盤には詰まった。疾走でなく落ち着き。偶発でなく構成美。変拍子満載の楽曲を端正に描く。
 井谷のドラムは手数多いし、ニコルソンのベースは骨太だ。けれども確かに爆発っぷりや剛腕ぶりが吉田や早川とは異なる。メンバーによる違いがくっきり描かれた。

 サウンドの基本は藤井の美学でくっきりと固まっている。スリリングな引き締まりと、流麗さと唐突に飛ぶ幅広いメロディだ。たぶんすべてが、このバンド向けに書かれた藤井の新曲。

 かなり構成されたアレンジで、テーマからソロ回しもしくはフリーで疾走ではない。4人が空白を埋めるスタイルを取らず、かなりスッキリと見通し良い音像を作った。

 強烈にフリーなトランペットが疾走するが、リズム隊とフロントの単純な対比構造にはならない。アンサンブル一丸となって互いに見せ場を作り合う。ピアノの内部奏法やベースやトランペットの特殊奏法なども頻出した。 
 メロディアスさと前衛の双方要素が、くるくると入れ替わり登場した。固定観念やイメージに縛られない。その一方でコントロールを失わず、かっちりアレンジされている。

 それが本盤の魅力か。
 藤井や田村の盤は正直、取っつきにくい。ストイックな姿勢を聴き手に求める。
 だが聴き始めたら、自由な実験精神とリリカルな優しさ、確かなテクニックに裏打ちされた、奔放な演奏に引き込まれるのが常だ。
 聴いてくうちに奏者自身の生きざまに惹かれる。膨大なリリースを行いながらも、決して同じことを繰り返さない。バリエーションにも留まらない。
 常に新しいことを追う。本盤も聴きこめば、さらに新しい魅力へ気づけるはず。

 本盤のPVがあった。ブエノスアイレスで15年11月11日にライブした映像の断片も貼っておこう。
 

Track listing:
1 Hanabi 13:53
2 Run After A Shadow 9:58
3 Fuki 3:58
4 Wind Dance 6:39
5 Centrifugal Force 9:49
6 Potential Energy 9:39
7 Yamiyo Ni Karasu 4:10

Personnel:
Piano - 藤井聡子
Trumpet - 田村夏樹
Bass - Todd Nicholson
Drums, Percussion - 井谷享志
Recorded, Mixed, Mastered By - Max Ross

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