Hanakisasage (2016:Old Captain)

 ハーシュ・ノイズの多様性を見せつけた一枚。静と動をノイズにまみれさせ、メルツバウの持ち味を生かしつつ、新たな風景を作った。

Recorded and Mixed at Munemihouse, Tokyo 2014-2016
All Music by Masami Akita

 2年間かけた音源を一枚のアルバムに。次々に作品化するメルツバウにしては珍しいクレジットだ。2曲収録のそれぞれが別の時期に録音、という意味か。過去の音素材を現在に再加工したということか。想像が膨らむ。

 タイトルの"Hanakisasage"とは日本の希少植物、とある。ノウゼンカズラ科キササゲ属のハナキササゲのことか。
 (2)のカカポとはニュージーランドに生息する飛べないオウムのこと。こちらは英Oaken Palaceレーベルより同じ2016年にLPで"Kakapo"がリリースされた。それに次ぐ作品のようだ。
 
 本盤はウクライナのレーベルから発売された。300枚限定のデジパック。どこかの庭園らしき風景で、秋田昌美自身が撮影/デザインした写真が使われた。

1. Hanakisasage (34:10)

 透明感あるハーシュの響きが一面に広がった。低音から高音まで一通りノイズ成分が含まれてそうだが、押しつぶす重圧感よりも隙間がところどころあるように感じる。薄い網を目にしてるかのよう。
 決して硬質でなく、しかし突き破る弱さは無い。

 複数の音素材で作られており、一面のドローンへ細かったり粘ったりする電子音が浮かんでは消える。大きなキャンパスの上で複数の色が踊るように。
 軋みながら震える電子音は広がりを持ち、奥行きと深さが広がる。前へ炸裂よりも後ろへ上へどんどんと世界が広がるかのよう。

 持続する世界は高らかに拡大した。滑らかかつ涼やかにノイズが広がる。新たなノイズで糸目が揺れ、でこぼこする。だが細かい変化もすべて呑み込み、鷹揚かつ雄大に浮かんだ。
 変化はし続ける。しかし表皮の色合いや厚み、表情は変わるけれど大きな流れは一定だ。すべてを受け入れ、吸収して新たな刺激を求めた。

 歪み、揺らぎ、弾み、震える。それらのノイズはキュートな面持ちでハーシュの表面に吸収された。強力な暴れ具合も、音色は中空な軽みを持つ。
 土台の広がりもドローン一辺倒ではない。大きく音程を変え、動きを持たせた。すなわち変化し続けるメルツバウの本領を発揮しつつ、すっきりヌケの良い、しなやかな伸びを本曲では聴ける。

 終盤では沸き立ちが粘り、より生命力を増した予兆。これをひとしきり提示して、曲はフェイド・アウトで終わる。シンセが加速し、うっすら神々しさを滲ませて。

2. Kakapo 2 (20:40)

 一転してリズミック。規則正しい緩やかな4つ打ちをベースに幾本ものシンセがしなだれかかり、強い振動が地を震わせた。メカニカルな世界とアナログな響きが小宇宙をたちまち創る。
 入り乱れたノイズが複雑な線と柱の構造を描き、広がりあるハーシュが壁を塗った。
 絵画的な鮮やかさを持ち、凶悪さより清々しい凛々しさを描いた。破壊する暴力性よりも、築き上げるパワーが噴出した。

 基本世界の構造はミニマル。ブレずに電子音が明確な小節感を持つ。だが構成要素はだんだんと変貌し、ふと気づくとしばらく前と違うノイズたちが目の前にいる。
 足を動かさずとも風景はみるみる変貌した。

 6分過ぎに濃密な噴出を見せたハーシュ。極微小な細片がまとまり、幾度か吹き上げた。太さ一辺倒ではない。8分過ぎには細く痙攣するノイズも小刻みに叩きつけた。
 それらのノイズ・スプレーは世界へ定着しない。新たな音要素が現れ、世界を一定の色へ染めない。
 みりみりと回転を続ける、電子音の基本ビートはそのままに。

 激しく鳴っても尖った音が埋め尽くさず、どこか落ち着きある風景だ。
 11分過ぎにいったん音像はクリアに整理された。

 サイレンめいた電子音が緊迫さを出す。数本の野太い響きがマシンガンのごとく打ち鳴らされ、鋼鉄のロープみたいに世界を縛っていく。構成要素はどんどん増え、たちまち濃密に粘る。
 ぐっと前へ出るサイレンの音。規則正しい音色が厳しく轟いた。

 足を止めて警告が耳へ叩き込まれる。ハーシュの暴れるノイズが振りまかれても、サイレンを突き崩せない。混沌の闇へ引きずりこもうとして、それでもサイレンは存在感を明瞭に主張した。
 じわっとフェイド・アウト。うねりのノイズだけが小さく強調され、幕。

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